変異体

 「キシャアアアア」


 鎧カマキリ変異体は、四本の鎌をプラグラムで精密に制御されている様な動作で、順番に振りかざしている。長い腕と短い腕の二つがあり、それぞれが近距離と遠距離に対応して、使い分けられていた。


 「まるで、中国映画のカンフーマスターだな」


 一見。大振りに思えるスイングも、長い腕と短い腕が嚙み合って隙が無い。

 Ⅾギアの示す脅威度はSランク。只の虫とは、侮れない。


 睨み合いになる。


バルクほるん『腕の動きヤッバ』

みぎよりレッドロード『Sランク魔物モンスター?おい、まじか!?』

あああ『一旦引くべきでは?』

駄菓子二等兵『いや、こいつらなら行けるかもしれん』


 「だったら下から!」


ひめめーめひーめめ『あ、行った!』


 痺れを切らした春沢は、突貫していく。


 「ちょっおま!ちぃ、しゃあなしだ!!」


 魔力弾で弾幕を張って頭上を援護する。その下を春沢が滑るように切り込んでいった。


 「せえええええい!!!!」


 聖剣が鎧カマキリの脚を捉え、「ぎぃい”い”ん」と、金属同士がぶつかり合うような衝突音が鳴り響く。


 「うっそ、かったぁ!?」


 困惑する春沢の背後を、別の脚が襲う。


 「ちょ!いぃぃぃ!?」


 寸での所で回避した。


オシャレ侍『あ……』

みぎよりレッドロード『まっず』

すたみな次郎『あちゃ~』

PARIPI『……』


 鎧カマキリ変異体の脚は、全七対の十四本。腕と同様、長短の二種類があり、役割分担されている。鋭利な棘に覆われていてそれだけで武器になっていた。

 更に、その表面には微細な毛が生えていてセンサーの役目をしているので、腹の下まで眼があるようなものだ。


 春沢はそんな脚の檻に閉じ込められたのだ。

 これでは、一対十四。聖剣と脚の一進一退の攻防。徐々に春沢は追い込まれていく。


 「もう、なんなのぉ!」

 「フハハハ、迂闊では無いのか春沢!」


 低空飛行で近づいて、俺は拳で脚の檻に風穴を開ける。


三人目の僕『お!タツミ!!』

29290213『いいぞ』

oni瓦『やるじゃん』


 俺はそのまま春沢はを抱きかかえて離脱する。


 「え、ちょっ……!?お、降ろせし」

 「うわ!飛行中に暴れんな!?」

 

 俺は、鎧カマキリから距離を取ると、春沢を降ろす。


 「こ、これで勝ったと思うなよ……!!!」

 「いや、意味わからんから」


 春沢は恥ずかしかったのか、赤面していた。魔王に助けられたのが悔しかったのだろうか。少しショックである。


 「……取り敢えずそこで見ておれ。王道と言うものを教えてやろう」


 男は黙って真っ向勝負。と、言うか相手にする本数が少ない分、こっちのが楽だ。俺は、鎧カマキリの上半身目掛け飛んでいく。


 「キシャアアアアア」

 「もう、見切っておるわ!」


 春沢が足元を攻撃してくれたおかげで、コイツの攻撃の速さに目が慣れた。

 間髪入れずに襲い来る鎌の波状攻撃を、ぬるりとかわしていく。


 「こいつで、とどめだあああ!!魔王殴殺撲滅拳!!!!!(魔力を込めた只のパンチ)」


最速の牛歩『いっけええええええ』

あああ『そこだああああ』

空中ブランコ『決めろ!タツミ!!!!』


 一瞬の隙をついて鎌の嵐を抜け出し、顔面へと拳を振り落とす。


 身体の芯に響くような打撃音が心地よい。


 が。


 「うっそ、かったぁ!?」


すたみな次郎『お前もか!』

孔掘る加藤『何しに来た!』

暗黒☩騎士ざまぁん『帰れ』

ひめめーめひーめめ『帰れ』

oni瓦『帰れ』

xcyuddfd『帰れ』


 「痛ってえええ!!!」

 「ちょっと、真似しないでくれます?」

 「う、うっしゃいわい」


 想像以上に硬かった――。少し涙が出る。流石、Sランク魔物モンスターだと褒めておこう。


 しかし――。


 「この魔王に恥をかかせおって……!」


 両の手を頭上高く振り上げる。

 放出する魔力を収束し、魔力で剣を形作る。


 「魔剣でと行きたいところだが、今日はコイツで勘弁してやろう」


入鹿『お、新技か?』

真っ暗れーん『今度は頼むぞ』

オシャレ侍『やっちまえ』


 「魔王……、」


 刹那。


 標的の頭上から尾までを一直線に撫でた。


 俺の動きはしっかりとカメラに映っていただろうか。

 「ズズゥ――――――――ッ」と、背中の方で奴の身体が左右に別れる音がする。


 「一閃。」


真っ暗れーん『おおお』

暗黒☩騎士ざまぁん『倒した!』

すたみな次郎『速くて見えんかったぞ!』

よぎぼぅ『つっよ』

閃光の射手ブラッド『おめ』

あれ草『ぱちぱちぱち』

不明な点はお問い合わせました『ないすー』

無限の聖槍ロジャー『やったな』

小田亮『しゃぁ!』

駄菓子二等兵『やったな』


 「うええ、ぐっろぉ……」


 帰り道。


 「もっと綺麗に倒してよ」と、春沢は膨れていた。


 「そんな無茶言うなよ、手加減出来ない程には強かったからなアイツ?……と、それよりコイツだ」


 俺はこっそり回収していた府中第五のコアを取り出す。


 「また、持ってきたの!?」


 春沢がじっとりとした目で見てくる。


 「だから別に悪用しないって……。とにかく、これを見てみろ。さっきの迷宮ダンジョン内のバイオスフィアだ」


 管理画面を映し出す。


 「見ても分かんないし」

 「これによれば先ほどのフロアのバイオスフィアは、正常と出ている。つまり……、瘴気の発生源はアイツ自体だったと言うことだ」

 「だったら、なんだってゆーの?」

 「知らん!」


 謎は深まるばかりであった。


 

 

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