我陰キャ、迷宮にて魔王に覚醒す

 天空魔将ギルバトスを一言で表すのならば、戦闘狂バトルマニアである。と言うよりも、一言も何もそれに尽きるのだ。


 あいつの戦いには、なんの正義も主張もない、只ひたすらに強者と刃を交えたい。戦いという行為そのものが目的なのだ。

 人類と魔族の溝を深めかねない危険な存在だった。だから魔王軍に招き入れ、なんとかそれを制御していた。それが野放しになってしまっている。


 春沢と笠井は激しい空中戦を繰り広げていた。


 聖剣と鉤爪。お互いが何度も斬り結んで、火花を散らす。それが軌跡となり虚空に螺旋が描き出された。


 笠井による、火炎弾ブレスと雷撃の弾幕。それを撃ち落とす聖剣エルザ・ディヴァインの一閃。それが幾重にも繰り返されているのだ。


 「楽しいなぁ、ルクスフィーネぇ!!俺は、今までずっと何かに飢えていた!画竜点睛!それが何故だかやっとわかったぜ!!」

 「黙れ!争いをばら撒く戦闘狂が!!地を這いつくばらせてくれる!!!」


 互いに向き合い、笠井の波状攻撃の中にわずかなほころびが生じる。

 それを、春沢は見逃さない。


 「そこだぁ!」


 聖剣が焔竜の喉元をとらえた。後数センチと肉薄する。


 「はは!前だけ見てれば、正しいって訳じゃ無いんだぜ!?」

 「何!?」


 視覚外からの一撃。刺々しい笠井の尾が春沢を叩き落とした。


 「ぐうぅっ……!!!!?」

 「春沢!!」


 隕石にのように弧を描いて、春沢は落下する。勢いを殺すためにかけた制動によって、地面が抉れていた。


 その衝撃で姫騎士の姿は解かれてしまった。


 「かはっ……!?ひゅう、ひゅう……」


 肩で息をしている。

 春沢は、ふらふらになりながらも、なんとか立ち上がった。吐血した様からも、相当のダメージが入っているはずだ。


 俺は、心配になって近くまで走り寄る。


 「もうやめろ春沢!お前がそこまでする必要ないだろ!!」

 「近づくな!くっ……。そうやって過去から逃げている貴様に、何が分かる」

 「なぁ!?」


 俺が逃げているだと……?確かに今の春沢からして見れば、そういう風に映っているかもしれない。だからって、あの時のように争う事が正しいというのか――?


 笠井は俺たちの前に降り立った。


 「なんだぁルクスフィーネ。お前見た目だけ覚醒しておいて、中身は全然よええじゃねえか!」

 

 噓だろ――!?俺は、あの状態の春沢にすら、勝てる気が全くしなかった。それを笠井は「弱い」と言い放つ。


 「おい、笠井ももう良いだろ!?春沢も覚醒が解けてる、ここら辺にしろ」

 「あぁん?何言ってんだよ。まだまだ俺は足りてねぇよ」


 笠井の目は本気だ。くそが!このままだと殺される――!


 「アルスマグナ……」

 「魔王!貴様それはなんの真似だ!?」


 春沢と笠井の間に立つ。


 魔術式を展開した。恐らく今、笠井は、魔王の力を継承した俺よりも強いだろう。しかし、やるしかないのだ。


 「お?今度は魔王サマの番ってか。いいぜぇ!!相手になってやるよ!」

 「ブラスティア!!!!」


 煌々と輝く焔の弾丸が流星の如く。笠井を目掛けて飛んでいく。

 

 命中。


 まるで目の前で落雷があったような、地響きと轟音を伴って爆発が起こる。


 が。


 「残念だぜ」

 「なぁ!?がぁっ!!!!!!」


 暴れる鞭のように、土煙の中から現れた笠井の尻尾に薙ぎ払われる。


 「何故!貴様ら魔族同士で争う!?」

 「だから最初にいっただろうが、戦いバトルをしにきたって、敵も味方も関係ねぇのさ。――さぁ続きと行こうぜ、ルクスフィーネ」


 笠井は俺に視線を向けることも無く、春沢へとにじり寄る。


 「ま、待て」

 「なんだよ。雑魚には用がねえんだよぉ!!」


 木の幹の様な竜の足にしがみついたが、いともたやすく振り払われる。


 「うわああああ!」


 春沢の方まで転げまわるも、懲りずに俺は、立ち上がった。


 「どけ、貴様はなぜそこまでする!?」

 「うるせぇよ!けが人は引っ込んでろ。俺の勝手だろうが……」

 「ん?おいまさか魔王サマ、ビビってんのか!?」

 「え?」


 いつからだろう、確かに俺の足は震えていた。

 嗚呼――、そうか。


 「ふ。――当たり前だろ!こんなバカでかいドラゴン。怖いに決まってるだろ!しかも陽キャだし……。それに何だよ、魔王って滅茶苦茶ヤバそうだろ!――ああ!そうだよ!!俺は、お前ら陽キャと話すときも内心ビビるくらい、臆病者だ!!悪いか!!!!!」

 「鱶野……」

 

 それだけじゃない――。


 俺は、誰も傷つけないために前世から逃げる道を選んでいた。


 只それと同時にからも無意識的に逃げていたのだ。


 俺は、色々な言葉や理屈で自分を固めていて、気付かないふりをしていたのだ。


 


 それに今気がついた。

 覚悟は既にしていたはずだ。


 「――だがてめぇは、またこうして俺の前に立ち塞がった、そうだろ魔王?」

 「あぁ……!!」


 自らを奮い起たせる。


 魔王おれ!!


 誰も傷つけないために再び使うことを誓おう。


 「これが!覚悟というものだああああああ!!!!!!!」


 今なら出来る。そう確信した。


 どうせなので、格好よさげに手をかざす。


 「魔装降臨!!!!!!!!!」


 我陰キャ、迷宮にて魔王に覚醒す。

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