裏切りの刃

 歴史上の偉人。織田信長氏の最後は、家臣である明智光秀の裏切りが起因したものとして今日こんにちまで伝えられてきた。


 しかし、俺のかつての部下で、異世界の織田信長の可能性が高い、鬼兜のノブナガの最期は少し違っていた。


 これから向かおうとしている天守閣にてノブナガは、姫騎士直属の親衛隊との交戦中、ミツヒデにより後ろから刺されその命を散らしたのだ。


 「……これが、前世の僕の最期だったという訳さ。もしかしたら天守閣には、ミツヒデの亡霊でも居たりして」

 「何で、自分でフラグ立てちゃうんですか……」


皇帝のあとりえ『死亡フラグかな』

ジビエチャンネル『おおう……』

レタス検定準二級『地産地消しようとすな』


 はっはっはと、豪快に笑うノブナガ先生。


 俺達は、ノブナガ先生の話に耳を傾けながら、最後のゲートを目指し廊下を進んでいた。


 キュイッキュイッキュイッと、鴬張りの床が我々の存在を城全体に伝えている。


 まぁ、には、鴬などいなかったので“不死鳥フェニックス張り”とか呼んでいたが、


 春沢は、少し浮かない顔をしている。


 “姫騎士直属の親衛隊”と聞いて、かつての仲間を思い出しているのだろうか。


 「着いたら、そこはローパーちゃんの巣でした。とかもやめてよね」

 「春沢おまえもか……」


 春沢も、身震いしながらいらんフラグを立てていた。


いいい『流石、姐さんネタふりまで完璧でwww』

名無しの蛍火『よ、エロトラップ芸人!』


 「誰が、エロトラップ芸人じゃ!」

 

 すっかり蛍火とも仲良しである。


 「でもでも~、さっきのヌメヌメのお陰でお肌がすっごいスベスベになったかもぉ、一杯捕まえて化粧品に出来ないかなぁ?」


真夏のおでん『ほたるちゃんがこれ以上可愛く!?』

ほたる愛好家『流石にローパーはw』

うれふぇ『かしこい』


 立木の方は、あんな目に会っておきながら逞しいものだった。



 ※※※



 ようやく、ゲートを潜り。


 第21階層。


 天守閣に辿り着いた。


 全面が床張りで、至る所に剣戟の傷や焦げ跡があり、確かにここで壮絶な戦いがあったことを物語っていた。


 開け放たれた窓から見える景色は、アリスヘイムのモノではなく、ゲートの様なうねりがどこまでも続いていた。


 “虚数空間”と言うやつだろうか――?


 そして……、


 「……」


 松明に灯が燈り、フロア全体が照らされる。


しろくま『ん??』

㌔㍉㌔㍉『なんだ!?』

ないす暴徒『何かいるぞ!』


 中央で正座していた武者姿の死人が、俺達に気付くと立ち上がって太刀を抜いた。


 「……辰海君」

 「はい、」

 「ここは僕に任せて貰おうか……」

 「お願いします。」


 有無を言える感じではなかった。


 「ありがとう」


 ノブナガ先生はそう言うと、前に出て、太刀を抜いて鞘を投げ捨てる。


 「あれって……」

 「まさかぁ……」

 「ミツヒデだ」


 面頬めんぼおによって、顔の確認は出来ないが、あの角兎アルミラージの耳を模した兜飾りに、黒塗りの甲冑は間違いなくミツヒデの物だった。


 「やはりお主か、ミツヒデよ。わざわざ夜天城など持ち出して、もう一度、儂を討つつもりか?」


 「……」


 死人のミツヒデは答えない。代わりに両手で刀を構えた。


 「……おまえも最早、屍か。ならば、ノブナガがその未練ごと成仏させてくれよう。りべんじまっちのついでにな……」


 ノブナガ先生が太刀を右手に斜めに構え、一歩一歩近づいていく。


 始めはゆっくり。


 徐々に早まり。


 そして、


 疾走する。


 「きええええええええい!!!!」


 その勢いのまま、射程圏内に入り太刀を横に一閃を描く。


 「……」


 ミツヒデは、左足を引き、後ろへ身体を逃がして交わす。


 太刀によって斬られた空間は、ズズッと、音を立てて元に戻った。


QOPT『え!?』

#さん『ん?』

泥鯰『今なんか変じゃなかったか?』

皇帝のあとりえ『!?!?』


 “時空斬り”である。


 例えば、ギルバトスが“力”を極めた守護者であれば、鬼兜のノブナガは“技”を極めた守護者なのだ。


 ノブナガは戦いに太刀以外を用いない。


 何百年も己の向き合い、技を磨いて遂にはそれは、空間を斬るまでに洗練されたのだ。


 正確には、カルバート曰く、空間に存在する極小の結合部分を切断しているらしいが……。


 兎に角、ノブナガの斬撃に防御はまったくの無意味なのだ。


 「……」


 すかさず、残心の構えを取るノブナガ先生に剣戟を浴びせていく。


 時空斬りには、間合いと予備動作が必要だった。


 つまりは、超至近距離からでは発動できない。ミツヒデはその弱点を突くつもりだ。


 幾重にも太刀を打ち合う金属音が天守閣に響き続ける。


 先生が距離を取ろうとしても、ミツヒデがピタリと吸い付きそれを許さない。


 「思い出すのう、ミツヒデよ。お主は儂以上に生真面目で剣術にもそれが現れていたのお」


 「……」


 二人は一進一退の攻防を繰り広げる。


 「……残念だが、拙者はお主よりも少し狡賢ずるがしこいぞ?」


 すると、ノブナガ先生は力強く前に踏み込んだ。


 「秘儀、床返し!」


 「……!?」


 たちまち踏み込んだ床が跳ね上がり、ミツヒデの身体は後ろへと投げ出される。


 「貰ったぁあああああ!!!!!」


 踏み込んだ脚をそのままバネにして、下段からの逆袈裟斬りを放つ。


 「……!?……!」


 ミツヒデの断末魔が聞こえたようだった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る