波乱の夏休み4(【悲報】ダンジョンで偶然助けたギャルがストーカーになった件)

 そして、夏休み初日朝。俺は、春沢と立川駅で待ち合わせをしていた。


 機材の方はあらかじめ事務所に取りに行っておいて、移動は電車で行うのだ。本当は、千空さんに車で送ってもらおうと思っていたが、春沢が付いて来るので諦めた。


 幸い、あのダサい防護服スーツを着る必要は無くなったので、公共の移動手段を使っても恥ずかしくなくなったというのが、せめてもの救いだった。


 「よっす~」

 「おう、はよー」


 春沢は、如何にもギャルっぽいと言った私服だった。上はなんか肩が出ている感じので、デニムのミニスカートを履いていた。腰には羽織る用のカーディガンが巻いてある。


 「春沢。お前そんな格好で迷宮ダンジョンに潜るつもりか?」

 「そんなって、しつれーなんですけど!これちゃんと防護服スーツになってるし、こーゆーの最近流行ってんの知らないのー?」

 「む、俺は硬派だから知らんの」


 ギャルと対極を成すもの。それは、“硬派”である。これは俺がファッションにうといわけでは無いのだ。単にジャンル違いだから知らないだけである。見栄を張った。


 「ふーん」

 「な、なんだよ」

 「鱶野の私服初めてだから」


 春沢が、俺のシャツと短パン姿を見て、視線を上下させる。


 「……変だって言いたいのか」

 「なんか鱶野って感じ」

 「なんだそりゃ」


 どうしてもこういった関係は卑屈になってしまう。これも陰キャのサガなのか。水道橋や鷹村と遊びに行くときなんて、服装について気にした事なんて無かった。


 一応。春沢は女子なので、ネットの情報を元に清潔感のあるコーディネートを手持ちの服からどうにかしてでっち上げたのだ。陽キャ達はいつもこんなことを気にしているのか、自分には務まらないだろう。


 南部線に定刻通り車両が侵入して、俺たちはそれに乗り込んだ。


 はたから見れば、デートをする若いカップルに見えなくもないだろう。しかし、現状は違う。そんな甘酸っぱい関係では断じて無い。俺はこの夏休み中、この女に監視される羽目に遭うのだ。


 自虐的に言うのであれば、“【悲報】ダンジョンで偶然助けたギャルがストーカーになった件”である。


 「――本気で夏休み中、俺の事を監視するつもりかよ」

 「当たり前じゃん、その為に予定だって空けたんだし」


 昨日のアレ。春沢が俺に夏休みの予定を書かせたのはこのためだったのだ。


 「大体良いのか、健全なギャルが貴重な夏休みを潰してまでこんな陰キャを見張ってて。宮越や立木あそんでればいいのに」

 「小鈴は部活で、蛍はイベント?で忙しいし」

 「じゃぁ、豊徳院とか……」

 「は?なんで、豊徳院が出てくるわけ?」

 「……へ?いや、いつもつるんでるし……」


 少し、春沢が不機嫌になる。

 陽キャは陽キャ同士で適当に遊ぶものでは無いのか――?全然生態が分からない。


 「あのね。ギャルだからって、遊ぶなら誰でも良いって訳じゃ無いんだよ?それに、豊徳院は配信で忙しいでしょ」


 そうだ、忘れるところだった――。豊徳院は俺が越えなければならない壁の一つである。敵ながら研究の為に、チャンネル登録もした。ki☆ddと共にまとめていつか成敗してやるのだ。


 「――取り敢えずだな。今日は付いてきても良いが、配信の邪魔だけはするなよ」

 「分かってるっつーの」

 「後、配信中は声も掛けるなよ」

 「はいはい。ウチもネットに晒されるのゴメンだし」


 一応。配信に同行する際の取り決めには従ってくれそうで安心する。春沢もネット上でこれ以上“ギャル沢”と騒がれるのは不本意なのだ。


 そして、現在に至る。




 

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