ダンジョンのスレンダーマン

 「うぅ……。もっと他の倒し方は無かったわけ……?」

 「仕方ないだろ?ミッションで縛り中なんだから……」


 俺達は、ネクロスライムの破片でビショビショである。


 ネクロスライムは、腐った死体なども平気で捕食するので、何だか少し生臭く、気分は最悪だ。


 早く帰ってシャワーを浴びたい――。


 「ちょっと、ちょっと!困りますって!!誰が掃除してると思ってるんですか!?」


 は、俺の肩を叩いて抗議をした。


 「きゅうぅぅぅぅ」


 そして、俺の後ろにいたはへなへなっとへたり込んでしまった。


 ん?


 では、俺の肩を叩いたのは誰だろう――?


 肩を叩いてきた方に視線を移動する。


 「でっっっ!?」

 「で?」


みぎよりレッドロード『出たーーーーー!』

ひめめーめひーめめ『出たーーーーー!』

姫星観測隊員『ひいいいい!?』

名無しの蛍火『うっそぉ!?』

すたみな次郎『ぎゃあああああ!』

姫ちゃんぱぱ『出たあああ!』

りりか@ちょいぽちゃ『いやあああん!』

ひめちゃん親衛隊『お化けええええ!』

最速の牛歩『恨めしやあああああ!』


 「えええええ!?ひめな、本物の幽霊初めて見たー!」

 「出たあああああああ!?」


 これは、予想外の事態に驚いただけで、ビビったわけでは無いのだ。絶対――。


 「何が、“出たあああああああ!?”ですか!こっちからしたら貴方達が出たあああってもんですよ!!」


 幽霊は、白銀の髪をした女性で耳が長かった。


 身体が半透明だが、足はある様だ。


 しかし、死者の魂と言う割には、元気が良い。


 むむ?


 こ奴見覚えがあるような……?


 「お前、“墓守のフェスタシール”か!」


姫星観測隊員『お、知り合いか?』

あああ『いや、幽霊に知り合いは居ないだろ!』

名無しの騎士君『でも、ざこニキ。継承者?とかいうのじゃないの?』

すたみな次郎『確かに、昔の知り合いとか』

RB箱推し『いやいや、流石に継承者とかは、ギャグっしょw』


 そうだ、思い出した――。こいつは、我が魔王軍の守護者で墓地のダンジョンの番人、墓守のフェスタシールだ。


 フェスタシールは元々、エルフだったが死んだ際に魂が霊体化し、精霊として現世に留まったのだ。


 それからは、守護者としてこの魔王軍大霊園の墓守を続けてきた。


 こいつのお陰で、いつも墓は清潔さが保たれていたのだ。


 しかも、底抜けに脳天k……明るくて、それが成仏出来ない魂達の慰みにもなった。


 まさか、ダンジョンと共に転移していたとは――。


 「え……?誰です!?もしかして私のファンとかですか……。いや、そーいうのはちょっと迷惑って言うか……」

 「いや!?俺だよ!?魔王のリベリアル・ルシファード!――実際はその転生者みたいな……!」

 「魔王様ぁー?」


 フェスタシールは藍色の目を細めて、凝視する。


 「確かに魔力の感じは、ですけど……、角どこいったんです?それにそんなに太ってましたっけぇ??てゆうか、滅茶苦茶人間じゃないですか???」


 くっそ――。


 覚醒すれば一発なのに――。


 因みに覚醒をしようとすると、肩に貼り付けられたビリビリするタイプの健康器具に、遠隔で姫苗ちゃんが電流を流す決まりとなっている。


 容赦ないぜ姫苗ちゃん――。


 駄目で元々でこれまでの経緯を軽く説明してみる。


 ……。


 ……。……。


 ……。……。……。


 「成程。聖女モルガリアの策略と……」


 人生の大半をノリで生きてきた元エルフ娘のフェスタシールでも、流石に目から疑いの文字は、まだ消えていない。


 「――確かに。ここ十数年、魔王様達はこの霊園に来てないですし、なんか変な格好の人間はたまに来るし、何かおかしいとは思ってはいましたが……」

 「お前、その間ずっとここの墓地を守っていてくれたのか?」


 フェスタシールは、主亡き後も、言いつけを守り役目を果たした来たのだ。


 流石は、俺が選んだ守護者である。


 「いや、まぁ他にやることなくて暇ですしー、他にも幽霊仲間は居ますし。あ!後、最近活きの良い新入り君も入って来たんですよー」

 「そ、そうか」


 なんか、意外と惰性でやっている感じだった。


 まぁ、フェスタシールは墓守ライフを満喫しているなら良しとしよう。


 「それは、良いんですけど。――お連れさんの事、ほっといて良いんですか?」

 「あ、しまった!」


 話込んでいて、春沢の事を放置していた。


 「きゃああああ!?」

 「あ……」


 嫌な予感しかしなかった。


 振り向くと、そこには人間の形をした、一つ目の全身青タイツみたいな物体が、背中から生えた触手で春沢を捉えていた。


 絶対こいつがスレンダーマンじゃないですかやだ――!


 「ざこざこおにーさん!すっごーい!!幽霊だけじゃなくて、ダンジョンのスレンダーマンも見つけるなんて、ひめなかんげきー♡」

 「うん、そうだね……、感激だね……」


駄菓子二等兵『こいつが、ダンジョンのスレンダーマン!?』

PARIPI『スレンダーマンキターーーーーー!』

姫ちゃんぱぱ『マジでいるのか』

ひめちゃん親衛隊『都市伝説じゃないんか』

名無しの蛍火『ギャル沢、また触手に捕まっとるやんけw』

ひめめーめひーめめ『安定のギャル沢である』

すたみな次郎『スレンダーマン(゚∀゚)キタコレ!!』


 見ただけで分かった。

 

 カルバートの置き土産に違いないと――。


 「ちょっ。もーなんだしー!お化けの次は、また触手!?」


 背中にある八本のうち、二本で春沢は巻きにされていた。


 例によって、触手から分泌された粘液で服が溶かされていた。


 まさか、こいつ。前回のアビス・ストーカーの親戚とかじゃないだろうな――?


 カルバートなら有り得てしまう所が怖い。


 「あ、駄目ですって“48号”君!知らない人を触手でウネウネしちゃ!!」

 「フェスタシール。あいつの事を知っているのか!?」

 「知ってるも何も、さっき話した墓守の新入り君です」

 「新入り君ってあいつはモンスターだろ!」

 「えー、でも私も分類上はモンスターですよ?」

 「確かにそうだが……」


 話が段々ややこしくなってきた。


 「飛んで火にいる夏の虫とは、正にこの事だナ!魔王リベリアル・ルシファード!!」


 しかも、お前も喋れるんかーい――!


 ダンジョンのスレンダーマンは無駄に良い声だった。

 

 


 


 

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