瘴気

 「だ~か~ら~!ウチが元聖騎士で、コイツが元魔王なんだってー!」


すたみな次郎『はいはい。だからタツミが悪さしないように、ギャル沢がストーカーしてるんでしょ』

三人目の僕『ヤンデレかな』

体育の翔さん『こっわw』

伝説の釣り人『継承者ってマジかwww』


 「お前ら絶対信じてないっしょ!あと、ギャル沢じゃないしっ」


 現在、俺たちは第10層。

 獣道はあるが、背の高い草や木が生い茂り、森型のフロアといった感じだ。が立ち行ったのは俺達が初めてだろうか。Ⅾギアのマップが更新されないので、地図作成マッピングしながらの探索となった。

 春沢は器用にも、聖剣で襲い来るドリアードや迷宮ダンジョンコウモリ(人間の子供くらいのサイズのコウモリ)をバッサバッサ切りながら、たつらーに自分の身の潔白をこうとしていた。


 しかし、それを真面目に信じる者はおらず。ネット上では、継承者という言葉が転がっていても、未だにそれが実在するという認識にはなっていないのだ。

 たつらーもなんか凄い技術の防護服スーツを着て、ロールプレイをしながら探索配信してるな、くらいにしか思っていないだろう。


入鹿『分かったw分かったw』


 「いいですよーだ。どうせウチは、自分を姫騎士だと思ってる、ヤンデレギャルストーカーですよーだ」

 「……おいおい、それは属性の盛り過ぎだろ」


 あの春沢が弱っている、ちょっと面白い。

 同時視聴者数は、春沢の活躍もあってか2000人まで伸びた。多勢に無勢の相手では流石のギャルでも疲れるのか。


伝説の釣り人『ギャル沢がいじけだしたぞ』

よぎぼぅ『タツミが慰めてやれw』


 「ドンマイ☆」

 「むきーッ」


 春沢は逃げ出そうとしていたドリアードを掴み、俺に投擲とうてきしてきた。


 「おうふ」


xcyuddfd『ドリアード君可哀想』


 それはそうと。出番を奪われた俺は、マッピング兼魔物モンスターの亡骸から目ぼしい素材を採集する係になっていた。

 

 先に進むにつれてワイバーンなどの中型の魔物モンスターも現れ始める。苦戦をすることは無いが、手で運ぶには限度があり、死体の殆どは捨てて行く事になるのが勿体無かった。


 回収業者スイーパーでも呼べたらいいが、Bランク迷宮ダンジョンとなると高くつきそうだ。


 ――!?


 「む!?」


 唐突に。

 俺は、奇妙な違和感に唐突に襲われる。不快であって、どこか懐かしくもある。

 

 「ちょっとこれって……」


 春沢も気付いたみたいだ、足を止めている。


不明な点はお問い合わせました『お、なんか起きたんか?』

あああ『なになに?』


 〔ピーピッピー。高濃度ノ“瘴気”ヲ検出シマシタ。注意シテクダサイ〕


空中ブランコ『なんか警告されてないか』

入鹿『“しょうき”?ってなんぞ???』

孔掘る加藤『大丈夫なのか?お前ら』


 遅れてⅮギアからもアラートが発せられる。

 たつらー達も異変を感じ取り心配し始めた。


 瘴気。

 アリスヘイムの自然界において、マナと魔力が反応する際に微量に発生してしまう、有害物質だ。


 瘴気が薄黒いもやのようになって、くるぶしの高さ位まで沈殿している。この程度なら、直ぐに人体に異常は無いが、だった。


 「どうなってるし?」

 「わからん。――が、迷宮ダンジョン内は瘴気を中和出来るように、バイオスフィアが制御されてるはずだ。何かがおかしい、調べるぞ!」

 「ちょ、待ってし」


 今度は、俺が先頭となって進んでいく。瘴気が濃くなっていく方へ向かっていけば、発生源に辿り着けるはずだ。


 「うぅ、なんか気分悪くなってきたかも」

 「俺も……」

 「は?なんで……、アンタ、魔王でしょ!?」

 「仕方無いだろ。まだ、完全に力を取り戻して無いんだから。この鎧の下も只の人間だし。笠井みたいに魔人化出来ていないんだよ。――大体、春沢だって聖騎士だろうが、これくらい平気なはずだぞ?」

