ノブナガちゃんの受難
そこにはなんと、『ノブナガちゃんの受難』に登場する“イエヤスちゃん”のコスプレをした、クラスメイトの立木蛍がプラカードを持って立っていた。通りゆく人々がスマホでちらほら写真を撮っている。
流石、“太腿の立木”と言った所か。腿の肉がぎちぎちにエナメルのハイソックスをイジメぬいていて実にけしからん。自分の持つ需要を最大限に活かしている所は、流石。伊達にコスプレイヤーを自称しているわけでは無いな――。
「うっそぉ、蛍じゃん!!あんたが今日出るってイベント、これだったの!?」
「わぁ!すごい偶然じゃん!?……でも、なんでぇハルちゃんと鱶野君が一緒にいるのぉ……?あ、もしかして私。邪魔した系???」
立木は、何かを察したかのように「しまった」という感じで口に手を当てている。何となくわざとらしい。
「はぁ!?ぜんっぜんそんなんじゃないし……!!」
「え?何々??」
残念な事に、俺は、こういった女子同士特有の会話の感じに着いていける程の対人スキルを持ち合わせていなかった。
「でもでもぉ、結構仲良さそうだよー?――それに、昨日の鱶野君の配信にも出てたじゃん。竜一君もハルちゃんの事、配信に誘ってたみたいなのに……」
「……なぬ!?」
実は、豊徳院の配信に映り込んで以来、俺のチャンネルもクラスの奴らに徐々に認知され始めていた。皆、最初は「あの陰キャの鱶野の事だしw」くらいの冷やかし気分で見始めたはずだ。だが、笠井戦での効果はあったらしく、表には出さないがクラスの奴らの俺に対する評価は良くも悪くも180°変わった。今や陰の注目の的になったのだ。
しかしまさか、豊徳院が春沢を配信に誘っていたとは――。これは、面白い話を聞けた。
「だ、だから違うって!私が夏休み前に鱶野の腕骨折させちゃって、それで手伝ってただけだし――!今日もそれで――」
「そうなの?鱶野君??」
「そうなのか!?春沢!!?」
「ちょ……、もおお!――こっち来て!!!」
春沢がヘッドロックをして、俺の顔を引き寄せた。そして、手で口元を遮ってコソコソと話し出す。柑橘系の良い匂いがする。
あ、これは。傍からみれば明らかに内緒話しているのがまる分かりな構図じゃないか!まさか、現実でその当事者になれるとは――。
「(ウチの話にちゃんと合わせて。鱶野も変な噂が立つの嫌でしょ?)」
「(それはそうだが……。そんなエロ漫画の導入みたいな言い訳を誰が信じる!?
「(はあぁ!?意味わかんない言ってないで、協力しろし!)」
「(……。!?)」
不意に春沢の胸が押し付けられて密着していることに気が付いてしまう。ここまでされては、男として助けてやらないわけにもいかない。
「(――。ふん……、仕方ない子猫ちゃんだぜ。今日だけだぞ?)」
「(えぇ……、なんか急にキモさが増したんですけど……。まぁ良いや。ちゃんと合わせてよね!)」
「(お安い御用さ☆)」
「(……)」
「ねぇ、二人ともぉそろそろ戻ってこーい」
放置されてた立木の嘆きが聞こえる。
「あぁ、悪い。急に折れた腕が疼き出してしまったようだぜ。ハーハッハッハ!」
「ふ、鱶野君なんかキャラ変わってない?」
「気のせいだ☆」
「……。てーゆーか、さっきまでそんなのしてたっけ?」
俺の右腕には、春沢のタオルで急ごしらえした
「……」
「……」
「……まぁ。そーゆー事にしておきますか」
信じた――!?いや、納得はしていない感じだ。取り敢えずは見逃してくれるらしい。
「そろそろ私も仕事に戻らないと……。鱶野君もぴゅあろり
「ん……?立木まさか……!?」
立木のプラカードには、“サークル『第六てんまおー』待機列最後尾”の文字が、というかコスプレ衣装もイエヤスちゃんだし。イレギュラーな状況で余裕がなくスルーしていた。
「先生と知り合いだったりするのか!?」
「え?たまたまレイヤーのつながりで声がかかっただけだよぉ」
す、凄い。そこそこ有名なレイヤーだと知っていたが、一戦級じゃないか――。
「あのぉ。『第六てんまおー』の待機列って――」
「あ、はぁい!こっちがそーでーす♡」
立木が仕事モードになると、俺達も待機列へと加わった。
※※※
待機列は進んでいき、20分くらいで自分の番となった。
「ノ、『ノブナガちゃんの受難設定集』一部お願いしまっす」
「はーい。いつも応援ありがとうね!サインはどうしますか?」
「表紙にお願いします」
憧れの人を前にして、緊張して声が上ずってしまう。どれぐらい緊張したかと言うと、初めてエロゲ売り場に足を踏み入れた時以上に緊張した。
春沢なんぞ連れて、チャラチャラした奴だと思われていないだろうか?
きっと大丈夫だ。先生は聖人なのだ。
ぴゅあろ
確かに、未成年でもネットを探せばエロ画像の一つや二つ簡単に手に入るが、所詮は外道。
しかし、先生は違う。王道にして真っ向勝負。合法的にエロを堪能させてくれる神の中の神。あらゆる方面からアプローチをして、少年誌という制約がまるで無いかのように、ハイクオリティなエロかわを世に発信し続けている天才なのだ!
しかも、見た目は豊徳院など足元にも及ばない程の爽やか系のイケメンだ。女子だけでなく男ですら魅了する罪づくりな人なのだ。
「あ、握手もしてもらっていいですか!?」
「勿論!」
こんなお願いにも快く応じてくれるなんて、先生、一生付いて行きまs……。
……!?
「うぅ!?」
おい、待てこの感覚は――!
いつぞやの春沢に触れた時と似たような感じだ。
「――ちょっと、ごめん!」
「は、はい!?」
「え?ちょ!?」
先生はサークルスペースから出てくると、俺の手を取って引っ張った。
「あの!?先生どこへ!??」
先生の隣にいた、売り子が困惑する。
「ちょっとトイレ休憩!」
「え!?じゃあその人は……?」
「連れション!」
「ウチを置いていくなしぃ!」
俺は、あれよあれよと暗がりに連れ込まれていった。
春沢も着いてきた。
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