魔王の初陣

 誰しもが一度は、○○なんとかマンとか○○ライダー、○○レンジャー、もしくはなにキュアなどの日曜朝に放映されている、玩具の販促番組のヒーロー達に憧れたことがあるだろう。俺もそうだ。


 今になってその夢が叶ったようだった。


 俺は、足元から巻き上がる黒い炎の様なものに包まれた。

 それと同時に、身体の奥から抑えきれないくらいの魔力の増幅を感じた。


 気が付くと、黒い炎は離散していて。


 俺は、地面に突き刺さっていた春沢の聖剣で、刀身に反射して映った自分の姿を確認した。


 かつて愛用していた重層構造の甲冑フルプレート・アーマーとは、やはり多少の相違点が見られた。昔に比べ、全体的にスマートだ。頭からつま先まで黒で染め上がられた装甲、細部には、赤い半透明の魔石がはめ込まれている。

 頭には、我がチャームポイントである角を模した兜、肩と腕と膝には角ばった突起が、これは武器にも使えそうだ。

 生物的な流線形の腕と脚、背中には漆黒のマント、裏地の紅蓮が美しい。


 鎧と言うよりも、バトルスーツと形容した方がしっくりくる見た目である。


 そして、特に注目するべきは腹部だ。あの忌々しき肉の浮き輪さぼったリングが消滅しているのだ。これも最適化という訳か、魔王の力すげぇ――!!!


 「魔王……、リベリアル・ルシファード……」


 春沢がそう呟く。


 「否!!!俺は魔王リベリアル・ルシファードにあらず!魔王……、いや、Ⅾライバー界の魔王!!鱶野辰海だ!!!!」


 俺はマントをひるがえした。


 「いいねぇ……!俺はこれを待ってたんだ。勿論、相手してくれるんだよなぁ!!」

 「ふん、元よりそのつもりだ。笠井!!」

 「それじゃぁタツミぃ!戦いバトルと行こうじゃねえかぁ!!」


 笠井は叫ぶと、遊びに行くのが待ちきれなかった子供の様に勢い良く、天に飛翔していった。


 「リベリアル……、いや、鱶野辰海、お前は一体……?」

 「俺はなあ、お前らとになりたかったのだ。今も昔もな!」


 そう言って、両脚を曲げて、力を籠めた。伸ばすと同時に、俺の身体は地面から射出される。


 離陸した部分に、反動で巨大な窪みクレーターが生じた。


 「うお、マジか」


 思っていた通り、とんでもない力を手に入れてしまった。気を付けなければ――。

 それと同時に、底知れぬ高揚感も湧いて来た、今ならなんだってやれる。


 「笠井!遊んでやるよ!!」

 「最高だぜ、タツミ!」


 拳と拳、蹴りと蹴り、圧倒的な対格差をものともしない。互いの攻撃がぶつかり合って、凄まじい衝撃波が発生している。

 近くにいるだけで並の魔物モンスターは、バラバラになるだろう。


 「楽しい!楽しいぜ!!血の一滴一滴が狂喜乱舞して、抑えが利かねえよ!!」

 「前から言おうと思っていたが、本当に、イカれているなお前は!!」

 「だがタツミよお、魔剣はどうしたよ!!?俺様相手に手加減かぁ!!!?」

 「そういうことは、俺を追い込んでから言うんだなっ!!貴様には、これで十分よ!!!」


 火炎ブレスに雷撃、そこに時折混じる尾の薙ぎ払いをいなしながら答えた。


 俺の魔剣“ウルズ・シュバイツァー”は今回は顕現していなかった。それどころか、この甲冑の中はだ。

 恐らく今の俺では、引き出せる力はここが限界なのだろう。


 だが今はそれでも十分だった。


 猛攻の応酬の最中、俺は、笠井の頭上を抑え、かかと落としを放った。


 「がぁつ!!!!!」


 天空の支配者が、真っ逆さまに地面へと吸い込まれていく。


 「ずどん」と地震の様にフロア全体を揺らしながら、笠井の巨体は地に墜ちた。


 「へへ……、やっぱすげえぜ」


 視界を覆い尽くす、砂煙の中に、成人男性くらいの大きさの影が見えた。


 砂煙が晴れると、紅の焔竜を模した鎧に身を包んだ笠井の姿が現れた。


 竜人ドラゴニュートそれが天空魔将ギルバトスの正体である。

 こいつらはの祖先は、戦いを楽しむために竜を狩り、竜を喰らった。そうして何百年もかけて魔人から竜人に進化し、遂には本物の竜に至った、生粋の戦闘種族なのだ。


 先程の焔竜の姿が遊びなら、今の姿は本気だ。


 「もっと続けてぇがよ、決着ってのは決めないといけねぇ。縁もたけなわって言うやつだ」

 「ああ、そうだな。お望み通り、すぐに終わらせてやる」


 両者向かい合い、静寂がその場を支配する。


 どこまでも時間と感覚が広がってゆく感覚。


 勝負は一発。


 「行くぜえええええ!!!」

 「来い!」


 跳び出し加速する。


 一瞬でそれはマッハに到達する。


 笠井の渾身の拳が俺の顔面を捉える。

 兜は割れ、その余波が地面を巻き上げ、吹き飛ばす。


 その体制のまま、俺は拳に力を溜め、


 満面の笑みで、それを笠井の顎下から突き上げた。


 笠井と目が合う。奴も笑っていた。


 「――――――――!!!!!!!」


 笠井は、ミサイルみたいに垂直に飛んでいき、天井を突き破り虚空の彼方へ消えたいった。

 なんか「キラーン」と効果音が聞こえた気もしなくはない。


 最後に何か断末魔を叫んでいたが、聞こえなかった。


 どうやら笠井は、何層か上のフロアもぶち抜いて、迷宮ダンジョンの外の虚数空間的なものに呑み込まれたらしい。


 昔、実験系Ⅾライバーが“迷宮ダンジョンの壁を掘ったらどうなるかやってみよう”というような企画をやって、気が付いたら転移門ゲートから出ていたみたいな話を思い出した。


 まぁ、奴なら生きているだろう、そんな気がした。

 

 



 

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