魔王の初陣
誰しもが一度は、
今になってその夢が叶ったようだった。
俺は、足元から巻き上がる黒い炎の様なものに包まれた。
それと同時に、身体の奥から抑えきれないくらいの魔力の増幅を感じた。
気が付くと、黒い炎は離散していて。
俺は、地面に突き刺さっていた春沢の聖剣で、刀身に反射して映った自分の姿を確認した。
かつて愛用していた
頭には、我がチャームポイントである角を模した兜、肩と腕と膝には角ばった突起が、これは武器にも使えそうだ。
生物的な流線形の腕と脚、背中には漆黒のマント、裏地の紅蓮が美しい。
鎧と言うよりも、バトルスーツと形容した方がしっくりくる見た目である。
そして、特に注目するべきは腹部だ。あの忌々しき
「魔王……、リベリアル・ルシファード……」
春沢がそう呟く。
「否!!!俺は魔王リベリアル・ルシファードにあらず!魔王……、いや、Ⅾライバー界の魔王!!鱶野辰海だ!!!!」
俺はマントを
「いいねぇ……!俺はこれを待ってたんだ。勿論、相手してくれるんだよなぁ!!」
「ふん、元よりそのつもりだ。笠井!!」
「それじゃぁタツミぃ!
笠井は叫ぶと、遊びに行くのが待ちきれなかった子供の様に勢い良く、天に飛翔していった。
「リベリアル……、いや、鱶野辰海、お前は一体……?」
「俺はなあ、お前らと友達になりたかったのだ。今も昔もな!」
そう言って、両脚を曲げて、力を籠めた。伸ばすと同時に、俺の身体は地面から射出される。
離陸した部分に、反動で巨大な
「うお、マジか」
思っていた通り、とんでもない力を手に入れてしまった。気を付けなければ――。
それと同時に、底知れぬ高揚感も湧いて来た、今ならなんだってやれる。
「笠井!遊んでやるよ!!」
「最高だぜ、タツミ!」
拳と拳、蹴りと蹴り、圧倒的な対格差をものともしない。互いの攻撃がぶつかり合って、凄まじい衝撃波が発生している。
近くにいるだけで並の
「楽しい!楽しいぜ!!血の一滴一滴が狂喜乱舞して、抑えが利かねえよ!!」
「前から言おうと思っていたが、本当に、イカれているなお前は!!」
「だがタツミよお、魔剣はどうしたよ!!?俺様相手に手加減かぁ!!!?」
「そういうことは、俺を追い込んでから言うんだなっ!!貴様には、これで十分よ!!!」
俺の魔剣“ウルズ・シュバイツァー”は今回は顕現していなかった。それどころか、この甲冑の中はまだ人間のままだ。
恐らく今の俺では、引き出せる力はここが限界なのだろう。
だが今はそれでも十分だった。
猛攻の応酬の最中、俺は、笠井の頭上を抑え、
「がぁつ!!!!!」
天空の支配者が、真っ逆さまに地面へと吸い込まれていく。
「ずどん」と地震の様にフロア全体を揺らしながら、笠井の巨体は地に墜ちた。
「へへ……、やっぱすげえぜ」
視界を覆い尽くす、砂煙の中に、成人男性くらいの大きさの影が見えた。
砂煙が晴れると、紅の焔竜を模した鎧に身を包んだ笠井の姿が現れた。
こいつらはの祖先は、戦いを楽しむために竜を狩り、竜を喰らった。そうして何百年もかけて魔人から竜人に進化し、遂には本物の竜に至った、生粋の戦闘種族なのだ。
先程の焔竜の姿が遊びなら、今の姿は本気だ。
「もっと続けてぇがよ、決着ってのは決めないといけねぇ。縁もたけなわって言うやつだ」
「ああ、そうだな。お望み通り、すぐに終わらせてやる」
両者向かい合い、静寂がその場を支配する。
どこまでも時間と感覚が広がってゆく感覚。
勝負は一発。
「行くぜえええええ!!!」
「来い!」
跳び出し加速する。
一瞬でそれはマッハに到達する。
笠井の渾身の拳が俺の顔面を捉える。
兜は割れ、その余波が地面を巻き上げ、吹き飛ばす。
その体制のまま、俺は拳に力を溜め、
満面の笑みで、それを笠井の顎下から突き上げた。
笠井と目が合う。奴も笑っていた。
「――――――――!!!!!!!」
笠井は、ミサイルみたいに垂直に飛んでいき、天井を突き破り虚空の彼方へ消えたいった。
なんか「キラーン」と効果音が聞こえた気もしなくはない。
最後に何か断末魔を叫んでいたが、聞こえなかった。
どうやら笠井は、何層か上のフロアもぶち抜いて、
昔、実験系Ⅾライバーが“
まぁ、奴なら生きているだろう、そんな気がした。
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