ゲリラ配信、時々蛍火

 俺たちは、夜天城の10階層辺りに転送されていた。

 

 ここには、何度か訪問しているためおおよその地形は把握している。


 ただ、城と言っても一フロア当たりの面積は広く、サッカースタジアムくらいはある。


 間取りは、ふすまで細かく区切られていて、正しい道筋で通らないと一生上の階には移動できない仕組みだ。


 おまけに至る所に罠が仕掛けてあり、絡繰り屋敷の様な構造である。


 夜天城。


 それは、我が魔王軍が誇る一番の頭脳ブレインにして、頭のネジが二・三本外れた科学者マッドサイエンティスト“錬金のカルバート”が部下たちと共に、ブラック企業も真っ青の超過密スケジュールで築造した。


 天高くそびえる、移動要塞型迷宮ダンジョンの事だ。


 夜天城はこれまでの迷宮ダンジョンとは違い。


 一から人の手で作られた完全に人工のもので、最大の特徴は、移動できるという点にあった。

 

 今までの迷宮ダンジョンは、魔王城への進行を妨げるバリケード、つまりは、敵を待って守る事しかできなかったのだ。


 だが、夜天城の登場で、先んじて敵の進軍を阻む防衛線の構築が出来るようになり、こちらの被害は格段に抑えれるようになった。


 量産さえできていれば、魔王軍は完全無欠ともなれたかもしれないが、資源の関係上その願いは叶わなかった。


 「……って事なんだけど、これで理解して貰えたか?」


 俺は立木にも含めて軽く説明した。


 巻き込んでしまった以上ある程度の事は、理解しておいて貰った方がこちらも動きやすいからだ。

 

 まぁ、本人が信じる信じないの問題はあるが。


 「うぅん、急にってのは無理かなぁ……、あはは~」


 しものオタクギャルでも若干、引いていた。


 こういった突拍子も無い話には漫画やアニメで慣れているだろうが、現実にいざ起こると、案外受け入れられないのだ。


 「当然でしょ、ウチも自分が継承者じゃなかったら、こんなの信じないし……」

 「僕も昨日まではそんな感じだったし、気持ちは分かるよ」


 春沢と先生がフォローに入る。


 「蛍火の皆はどう思うー!?」


真夏のおでん『こんぽたー!んー分からんw』

名無しの蛍火『継承者って最近ネットで噂になってる、都市伝説でしょ』

ないす暴徒『そいつらロールプレイ系のⅮライバーじゃないの?』

ソロの紅茶『ほたるん大丈夫?怖くないの??』


 此奴らは、立木蛍もとい、コスプレイヤー“ほたる”の配信チャンネル視聴者でファンの“蛍火”である。


 立木は、コスプレ衣装を生配信する為にドローンカメラを持参していて、ちゃっかりゲリラ迷宮ダンジョン探索配信を始めたのだ。


 こんなことになるなら俺も持ってきていればよかった――。


 まぁ、こんな状況で!?と、一人反対する者はいたのだが。


 「ホタル達は今ぁこの迷宮ダンジョンを安全にする為にぃ、最上階を目指してます!」


うれふぇ『すごい!がんばれー!!』

皇帝のあとりえ『そうなのか!応援するぞー』

真夏のおでん『頑張れ。危なくなったらすぐ逃げるんだよ』


 「それでぇ皆にお願いなんだけど。この迷宮ダンジョンは、罠部屋と強い魔物モンスターだらけだからぁ、ホタル達が攻略するまで安全なところでじっとしていて欲しいって、他の神隠しに遭った人にも伝わるようにぃ拡散して欲しいんだ!」


 そう、注意喚起を兼ねた動画配信という事にして、春沢を上手く抱き込んだのだ。


 流石は春沢の友人という訳か、実に天晴れである――。


ほたる愛好家『ホタルちゃん偉い!』

しろくま『ったく、しょーがなねーな、任せてくれぃ』

㌔㍉㌔㍉『よーし、皆で拡散だ!!!』


 会場内でも腕にⅮギアをしている参加者は結構いたから、案外効果はあるかもしれない。


㌔㍉㌔㍉『豊徳院の配信にいたギャルとデブおるじゃん!……ってぴゅあろりはぁと先生!!???』

レタス検定準二級『え!?本物!』

一人でメタル『www!?』

QOPT『うっそ!?』

#さん『まじか』

泥鯰『こんぽたー!!』

皇帝のあとりえ『うわ!なんだこのパーティーわ!?』

ジビエチャンネル『すっごw』


 「わぁ皆気づいちゃった!そーだ、せっかくだから自己紹介もしとこっか。じゃぁ先生から」

 「はーい。どうも漫画家のぴゅあろりはぁとでーす。宜しくー?」


ないす暴徒『そっか今日、先生のサークルでお仕事してたんだっけ』

いいい『よろよろ』

名無しの蛍火『よろでーす』

QOPT『こんぽたー』


 やはり、先生は凄い。


 大体この手の異性の映り込みは匂わせだとかで、炎上に繋がりがちなのだ。


 だが先生の場合は、その人徳のお陰でそういった空気に全くならない、蛍火の反応も良好である。実に羨ましい――。


 「ほら、ハルちゃんもぉ」

 「……。春沢です。宜しく」


泥鯰『ギャル沢ぁ!』

#さん『ギャル沢おるやんけ!』

名無しの蛍火『よろよろ~』


 「っもお!ここでもそれ流行ってんのぉ!?」


 春沢災難である。


 次は俺か……。


 「ドーモ、『魔王タツミの真ダンジョン無双録。』ノタツミデース。コノ場ニハ偶然居合ワセマシタ。コラボトカジャナイデース」


 こういった場合、俺に求められるのは謙虚さである。


 出来るだけ立木との接点を薄くして、炎上に繋がるような言動は控えるのだ。


 それでいてチャンネルの宣伝はする。


 俺は登録者20万人の立木のチャンネルに便乗した、“売名野郎”を演じ切るのだ。


 というか、実際めちゃくちゃ宣伝はしたい――。


㌔㍉㌔㍉『売名しようとすなー!』

#さん『ずうずしいデブやんけ』

レタス検定準二級『おまえ、ホタルちゃん知名度を利用する気かぁ!?』

みぎよりレッドロード『皆さん気を付けてくだせぇ。こいつはなかなか狡猾なデブですぜ』

すたみな次郎『この売名デブ、ざこニキとか呼んでやると喜びますぜ』


 あまり受け入れられてはいないが、概ねこちらの思惑通りの反応になってくれた。


 しかし、たつらーまで湧いて来るとは。

 

 頼むから人様のチャンネルでは、大人しくしてくれよ――。


 「――兎に角、早くコアを停止するぞ。先生、道案内はお願いします!」

 「あぁ、任せてくれ。勝手知ったる我が城さ」


ないす暴徒『って、おまいが仕切のかーい!』

名無しの蛍火『大丈夫かぁ!?』

QOPT『ホタルちゃんをケガさせたら、チャンネル燃やしに行くからな』


 なんともやりづらい――。


 俺達は、先生の指示のもと次々に襖を開いて進んでいく。


 そして。


皇帝のあとりえ『!?』

手負いの蛍兵『魔物モンスターキターーーーーー』

レタス検定準二級『え?何!?落ち武者!!??』


 「あ”っああ”あ”ー!あ”ああ”!あ”ああ”!!」

 「あ”あ”!!あ”ああ”!あ”ああ”!」


 大広間に出ると大量の武者姿の死人アンデット


 俺達の行く手を阻むように待ち構えていた。


 


 

 


 

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