 「ウチもまだ本調子じゃないんですー。じゃぁ、魔剣を持ってないのもそーゆう事だからってワケ?」

 「まぁ、そうなるな」


 「「「「「ウォオオオオオオオオン」」」」」


xcyuddfd『なんか出てきたぞ』

ひめめーめひーめめ『オオカミかこれ』

29290213『黒いオーラみたいなの出てない?』

PARIPI『おいおい、まずいんじゃないか……』


 ……囲まれた!!……いつの間に!?


 深緑の体毛、ナイフのような牙を持つ狼。森林狼フォレスト・ウルフだ。こいつらは群れで狩りをする。しかも木を登っての立体的な攻撃も得意で、頭上も注意して戦わなければならない。


 数は40頭分くらい魔力の反応がある。木々の間を縫って、じわりじわりと包囲網を狭めてくる。

 Ⅾギアによれば、奴らの脅威度はBランクと出ている。普段ならEランクくらいだ。瘴気によって凶暴化したということだ。


 俺と春沢は、背中合わせになる。


 「ふん、半分は貴様に譲ってやろう」

 「それはどーも」

 「いくぞ!」

 「勝手に仕切んなし!」


 互いに前の敵に向かう。


 「フハハハハハ!遅い!遅い!遅い!それでも森の健脚かぁ!!!!?」


 拳を振るい、魔力の弾丸を射出していく。的確に躍り出てくる森林狼フォレスト・ウルフを迎撃していった。


 「もぉ、こっちくんなぁー!」


 春沢は、聖剣から魔力の斬撃を飛ばしつつ、もう片手で魔術式を展開していた。


 「ほう、やるではないか」

 「うっさい!グライシス・ランス!!」


 無数の氷の槍が、森の奥の敵を捉えていく。


伝説の釣り人『うをおおお、THUEEEEE!!!』

すたみな次郎『さっすが雑魚ニキやで』

最速の牛歩『ギャル沢あああああ!!!』

真っ暗れーん『二人とも強すぎだろ!』

痛風のタツナー『ふ、俺達が育てただけはあるな』

三人目の僕『タツミお前本当にBランク探索者かよw』


 「これくらい、魔王なら当然よ」

 「ふう、ふー……、ウチだってこんなんよゆーだし」


 森林狼フォレスト・ウルフの群れは倒すことができた。だが、未だ油断は出来ない。

 今度は、「バキッバキッバキッ」という木々が倒れていく音が近づいてきて、ここら一帯の瘴気が濃くなった。


真っ暗れーん『今度はなんだよ!?』

みぎよりレッドロード『地響き聞こえてこない?』

よぎぼぅ『おい、なんかデカい奴来てるぞ!!』


 そいつは、森の木々よりも背丈があった。


 「うげぇ……、キッモ。ウチ虫苦手なんですけど」

 

 巨大な体躯。


すたみな次郎『コイツは……』

エミール『ヤバイぞ!』

あれ草『いや、でもこの前のドラゴンよりは小さいし……』

孔掘る加藤『やるのか、タツミ?』


 鋭利に尖った棘が、掠めるだけで周りの木を切り裂いていく。分厚い鎧の様な装甲で身を固めている。

 腕は、四本。それぞれにその名を象徴する大きな鎌が付いている。逆三角の頭部には、クワガタの角の様な大きな顎。


 かなり形状は変わっていて、体格も七倍ぐらい違うが、恐らく鎧カマキリの変異体だ。


 「……ボスキャラのお出ましってことか」


 「キシャア"ア"ア"アア!!!!!」


 堅牢なる鎌の使い手が襲い来る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る