波乱の夏休み3

 事の発端は、昨日の夏休み前日にさかのぼる。


 俺は放課後、メッセで春沢に呼び出されて校舎裏へと来ていた。


 誰かに跡をつけられてはいないか、若干自意識過剰気味に警戒しながらここまでコソコソ歩いてきた。

 いや、もう――?俺の中で華やかな妄想が咲き乱れる。


 残念な事に俺は、鈍感無自覚系では無かったのだ。と、言うか、陰キャ全般がそうだろう。他人の目など気にならなければ俺だって「うぇーい」と言いながら校舎の廊下でバイクを乗り回す。


 いつの間に春沢は俺の事を……?健全な高校男子の脳内など、所詮はこんなものなのだ。つい先日、自らの命を狙ってきた相手だろうと、少しでも可能性があると感じてしまうと、自分に都合の良い勘違いをしてしまうのだ。


 思い返せば、思い当たる節しかなかった。例えば、笠井戦の時の俺なんて超絶格好良かったはずである。身を挺して春沢を守った状況もポイントが高い。吊り橋効果的な力が働いた可能性だって考えられる。


 しかし、春沢かぁ。いや、確かに顔は良いし、スタイルも抜群だ。怒ると怖いが。しかも、やたらと俺に喧嘩を吹っ掛けてきて、オタクに厳しい……。まさか、ツンデレなのか!?などと、自分を棚に上げた何様な考えが頭の中で羅列されていく。


 俺は馬鹿だ。普段、ラノベや漫画を読んでは「このヒロイン達、簡単に主人公に惚れ過ぎだろw」なんて突っ込んでいるのに、いざ自分のことになると冷静さを保てないでいた。


 結果。春沢に告白されると思い込んでノコノコこの場にやって来た。


 春沢は既に到着していて、腕組をしている。気合十分と言った感じだ。今、この場に俺たち以外は居ない。


 「遅いし!」

 「ああ、悪かった。女性を待たせるなんて、俺も罪な男だよ」

 

 自然とイケメンオーラがにじみ出てしまう。なんだか顎の方も尖ってきた。


 心の準備をしてから、この場に出向いてきたのだ。特に水道橋と鷹村には怪しまれた。ただ一言。「悪いな、お前ら。俺は先に次のステージで待ってるぜ」そう背中で呟いてから、教室を後にした。ちゃんとトイレも済まして来たし、今の俺に死角は無い。


 「はぁ?キモいんですケド。なんか鱶野勘違いしてるでしょ?」


 この期に及んで、春沢はツンツンしている。仕方ないここは、俺が助け舟を出してやるか。イケメンとして。


 「恋って……、良いよね……」

 「……なに?聖剣で斬られたいわけ??」


 あ。これガチでキレてる感じ――?


 「……」


 まぁうん。知ってました。でも、少しくらい夢見たっていいじゃないか陰キャだもの――。どうせロクでもない内容で呼び出されたのは、重々承知していた。


 未だに、春沢からは、不意に鋭い視線を感じることがある。まだ、完全に魔王としての俺を信用していないのだ。


 「もぉ……、これだからオタクは……」

 「――で、何の用事なんだよ?」

 「……。明日から夏休みでしょ……?」

 「まぁ、そうだが」


 なんだか、春沢がモジモジしている。これは、最初の反応であっていたのでは――!?


 「じゃぁ……。これかいて」

 「え?」


 俺は、A4サイズ位の一枚の紙を春沢から手渡される。それには、区切られたマス目に日付が書き込まれていた。なんだか、バイトのシフト表みたいだ。


 「春沢さん、何ですコレ……?」

 「そこに夏休みの予定全部記入して」


 そう言うと、鉛筆と下敷きも手渡される。


 「今?」

 「うん」

 「いや、でもなんでよ」

 「何でもいいじゃん」

 「急にそんなこと言ったって……」

 「いいから」

 「これって個人情報じゃん?今の時代のコンプライアンス的に……」

 「黙ってさっさと書けや、こらっ」

 「ひゃいっ」


 完全に、怪しい書類に無理やりサインさせられる人の構図である。春沢は、そっち系の人みたいに凄んできて滅茶苦茶怖い。その場にあった校庭の砂とかを平らにする器具を持って、柄の先端を俺の喉に突き立てる。


 「うっす。書かせていただきまーす」


 一体何が目的か分からんが、俺は、一心不乱に予定を書いた。


 

 


 

 

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