渚のトランジスタグラマー

 朝5時。


 硬派なオタクの朝は早い。


 ではなくて、今日はレヴナント・ブリゲイド夏の社員旅行の一日目。


 集合時間に間に合わせる為に早起きをしたのだ。


 日課のランニングをする為に外へ出る。


 探索者として強くなるために、毎日こなしてきたことだ。


 これで、何故デブっているのか、それが分からない。


 早朝の薄明の中を軽快に飛ばしていく。


 夏でもこの時間帯は湿度も無くて、比較的に涼しかった。


 家に戻ると、


 「え!?お兄ちゃんが早起きしてるんだけど……キモ」


 妹の由波ゆなみと洗面所で鉢合わせる。


 由波は中学三年生の剣道部首相の絶賛反抗期。


 平気で兄にちくちく言葉を吐く。


 「今日から千空さんとこの社員旅行に行くって言ってただろ?」

 「そか。夏休みらしいイベントとか似合わないから忘れてた」

 「おい」


 俺は水道で手を洗う。


 「――お前は、今日最後の大会なんだろ?悔いの無いようにしろよ」

 「お兄ちゃんに言われなくても分かってますー!べー」


 無視をされない分、兄妹関係は良好と言った所か。


 俺は部屋に戻ると忘れ物が無いか確認をしてから、スーツケースを持って家を出た。



 ※※※



 八王子駅前。


 春沢達は既にいた。


 「鱶野おっそーい」

 「ざこざこおにーさん、やっと来たー♪」

 「おはよ、たっくん」

 「これで揃ったわね」


 遅いと言っても、集合時間10分前である。


 「みんな、はよー。あれ、今日は黄昏くんじゃないんだ」


 近くに停めてある、ワインレッドのランドクルーザーを見た。


 源さんの車だ。


 「当たり前でしょ。あんなので遠出したら、海に着く前に三途の川よー」

 「た、確かに……」

 「よぅし!全員揃った事だし、皆共乗り込めーい!!」

 「「おーう!!!」」


 のっけからテンションマックスの千空さんに、春沢と姫苗ちゃんが続いていく。


 千空さんの手には、既にストロングなアルコール飲料が握られていた。


 そう言う事か――。


 源さんはやれやれと言った感じで手を横にする。


 ……。


 ……。……。


 ……。……。……。


 道中の約二時間の道のりは実に快適だった。


 途中、高速道路で煽り運転をする車を何台か成敗したり、「アタシ峠じゃ、ブレーキを使わない主義なの」とか、パトカーを振り切ったりしたりした気もするが気にしない。


 命があれば、それで御の字なのだ。


 「「「「し、死ぬかと思ったーーーー!!!!」」」」

 「あら、失礼ねー。ちゃんと安全運転だったじゃない」


 どこがだ――!?


 「でも、それだけに目に映るこの大海原の感動もひとしお……。オロロロロロロ!」


 美しい熱海のオーシャンビューを前に、千空さんの口からは、虹のナイアガラがあふれ出す。


 「あ!」

 「ちょ!?千空ちゃん!!?」

 「もー!おねーちゃん、きったなーい」

 「あれくらいでだらしないわねー。朝っぱらから飲んだくれるからよー?」


 レブナント・ブリゲイドの社員旅行は、千空さんの介抱から始まった。



 ※※※



 少しして、復活した千空さんと春沢達が水着に着替えて集結した。


 「おっまたせー!いやー失敬失敬……(てへぺろ)。――と、どうだー?少年!?今日は美女と美少女に囲まれた感想は!??」

 「鱶野ー、視線がやらしーぞー???」

 「おにーさん、こわっ……wケダモノーwww」


 女性陣は、ここぞと俺を揶揄った。


 「誰もそんな目付きしとらんわ!」


 白ビキニの春沢、千空さんはブルーのクロスホルターで姫苗ちゃんはピンクのワンピースだ。可愛いね。


 「あらー、良かったじゃなーい」

 「ひぃっ!?」


 スナック感覚で尻を揉みしだかれる。


 俺の尻は、そんなに安くないんだから――!


 俺の隣には、えぐい角度の真っ赤な海パンを履いている源さん。


 その過渡な食い込みは絶対強者の証だ。


 身の危険を感じ下半身がざわつく。こ、怖えぇ――。


 そして、千空さんの隣には、ショートヘアーの小柄な女の子が。


 迷子かな――?


 「千空さん、その子は?迷子……???」

 「誰が迷子だー!」

 「え!?」

 「あ、ごめーん!たっくんには伝えてなかったわ。この人が明日のクライアント様、鞍馬環さんでーす!!拍手ー!!!」

 「鞍馬環でーす!皆さん、環ちゃんって気軽に呼んでねー!!」


 パチパチパチと自然な流れで拍手が起こる。


 「雇い主って……まさか、子供だったのか……」

 「失礼な!ちゃんと成人してるんだからー!!」


 環さんを跳ねて抗議をする。


 着ている水着は、黒いモノキニというビキニの一種。


 へその部分はぱっくり穴が空いている。


 確かに、子供にしては大人っぽかった。


 それに、体つきもトランジスタグラマーと言うやつだろうか。


 出るとこは出ていて、春沢と互角といったところだ。


 跳ねるたびに、二つのスイカが重そうに弾む。


 というか、手には千空さんとお揃いでアルコール飲料が握られていた。


 無意識に視界に入れようとしなかったのだ。


 あんたら、海水浴を楽しめよ――。


 

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