もう一人の継承者

 継承者とはそんなことまで出来るのか――。 


 春沢の姫騎士姿はとは、少し細部が変わっていた。以前は装飾も最小限に抑えられて、機能性重視で質素なものだった。しかし、今度のは白銀の装甲部には、青とピンクで装飾がしてあり、下半身なんてミニスカートだ。後なんかマントも追加されている。


 何だか少し春沢のギャル感が付けたされているといった感じだ。

 現代の知識が加わった事によって最適化でもされているのか。姫騎士になってまでえを狙いに行くな――。


 少し冷静になる。あの世界にいた時は何も感じなかったが、今現代の知識を得てから改めて見てみると、この格好は結構エロい。当時から着ていた本人は恥ずかしくは無かったのだろうか――。


 兎にも角にも、どうやら俺は、このギャル×かける姫騎士という属性の欲張りセットな春沢を相手しなければならなくなった。


 互いに可能な限りケガをしないように気を付けよう。


 後、出来れば「くっ殺せ」って言わせてみたい。


 「剣を納め、話し合いで解決って訳ににはいかないようだな」

 「――もう貴様と話す言の葉など無い!」


 駄目だ――。完全に。性格や口調までがルクスフィーネに引っ張られていた。記憶の混濁が起きているのだ。


 今俺たちのいる階層、仮に第六階層と呼称しよう。ここは、昨日死神アンデッド・ロードと戦闘をしたフロアに似た、ドーム型の階層だ。所々に岩山の様な物が有り、月並みに言ってしまうと東京ドーム一個分より広そうである。


 勿論、俺たち以外の探索者はいない、春澤はこんな寂しいところを俺の墓標にしたいらしい。


 どうにか正気に戻せると良いが――。

 

 しかし。


 「魔王覚悟!」


 問答無用で春沢は聖剣を振るう。


 速いっ――!?たった一蹴りで、数十メートルは距離を詰められたぞ。

 身体を反らし、その一閃から逃れようとするが、俺のわがままボディはそれを許さない。


 「っつう!」


 なんとか身体は避けおおせるも、ジャージは切れてぱっくり穴が開いてしまう。

 舐めプしないで、探索用の防護服スーツを着てくればよかった――。激しく後悔する。


 生身で最強の聖剣“エルザ・ディヴァイン”なんて受けたら洒落しゃれにならん――。と、言うか俺には“魔剣抜刀”みたいのは無いのであろうか。不服である。


 「くそっ!こっちは丸腰だってのに!!」


 走り回りながら、ブラスティア・ランスを撃ち込みかく乱するが、春沢が聖剣で空を切ると、切っ先から圧縮された魔力の刃が飛び出し、数十あった火の槍は全て斬り落される。

 魔力の刃は尚も衰えず、最終的に俺の後方の岩山を両断した。


 「えぇ……マジぃ?」


 あまりの威力に若干引いた。


 すかさず。魔術式の多重展開。ブラスティア・ボルトの集中砲火で迎え撃つも、針の山をうようにすり抜けられた。


 ん!?と、待てよ、あいつ飛んでいやがる!魔力によって力場を発生させ、なんやかんやして飛んでいるのだ。


 「おいおい、チートが過ぎるぜ……」


 再度、間合いが剣戟けんげきの届く範囲となってしまう。

 

 かくなる上は――!!


 「はああああああ!」

 「せいっ!」


 俺は一か八かの掛けに出て白羽どりを成功させる。


 「ぐぬぬ……。今の俺は只の陰キャオタクだ!!それを一刀両断するのが貴様の正義なのか!?答えろ!春沢ぁ!!!!!」

 「五月蠅い!私は、姫騎士ルクスフィーネだ!魔王リベリアル!!」

 「しまっ――!」


 馬鹿みたいに強い力に負けて、刃先が手から離れた。万事休すか――。

 聖剣が頭上より振り下ろされる。最早、防ぐ術などない。


 !?


 しかし、その一太刀は、俺の足元へと振り下ろされる。

 俺は、春沢と目を合わた。


 「お前、今わざと……」

 「ち、違うし!」


 絶体絶命の状況から起死回生の糸口が見える。まだ春沢としての意識は残っているのだ。

 上手く戦闘不能まで持って行ければ――、あきらめるにはまだ早い。


 「へへ……、ボルテックス・ボルトォ!!」


 「な!?」

 「誰だ!?」


 瞬間。二人の間に割り込むように一筋の雷撃が疾走する。


 「楽しくやってるところ悪いなぁ。俺も混ぜてくれよ」


 二人の動きがぴたりと止まる。


 今度は、一体誰だ――!?

 今日は何なんだ次から次へと。


 声がした方へ視線を向けると、それは意外な人物だった。


 「旨そうな魔力を辿って来れば、魔王サマだけじゃなくて姫騎士までいるじゃねか!歓天喜地かんてんきち至境しきょう!嬉しい誤算とはこういう事か!!」


 その赤髪はツンツンは――!?


 笠井汪理!!


 お前、“うぇーい”以外で話せたのか……。しかも今日はそこはかとなく知性じみたものも感じるぞ。


 そこに現れたのは、昨日まで只の陽キャだと思っていた男。笠井だった。この場に居合わせたという事は、こいつも継承者なのか――?それと今「魔王サマ」って……。


 「何だよ随分と苦戦してるじゃねぇか!ええ!?」

 「貴様!魔王軍のものか!?」

 「笠井!お前……」

 

 俺たちの注意は笠井へと向く。


 「へへ、嬉しいねぇ興味深々じゃねぇか!――いいぜぇ。自己紹介してやるよ」


 そう言うと笠井は、顔の前に自分側に手平をかざした。


 「いくぜぇ。刮目かつもくしなぁ!」


 ん、こんなのさっきも見たんだが――?


 「竜眼解放ぉ!!!!!」


 くっそ!お前もかよぉっ――!!?


 そう叫ぶと、足元から焔の渦が巻き起こり笠井を丸ごと包み込んだ。それは、見る見るうちに肥大化していき、巨大な塊と化した。


 そして。


 勢いよく、卵の殻を破るかのように、かつてアリスヘイムの空を支配した、紅き翼が羽ばたいた。


 我が配下が一人。火山の迷宮ダンジョンの守護者。


 溶岩のように紅く、岩肌の様に堅牢な鱗。鋭く黄金に輝く目。撫でるだけで岩をも切り裂く鉤爪に、太くうねった角。その巨体は二階建ての家くらいある。


 こいつは、焔竜えんりゅう


 「天空魔将ギルバトス!」

 「ご名答!また会えて嬉しいぜ。魔王リベリアル!!」


 焔竜の姿になった笠井は、上空から俺たちの事を見下ろす。


 「ギルバトスだと?貴様、魔王と結託けったくして、また世界を混沌に落とすつもりか!?」


 春沢は手に持った聖剣を笠井の方へ向けた。


 「へへ、何言ってんだ。姫騎士ルクスフィーネ!もうアリスヘイムは無いんだぜ!?つまり俺は自由だ。ノブナガじゃねぇんだから俺は天下布武に何ぞ興味は無ぇ。俺はよぉ、てめぇらと血沸き肉躍る戦いバトルをしに来たんだよ!!!」

 「ふざけるな!では先ずは貴様から相手してくれる!!」


 そのまま、地面を蹴り、笠井の方に飛んで行った。あまりの速さに衝撃波が発生する。


 「待て!春沢!!」

 「いいぜぇ、来なぁ!!!」


 ねぇ、これもう俺帰ろうかな――?


 一人だけ変身ができない疎外感でちょっといじけた。

 

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