自己進化超生体

 「ええ!?48号君、この人本当に魔王様なんですか!!?」

 

 如何やらフェスタシールはまだ疑っていたようだった。


 「そうダ。この男は、見た目こそどこぞのゆるキャラだが、魔王の力を継承していル」


 誰がゆるキャラじゃ――。 


 いや、今はそんな事はどうでも良いのだ。


 それよりも、この全身青タイツをどうにかしなければ、先程から殺気のようなものをビンビンに感じる。


 大体、こいつは俺の事を知っているようだが、こちらにはそんな記憶が無い。


 「お前、随分と俺について詳しいじゃないか。俺としては、初対面なんだが?」

 「そうか……、姿では、初めてになるのカ……」


 そう言うと48号と呼ばれているモンスター?は、身体を伸縮し始めた。


 「なんか、うにょうにょし出してキモいんですけどぉ!!」

 「なにあれ!?キッモお!」


 それは、みるみるうちに見たことあるフォルムへと変貌を遂げた。


 「お前は!?」

 「夜天城以来だナ、リベリアル・ルシファード」

 「やっぱり、アビス・ストーカーか!!!」

 「ってまたローパーかよぉ!!」


名無しの騎士君『ええ!?変身したぁ!』

すたみな次郎『うへぇ……』

RB箱推し『きっしょ』

むっさ@海パン『あら、ちょっとセクシーかも♡』

ソロの紅茶『えぇ……』


 潰れた毬藻の様な身体にいやらしく輝く一つ目、そして、粘液たっぷりにうねる触手、こいつはやはりアビス・ストーカーだったのだ。


 では、さっきの姿は何だ――!?


 「アビス・ストーカーか、中々良い名前を貰ったものダ。には、そう呼ぶと良イ」

 「この形態だと……?」

 「如何にモ!ワタシ達に決まった形など存在しなイ。戦い、学び、進化し究極の生命体になる事こそがワタシ達の存在意義なのダ。これは、その過程に過ぎなイ……」


 あ……、なんか俺も思い出して来たぞ……。


 そう言えば、アリスヘイム中の生き物の細胞を一つにすれば最強のモンスターを創り出せるんじゃね?、みたいな企画書を見た。


 普段なら倫理的にアウトにするが、当時は戦時下のだからと承認した気がする。


 「自己進化超生体……。完成していたのか……!?」

 「そうダ!ワタシはその48号!!魔王リベリアル・ルシファード。今からワタシと勝負をしロ!そしての究極の進化への礎となるのダ!!」


 48号は、また形態を変えて人型になった。


 くっそ、なんで俺の周りにはこうやって好戦的な奴ばかり集まるんだ――!


 「おい、フェスタシール!アイツあんな事言ってるけど、良いのか!?」

 「魔王様にお任せしまーす。私ぃ、生者のいざこざには基本ノータッチなんでぇ。あ、でも一応48号君は、私の部下なのでお手柔らかにお願いしまーす」


 そう言ってフェスタシールは、消えてしまった。


 「――しゃーないか……。折角だから撮れ高たんまり稼がせて貰うぜ!!」

 「いいぞー☆タクミおにーさん頑張れー♡」


 俺は、支給された片手剣を構えた。


 「ってわけだから、姫苗ちゃん、魔術使っても良い……?」

 「うわwおにーさん、なっさけなーいwww駄目でーすw」


ひめめーめひーめめ『ざこニキ根性見せろ!』

みぎよりレッドロード『www』

姫ちゃんぱぱ『ざこニキ頑張れ!!』

ひめちゃん親衛隊『w』

姫星観測隊員『いけいけー!』


 くぅ……。「ケガしたら悲しいよ」とか言ってたじゃん――。


 いや、今の姫苗ちゃんは、視聴者が求める映像を届けるために、敢えて心を鬼にしたのだ。


 俺もそれに答えなくては――。


 「48号よ。この魔王に牙向く事の愚かさを、身をもって知るが良い!」

 「望む所ダ」


 48号は、両足を開いて重心を低くした。


 戦闘態勢に入ったのだ。


 「ちょっとぉ、その前にウチの事降ろしてよー!」


 春沢は、身体を揺らして抵抗している。


 そろそろ、服は溶かされ下着も見えてきそうだった。


 不味い。姫苗ちゃんの配信がBANされることは何としても塞がなければ――。


 「駄目ダ。お前は後で私が楽しム」


 どうやら、人型でもローパーとしての修正は残っている様だ。


 と、言うか、究極の生命体にそれはいるのか――?


 甚だ疑問である。


 「最近のウチ、こーゆーのばっかじゃん!もー鱶野、ちゃんと勝ってよね!?」

 「当たり前だ!誰に言っている!!」


 ビュンと、触手が二本、波打ちながら襲い来る。


 俺はサイドステップを織り交ぜながら、華麗に避けて進む。


 狭い参道を利用したつもりだろうが、俺にはそんな小細工通用しない。


 「残念だったなぁ!」

 「おにーさん!いいぞー!!」


 俺は、動けるデブなのだ――!


 続けて、三本目、四本目と足元を狙いの触手を片手剣で迎撃していく。


 「ぬるいわ!」


 五本目、六本目。


 立体的な攻撃ではあるが、芸が無い。


 蝶のように舞い切り払った。


 もう直ぐ、俺の間合いに入る。


 「口ほどにも無いな!」

 「馬鹿メ!」


 スルリ。


 「なぁ!?」


姫ちゃんぱぱ『あ……』

ひめちゃん親衛隊『まっず……』

姫星観測隊員『ピーンチ!』


 「たっくんダッサーいw」


 足元を滑らせて一回転する。


 身体を丸め受け身を取ってダメージを抑えた。


 何だか身体中がヌメヌメする。


 さっきのネクロスライムの破片か――?


 いや、違う――!!


 これは……、奴の粘液ローション!?


 「貴様ぁ!正気か!?」

 「ははははは……!ようこそ……、」


 目の前に広がるのは、奴が作り出したローションのバトルフィールド。


 「ワタシの聖域へ」


 それは、一度足を踏み入れたら二度と逃れられない、蜘蛛の巣の様でもあった。


 姫苗ちゃんだって見てるんだぞ――!!


 ローションデスマッチは既に始まっていた。

 

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