卑劣な罠(エロトラップ)

 現在、俺達は第20階層。


 「……ごめんね。は僕も想定外だった」

 「春沢よ、どんな場面でも求められる最適解を出す貴様の。俺は支持するぞ」

 「あ?」

 「あ……、いや、すみません。調子こきました……」 

 「もー、ハルちゃんばっかり撮れ高あってずるいー」

 「ねぇ、蛍。それガチで言ってんの?ウチもーテンションだだ下がりなんですケド……??」

 

 立木は、春沢に見せ場を取られてプンプンしていた。


 上下に跳ねながら、動きでも訴えていて、その度に産卵期の鮭の腹の様な太股が弾み、それはそれで“撮れ高”な気もした。


真夏のおでん『怒ってるホタルちゃんも可愛いぞ』

しろくま『今日は、もしや神回なんじゃ……』

㌔㍉㌔㍉『ギャル沢の姉御、もう一丁頼んますw』


 立木よ、お前はを撮れ高と捉えるのか……。 


 と、言うのも。


 俺達は第17階層で死人相手に大立ち回りをした後、順調に18、19と、進んできたわけだが、その道中で春沢は何故か頻繁に罠を踏んでしまっていたのだ。


 それは最早、職人芸とも言えた。


 ローパー地獄に、着ている服だけ溶かすスライム地獄、やたら緊縛の芸術点の高い蜘蛛の糸トラップや丸吞みワーム……etc。


 春沢がそういう体質なのか、姫騎士という宿命が引き寄せるのか、はたまた天の采配か。


 春沢は毎度、視聴者の求める以上の仕事を果たしてみせた。一人だけ異様にテカテカしている。


 蛍火達もだんだんと悪ノリしていき、立木のライブチャンネルなのか、春沢のなのか分からなくなってきていたのだ。


 まぁ、立木の怒る理由も判らなくもない。


 それもこれも、我らが魔王軍技術顧問、錬金のカルバートが遺した負の遺産が原因である。


 その存在は、ノブナガ先生も知らされていなかったという。回避しようのない卑劣な罠エロトラップのオンパレードだった。


 「――さぁ、もう直ぐ最上階に繋がるゲートが見えてくるよ、皆気を引き締めて」


 ノブナガ先生が音頭を取る。まったく頼りになるぜ――。


 「はぁい」

 「うーっす」


QOPT『りょ』

#さん『はーい』

泥鯰『応』

皇帝のあとりえ『おk』


 対して、我がパーティーの反応はノリが軽い。


 この上は、最上階の天守閣。


 一体、何が待ち構えているのか分からないのだ。


 守護者に与えられたダンジョンはどれも最上級難易度だ。


 油断は最悪、


 死に繋がる。


 俺も、警告しておこう。


 「お前ら、ダンジョン探索をあんまり舐めるなよ。気を抜けば、その先にあるのは“死”なんだぞ!?」


 心を鬼にして、低い声色で脅すように言う。


 「……」

 「……」


 一同、緊張で引き締まる。


 「ここから先は、お遊びは一切禁止――、」


 カチッと、足元で音がした。


 「――え?」


 嫌な、予感がする。


 散々このパターンは、春沢がやっているのを見てきていた。


 おい、おい、おい、おい!マジか!!誰が魔王のサービスシーンなんて求めてるてーの――!!!


