それぞれの覚悟

 死人の眼は既に腐り落ちていたが、そのうろには黒い無念の想いが渦巻いているようにも見えた。


 こいつらは、かつてのノブナガの部下達だ。居なくなった城の主の代わりに城を守ってきたのだろう。


 この夜天城は、のままなのだ。


 あの日をもう一度やり直したい――。


 魂が消えても尚、その執念がこの武士もののふ達を、死人へと変えてしまったのだ。


 身に着けている鎧の劣化具合を見て、結構な時間が立っているとを分かった。  


 「あ”ああ!?あ”ああ”あ!!!」


#さん『こいつら、只のモンスターじゃない気がする……』

真夏のおでん『ほたるちゃん早く逃げないと!!!』

QOPT『逃げるって、どこにだよ!他もこんな感じなんだろ!?』

㌔㍉㌔㍉『うわ、見てるこっちまで寒気がしてきた……!』


 蛍火も状況の異常さに気付いてきた。


 「なにこれぇ!?人……?なの……??」

 「これは、ちょっとウチ無理なんですけど……」


 流石の春沢でもこれはきついか――。


みぎよりレッドロード『たつみ!お前の出番だ!!』


 以前の骸骨とはワケが違った。


 腐りつつあるが、筋肉や皮膚が残っている。


 魂は無いが、心が残っている。


 ノブナガの部下という事は、それは、そのまま俺の配下という事なのだ。


 俺は、こいつらの顔を覚えていた。


 こいつらは、


 紛れもない……、


 人間だ。


 これも、覚悟という訳か――。



 「……フ。フハハハハハ……、情けないな姫騎士よ!こいつら全部この魔王が頂いてしまうぞ!?」

 「は……、はぁ……!?アンタこんな時まで……」


 こっちだって勢いがないと少しきつい。これくらいは勘弁してほしかった。


 先生の方を見る。全身が震え、眼を見開いていた。


 口は大きく開かれていて何か言いたそうだったが、一つも声が発せられ無いようだ。


 「先生、良いですね?」

 「……。…………。あ……!?ああ……。あはは……、これじゃあ皆に笑われてしまうね」

 「……先生、」

 「……ごめん辰海君。ありがとう……」 


 先生は、目を瞑って深呼吸をした。


 「――でも、やっぱり……、ケジメくらいは着けるべきだよね」


 その目は、真っ直ぐ死人達へと向いている。


 「――彼らの相手を……、僕にもやらせてくれ……」

 「先生!」


 先生も、


 覚悟をしたのだ。


 今までダンジョンに関係ない暮らしをしていた人間が、モンスターに初めて立ち向かう。それはとても勇気が必要な事なのだ。


 俺もを思い出す。


 ただ、先生が震えているのは恐怖しているだけではないはずだ。


 先ほどの表情。この惨状を目の前に、やり場のない怒りと悲しみが湧いてきたからだろう。


 「先生……、いや、“鬼兜のノブナガ”よ。此奴らは十分使命を果たしてくれた。そう思わぬか?なれば、最期にもうひと暴れ、手向けの戦をくれてやろうではないか!?」

 「あぁ!……然り。……。――誠に然りぃ!!!」

 「百戦錬磨の猛き者どもよ、この魔王が相手してくれる。行くぞノブナガ!!」

 「――あい、仕った!遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!!この鬼兜のノブナガが、貴様らに、鬼神の一太刀にて最期の花道を用意しようぞ。恐れぬならばかかってこい!いざ参る!!!!!」


 「魔装降臨!!!!!」「明鏡止水!」


 黒い炎の様なオーラが俺を包み、黒い甲冑に身を包んだ暗黒騎士が姿を現す。


 俺は、漆黒のマントを翻し、死人たちを威嚇する。

 

 ふ――、決まったぜ。


 隣には覚醒した先生こと鬼兜のノブナガ、もとい、ノブナガ先生。


 白銀の甲冑に鬼の面。漆黒のマントに裏地は群青。


 少しお揃いでちょっと嬉しい。


 「えー!?すっごーい鱶野君!!」


ほたる愛好家『おおおおお!』

しろくま『なにこれ!?ナニコレ!!?』

ないす暴徒『え?継承者ってガチでいるん?』

㌔㍉㌔㍉『かっけえええええ』

泥鯰『まじか……』

皇帝のあとりえ『えええええ!!』

ジビエチャンネル『ええやん……』

レタス検定準二級『うっそ』

手負いの蛍兵『!?!?!?』


 「目の前で見せられると、さっきの話もちょっと信じちゃうかも!ねぇ、お腹のお肉どこ行ったの!?身長も伸びたよね2メートルくらいあるんじゃない!!?先生もぉ渋くてカッコいいです~!!あ、写真!撮っていーですか!?」


 俺達の変身を見て、立木はたちまち元気を取り戻して、テンションぶち上がりだ。


 お前は、さっきまではビビって静かだったろ、状況を考えろ!……ったくこれだから陽キャは――。


 コスプレイヤーのサガなのか、覚醒した衣装に興味深々である。


 「あ、うん……、そうだなこれ終わったら好きなだけいいぞ……」

 「ごめんね……、蛍ちゃんちょっとだけ下がって貰えると嬉しいかな、戦えない……」

 「すませぇーん!ホタル、ちょっとだけ暴走しちった!てへぺろ」

 「「……」」


 俺達の覚悟を返して欲しい。


真夏のおでん『ったく、こういう時でもくぁいいぜほたるちゃんはよお』

ほたる愛好家『ったく、今回だけだぞ』

ないす暴徒『ったく、いつでもホタルちゃんは全力投球なんだからw』

いいい『ったく、しゃーねぇなー』


 あと、こいつらもだ。これ以上、立木を甘やかすんじゃあない――。


「あ”ああ”あ”あー!!」

「あ”あ”あ!」

「あ”あ”あ”ーあ”!あ”ーあ”あ”!!」


 そんな事しているうちに、死人達はじりじりと距離を詰めて来ている。

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