スイムスーツラプソディー3
「ねえねえー!次はあれにしよ!?」
春沢が少し先のカラフルな看板を指差した。
「え?お前はまだ食うのか??」
「お昼時だしねー」
確かにそうだが。
ここまでに俺達は、タピオカドリンクやトルネードポテト、チョロスにジェラートを平らげていた。
最早、完全に食べ歩きである。
春沢は体格に似合わず、本当に良く食べる。
俺の場合は栄養が腹に行くが、コイツのは一体どうなっているのだろう。
俺は春沢の身体を見渡した。やはり、そこか――。
ある一点を見つめ、一つの結論に至る。
このやんちゃボディは、こうやって育っていったに違いない。
「ね、良いっしょ!?」
春沢の問いかけに。
不意に目が合ってしまう。
一瞬。
その吸い込まれそうな瞳に釘付けになるが、堪えきれずに視線を逸らした。
「あ……、」
「ん?」
「し、仕方ない奴だなー」
今日はいつも以上に調子が狂う。
そして、次の標的はクレープ屋だ。
気が付くと通りには沢山のカップルで溢れている。
俺達もそういう風に見えてしまっているのだろうか――。
春沢は、気にせずに店の方に進んでいく。
店前には、30種類くらいのメニューが書かれたパネルが置いてある。
メニュー名が最近のラノベのタイトルくらい長い。
ラノベ界隈の流行がこんな所にまで……。波及効果と言うやつか。
更に、その横には別のパネルが有り、デカデカと“カップル割り10%OFF!!!”と書かれていた。
どうやら、カップルで二つ以上商品を注文すると安くなるらしい。
まぁ、俺達には関係ないか――。
「お!カップル割りだってさー、これにしよーぜ?」
「はぁ!?」
あろうことか、春沢はこのカップル割りを利用しようとしていた。
「いや……、ばっかおめぇ、おいらたちゃそんなんじゃ……、つまりその……てやんでぇ!??」
今日一番に取り乱す。
「え?なんで急に江戸っ子風??」
「だから……、良いのか!?俺とそーゆー仲に見られても……」
「だいじょーぶだってー、バレないっしょ!」
いや、そういう意味じゃないんだが――。
――結局俺達は、カップル割りを利用したのだ。
春沢はの手には、“イチゴだけにしようとしたら、バズって生クリームとチーズも入っちゃいました!”が。
俺達は両手に、“そんなバナナ!チョコとカスタードだらけと言ったってもう遅い!!”と“チョコだけじゃなくてアーモンドも!?最強カスタード無双!!”が握られていた。
「鱶野ふたつもずるーい!」
「別にお前だって頼めば良かったろ」
「流石にそんなに入らないしー」
「鱶野デブずりぃ!」
なんだそりゃ――。
まぁ確かに大食いは俺の特権である。
食べるとなれば容赦はしないのだ。
「じーーーーー」
春沢は俺のクレープを見つめている。
「――味見したいなら、好きにしろ」
俺は手を、春沢の方に向けた。
「やったー!!!ありがと!はむっ♡」
俺も慣れてきて、関節キスとか意識しなくなっていた。
というか、餌付けしている飼育員みたいで楽しくなってきた。
「鱶野と食べ歩くと、沢山味見出来てたのしー!また、来よーね!!」
「お……、おおう……」
ん?今なんて??またがあるのか――?
……。
……。……。
……。……。……。
一息ついて食べようと、休憩出来そうなスペースを探す。
見渡してみると、アニメのポスターや等身大パネルが目についた。
ここにも、こんなものがあるのか――。
それだけではない。
目を凝らせば、他にもアニメとタイアップしたカフェや、コスプレ喫茶などもある。
そうか――。
俺は、陽キャと言うものをまだあまりよく分かっていなかったのかもしれない。
そんな事をふと思う。
陽キャだってアニメや漫画を嗜むのだ。
今日の原宿にしても、陰キャオタクの俺でも十分に楽しめた。
俺が思っているよりも、陽キャも陰キャもそんなに違いは無いのだ。と、横にいる春沢をみて、そう思う。
そうまるで、人間と魔族の様に。
〔壁なんて、自分で決めてただけだ♪〕
どこからか、聴いたことのある歌詞が聴こえてくる。
「む!?」
この歌は!
俺は、音のする方へ視線を向けた。
「“ソロモン72”の限定ショップ……だと……!?」
そこには、俺の信奉する、ガールズロックアイドルグループ、ソロモン72の期間限定ショップがあった。
まさか、こんな所に出店されていたとは、完全にリサーチ不足だった。
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