それぞれの覚悟2

 「皆、良い顔をしているな――」

 

 ふと、そんな言葉がノブナガ先生の口をつく。


 その鬼面の下できっと目を細めているだろう。


 守護者の中でも鬼兜のノブナガは、取り分け部下の育成に注力していた。


 手塩に掛けて育ててきた。自慢のつわもの達なのだ。


 「お調子者のヤヒチ。博打好きのゴヘイ。カミさんが怖いカネミツに、最近せがれが出来てすっかり親馬鹿になったギンジロウ……、お前たちの身体、直ぐに家族の元へ送ってやるぞ……」


 ノブナガ先生は、腰の太刀に手を掛ける。


 「――春沢、そこのコスプレ馬鹿は、お前が守れよ」


 俺は、後ろにいる春沢に立木のおもりを任せ。魔力を凝縮し、黒い剣を両手に携えた。


 「わ、わかってるし!」


 少しは、調子を取り戻しただろうか。


 「それでは、改めまして……!行きますか!!!」

 「応よ!!!!!」


 二人で並び立つ。


 「あ”あああああ”ー!」

 「あ”ああ”あ!あ”あ”!!!」


 俺達は左右に分かれて、死人の群れを殲滅していく。


 「おらぁ、どうした!どうした!どうしたぁ!今日は無礼講だぞ?君主相手だからと手を抜いとるのかぁ!!!!」


 畳の上を滑り、フィギュアスケート選手のような身のこなしで切り込んでいった。


 相手は死人でありながら、その太刀筋は美しい。ノブナガの教えた剣を身体が覚えているのだ。


 更に、連携の取れた波状攻撃がまるで一匹の竜の様に襲い掛かってくる。


 「ノブナガめ、厄介なものを残してくれる……だが!――奥義、夢幻乱舞!!!」


 左の剣で剣戟を受け流し、右の剣で切り崩していく。奥義とか言いているが今思いついた。


 俺が過ぎた後には、首を落とされた武者の亡骸が、どさりと、倒れて次々に灰になっていった。


 手には、肉を掻き分け骨を断つ時の鈍い感覚が、余韻として残る。


 いつになっても、嫌な感覚だ。


皇帝のあとりえ『つっよw』

ジビエチャンネル『なんだよこいつ!?そこらのトップⅮライバーより強いだろ』

すたみな次郎『いいぞ!タツミー!!!』

泥鯰『ったく、しゃーねぇ応援してやるぜ。頑張れよ!タツミ!』

一人でメタル『THUEEE!!!』


 そんなことを知らずに、コメント欄は好き勝手に流れていった。


 まぁ、応援されて悪い気はしないが。


 「きええええええい!」


 「あ”あ”ー!!!」


 「めええええん!」


 「あ”あ”あああ!!!」


 「どおおおおおう!」


 「あ”!あ”あああ”!!」


 「お前達!城の主が不在だったからと稽古をサボっていたのではあるまいな!?基本の“き”から、もう一度身体に叩き込んでくれる!!」


 ノブナガ先生は、鬼気迫る勢いで一人一人豪快に介錯していった。


 一太刀、一太刀。


 力強い踏み込みで、フロア全体が揺れるようだった。


 その姿には、思わず見とれてしまう程だ。


 「きゃああああ!なんか後ろの方からもきてるんですけどぉ!!ホタル超ピンチぃー!!!」


 春沢達の方から悲鳴が聞こえる。


真夏のおでん『ホタルちゃん!?』

名無しの蛍火『ホタルちゃんが危ない!!』

QOPT『守備はどうなってのぉ!?』

うれふぇ『マズい!』

レタス検定準二級『逃げてー!』


 「な、いつの間に!?」

 「むぅ!?“げーと”を通って他の階層からも来たのか!」


 前方の死人に気を取られていて、気付けなかった。


 俺達の魔力の匂いにつられたのだろうか、上下の階層からも死人たちが大挙して押し寄せる。


 春沢達は既に囲まれていた。


 更に、こちらの方にも死人が流れ込んできて、完全に分断されてしまう。



 ※※※



 「先生の前世の部下さんだって聞いてもぉ、やっぱりゾンビはゾンビだよぉ!!ハルちゃん怖いぃー!!」

 「……」


 立木蛍は、死人に恐怖して春沢真瑠璃の腕にしがみついた。


 「え……?ハルちゃん……?」

 

 蛍は、真瑠璃が小さく震えている事に気付く。その頬には大粒の汗が伝っていた。


 「ホント、情けないねったら……あんなの前世だったら何も考えずによゆーで斬ってたのに……」


 真瑠璃は悔しそうに下唇を噛む。


 「あ!あ”あ”あ”ー!ああああ!」

 「ああ”!あー」

 「ああ”ーああ”!」

 「ああ”ああ”!あ!ああ”ー!」


 死人たちは刀を振りあげながら、まるで名乗りを上げているように近づいて来る。

 

 「――私ね、小さい頃にもこんな風に神隠しに遭ったんだ……、でも、その時は怖くて何にも出来なくって泣いててさ……、それが悔しくて悔しくて。だから、強くなろうって思ったんだ……」

 「ハルちゃん……」


 10,20,30……と、取り囲む屍の数は尚も増していく。


 鱶野辰海達の姿は、それに埋もれて見えなくなった。


 「継承者ってのになってから、強くなったって勘違いしてたみたい……、でも違うってアイツらが教えてくれた……」


 「ああ”!あああああ”!!」


 「だから!」

 「ハルちゃん!?」


 真瑠璃の身体の震えがピタリと止まる。一歩前に踏み出した。


 「あ”あ”あ”ーあ”!あ”ーあ”あ”!」


 「もおーアンタらさっきからうっさい!ウチのダチにケガさせたら承知しないんだから!!」


 腰の位置に手を持って行き、剣を引き抜く体制を取る。力強く前を見据えた。


 「蛍、ウチも覚悟見せるからね!」

 「うん!」

 「聖剣――、」


 左手の魔導紋が煌々と暖かな光を生み出す。


 「抜刀!」


 聖剣が顕現し、収束した光が白い甲冑へと姿を変えた。


 「ギャル姫騎士、真瑠璃様の推参っしょ!――良いよ、皆ウチが相手したげる!!」


 凛として、剣を死人に向け宣言した。


 「あ”?ああ”!ああああ」

 「あああ”!?ああ”あ”!!」

 「あ”っっっ!」

 「あっっっ!?」

 「ああ”~♡」


 それに呼応するかのように、辰海達の方に向かっていた死人たちも反転していく。


 「っておい!貴様ら一体どこへ行く!?」

 「ちょぉおお!?だからってなんで一斉にこっち来るわけぇ!!!!??」


 一説によると、モンスターに襲われる割合は、男女の場合、女性の方が格段に高いらしい。


 それは、女性の方が魔力の質が高いからだとか。

 

 

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