 「って!?なんでこっちいいいい!?」

 「ええ!?ホタルもぉ!!?」


うれふぇ『あ』

ソロの紅茶『ホタルちゃん危なーい』

レタス検定準二級『ギャル沢ニゲロー(棒読み)』

すたみな次郎『また……』


 俺が、兜の下で満更でもない顔で構えていると、後ろの方から悲鳴が聞こえる。


 天井裏から、だらりと緑の触手が垂れてきて、春沢と立木を絡めとった。


 「うぅん……」

 「あはぁうう……」


 春沢達の四肢は雁字搦がんじがらめにされて完全に自由を封じれらてしまう。


 ぎちぎちと、ぬめり気のある太い触手が彼女たちの股や胸の間を這っていき、ただでさえ、メリハリのある身体が締め上げられ、その肉感を更に誇張していった。


 恥ずかしさと、恐怖を帯びた吐息が漏れ、苦悶の表情を浮かべている。


 「あ、あ、だ……めぇ……」

 「い、いやぁ……、やだぁ……やだぁ……」


 分泌量の多い粘液で衣服は張り付き、紅みを増した皮膚の上を伝っていく。


 粘膜の持つ特性で、甲冑やコスプレ衣装がずるずると溶かされていった。


 更に、触手から魔力が吸い上げられていく、抵抗する力を奪うのだ。


 「ら、らめぇ……、助け……てぇ……。……。…………。――って、さっさと助けろぉ!このエロ魔族どもお!!!!」


 俺は、スマホで二人の痴態を激写するのに忙しかった。


 ノブナガ先生は、メモを取り出して、手元が見えないほどの速さで何かを書き留めている。


 「くっ、こうも人質を取られては、迂闊に手が出せん!けしからん!けしからんぞぉ!!後、もっと悔しそうな表情をくれ!!!」


 カシャッカシャッカシャッ


 「良いからさっさとやれし!!!」

 「済まない。職業柄、ネタに出来そうなことは直ぐメモする様にしているんだ。もう少し耐えてくれっ……」

 「いいわ、アンタら後で聖剣で斬る。」 


 春沢が冷たい視線で睨みつけた。


ないす暴徒『ん!?なんだ?』

一人でメタル『天井裏から何か見てるぞ』

いいい『眼?かな??』


 触手が伸びる天井裏の闇の向こうに、嫌らしく笑みに眼を細める一つ目が光った。


 俺とノブナガ先生もその深淵を覗く。


 「ローパー!?でも、スライムの様な特性も……」

 「あれは、カルバート実験生物だな。まさかそんなものまで仕込んでいるとは……」


 スライムの特性を持ち合わせた、新種のローパーだ。あのマッドサイエンティストならやりかねん。


 実にいい仕事した。


 褒めて遣わす――。

 

 「取り敢えず、“深淵から覗く者アビス・ストーカー”と呼称しましょう」

 「うん。無駄にカッコいいね……」

 「もぉおお、そんなの良いから早くぅー」

 「あぁ、ちょ、下着見えちゃう!?流石にそれはホタルもNGなんですけどぉ!!!?」


 いつの間にか、春沢達は、良い子には見せられない様なあられもない姿にひん剥かれていた。


 ズズッズズッと、徐々に触手が上に触手が引き上げられていく。


 「えぇ!?ちょお!!!??」


ジビエチャンネル『おい!』

手負いの蛍兵『あ、てめぇ』

ほたる愛好家『ふざけんな!』

しろくま『逃げるな!卑怯者!!!』


 あの野郎――!


 後は、一人で楽しむつもりだ。


 それは許せん――!!


 「……この魔王。そこまでの暴挙は許したつもりはないぞ!?」


 腰だめで、上下に手を構える。


 コオオオオオと、手の間に魔力が収束されていく。


 「ひっさぁあああああつ!」


 圧縮された黒い魔力の塊の中で、マナの粒子を超加速させて膨大なエネルギーを生成する。


 臨界を迎え、中心に小さな太陽が生まれたかのように、燦々と輝きだした。


 魔力の荷電粒子砲。


 「くらえぃ!!!!“魔王の一撃メガセリヲン・バスター”!!!!!!!!!!!」


 黒き正義の鉄槌が、悪しき魔を払う。


 いたいけな少女たちは、触手から解放されて自由を手にしたのだ。


 間もなくして、俺とノブナガ先生は、聖剣を振り回すギャル姫騎士に追いかけられた。

 

 


 

 

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