波乱の夏休み5

 もしも、自分の推していた配信者が所謂いわゆる匂わせ行為を始めたり、急に異性とのコラボ配信とかをぶっこんできたらどうするべきだろう。


 俺ならその配信者のチャンネル登録を外し、暫くネットから離れる。


 これはまだ自分の心を守る術を知らなかった。忘れもしない。俺にまだ純粋さと言うものが存在していたあの頃の話だ。


 その頃、俺はとある女性配信者の動画をよく見ていた。勿論、配信研究の一環だ。


 しかし、配信を見続けるうちに俺の中に不思議と彼女に対する親近感が湧いてくるではないか。

 その配信者が「男性が怖くて、彼氏とかいたことがなくって~」という言葉を三回の配信に一回は使うようになった辺りから、気が付くと俺は彼女を推していた。気分は最早、友達以上だ。


 そうして、いよいよ自分の小遣いで投げ銭をしようか考え始めた段階になって、その悲劇は起きてしまう。

 

 原因は、裏垢でのメッセの流出。大物男性配信者との繋がりを世間が知る事となる。その後、芋づる式にその子の男性遍歴へんれき露見ろけんして、「ゆりーな嘘だよな……」。当時の俺は学校を二日休む程の心に深い傷を負った。


 “ユニコーン”。誰がそんな上手いことを言えと言ったかは知らないが、ネットが普及したこの時代が産んだ悲しき心優しい魔物モンスターだ。身近な存在に感じていた相手が、ある日急に自分には手の届かない別の世界に住んでいる人間であると気付かされるのだ。


 そうして、誰かが人知れず傷付き、視聴者が離れていくだけならまだマシだ。


 ファンの一部は、アンチに代わり。残ったファンと、集まってきた野次馬を巻き込んで、“炎上”という名の代理戦争に発展することもあるのだ。というか、大体そうなる。


 俺は、今。その瀬戸際に立っているかもしれん。


 たつらー達は今日まで、俺の事を硬派な探索動画配信者だと信じて付いてきてくれたのだ。

 しかし、春沢の登場によって、その幻想を砕いてしまった事を申し訳なく思う。


 先ずは誠意をもって謝罪しよう。話せば分かって貰えるはずだ。


 「皆ごm……」


すたみな次郎『良し!今日からこのチャンネルは“ギャル沢ちゃんねる”だな!!』

入鹿『タツミのファン辞めて、ギャル沢のファンに成ります』

最速の牛歩『タツミふざけんな!ギャル沢と仲良いならさっさと俺達のこと紹介しろっ!というかギャル沢の前で俺たちの事を褒めろ!!』

oni瓦『ちっタツミの彼女かよ!――しかたねぇ。パンチラで許してやるかぁ……』


 「おい。待て、お前ら。」 


伝説の釣り人『独り占めはずるいよなぁ』

無限の聖槍ロジャー『w』

バルクほるん『良いか、こっからはカメラにギャル沢だけ映しとけ』

よぎぼぅ『あれ、このチャンネル雑魚おにイラなくねw』

あれ草『悲しいなぁ・・・』


 こいつら、俺が“魔装降臨”を披露した時よりも食いついてやがる――。魔王なんかより、お前らにとってはちょいエロギャル姫騎士のが良いってわけかよ!


 所詮しょせんはたつらー、エロには抗えない。俺だってそうだ。


 当チャンネルの視聴者層は九割九分が男だ。残りもきっとネカマだろうから、男性比率は十割である。

 どうせ、俺の様な陰キャの集まりなのだ。少年漫画のお色気担当みたいな春沢が出て来て嬉しくないわけが無い。


 何なら炎上して、知名度を上げたかったまである。というか、俺が邪魔者扱いされている気がするのは何故だろう――?


エミール『おーい、ギャル沢こっちこっち』


 「ちょ、なにこのオタク共。“ギャル沢”って呼ぶなし!ウザいんですけど!!」


 春沢は、動画慣れしていないのか。ドローンカメラでは無く、画面共有しておいたスマホに向かって怒鳴っている。初々しくて少し可愛く思えた。


閃光の射手ブラッド『www』

PARIPI『うぇーい』

ひめめーめひーめめ『ひゅーひゅー』

オシャレ侍『俺達ギャル沢のアネゴに一生付いていくっス』


 「だから、ウチはコイツの友達でも何でもないっつーの!」

 「――え?そうなの……!?」

 「はぁ?アンタまで乗ってくんなし」


すたみな次郎『w』

痛風のタツナー『タツミショックうけてるじゃんw』

真っ暗れーん『あー。ギャル沢がいじめたー』


 「もーなんなのー!?」

 「あははははは」

 「ちょ、何笑ってんの!誤解を解いてよー」


 たつらーも思いがけず新しいオモc……、こほん。仲間を得て嬉しそうだった。


 この夏は波乱。なんてことも考えていたが、どうやら取り越し苦労みたいだ。

 

 

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