伝説の始まり下

 俺が八歳の頃。


 現実世界にいたはずなのに、気が付いたらダンジョンに迷い込んでいる。“神隠し”という現象に巻き込まれた事があった。


 そこで、出口を探しているうちに、俺は同い歳ぐらいの女の子に出会った。


 俺はその子と二人で励ましあい先へ進むが、運悪くモンスターの群れに出くわしてしまう。


 その頃から既に、魔導紋を発現していた俺は奇跡的にモンスターを撃退できた。


 だがそのせいで一緒にいた女の子に大けがを負わせてしまった。


 そんな過去の記憶を、ふと俺は脳裏によぎったのだ。


 誰もがその場を動けないでいる。先ほどまで馬鹿騒ぎをしていた陽キャたちも、今はぴたりと静まりかえり、軽口の一つも出てこない。


 本能的な恐怖には逆らえないのだ。


 「フハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


 は、ほうけている俺たち見て、笑い声の様な雄たけびをあげた。


 骨で出来た身体。


 電信柱くらいある大きさ。


 下半身は無い。浮遊しているのだ。

 

 漆黒の古びたローブをひるがえし広げた手には、仰々ぎょうぎょうしく大鎌が握られている。


 その風貌ふうぼうは正しく死神だ。


 あんなモンスターは見たことないぞ――!


 ただ一つ確かなのは、あいつは俺達を敵だと認識していることだ。


 「おい、さっきのフロアに急いで戻れ!」


 二度と、をするのは御免だ――。


 この場はもう、探索者経験のある俺が指揮をるしかない。こんな時に陰キャの陽キャも無いのだ。


 「でもぉ、ゲートが無くなっているよぉ!?」

 「そんなはず……」

 「ええ!?オイ、どおすんだよ!?」


 諏訪が狼狽うろたえる。


 俺は振り返ったが、立木の言う通り、真後ろにあったはずのゲートは忽然こつぜんとその姿を眩ましていた。


カルマ山親方『オイ、出口無くなってるぞ』

USB タイプAを許すな『出口を塞がれた!?』

焼きくま『罠やんけ!!!』


 「ハハハハハハハ!!!」


 死神型のモンスターの首に掛けれた赤い水晶が煌々と光出すと、奴の影の中から、大人くらいの大きさの理科室にある骨格標本の様な骸骨たちが次々に生えてくる。


 各々が手に、錆びた剣や槍などの武器を持ていた。


爪楊枝隊長『おいおい、なんかわらわら出てきたぞ!』

カルマ山親方『これもう応戦するしかないっぽい?』

ロック海埼『ヤヴァイんじゃないのぉ!?』


 「全部倒すまで返しませんってか……、豊徳院!俺が骸骨の群れを突っ切って親玉を叩く、後ろは頼んだ!!」

 「そんな、危険すぎるぞ!?」

 「やるしかないだろ!」


焼きくま『え!?あんなのと戦うの!!!??』

暗黒☩騎士ざまぁん『ここはもう、オタク君に頼むしかないか』


 危険なのは百も承知だ。


 しかし、どう転んでも消耗戦になるのが目に見えている。だったら、体力があるうちに短期決戦を仕掛ける他ない。


 「笠井、諏訪、飯田はお前らは取りこぼした骸骨からギャル沢、宮越、立木を守れ!運動部なんだからそれくらいは出来るだろ!」


 柄にもなくげきを飛ばす。


 効果はあったみたいだ。


 「ったりまえだろ!やるぞお前ら!!」


 笠井が奮起する。


 「「ああ!」」


 諏訪と飯田もそれに続いた。


俺の親父の息子の話『頑張れ!みんな応援してるぞ』

おのぎり『ああああ、見てるしかできないのがもどかしい!!!』

爪楊枝隊長『誰か、この配信見ている探索者いないの?助けに行ってあげて!!』


 ダンジョン内では魔導紋が無くても、魔力による身体強化が望めるのだ。


 お陰で俺も見た目以上に俊敏に動くことができた。


 骸骨型のモンスターはなおも生み出され続けている。


 その数10、20、30……、既に100体以上は確実にいた。


 真正面から俺は切り込んでいく。


 骸骨型のモンスター達は、それに反応しカタカタカタカタと、不気味に顎を鳴らして襲い掛かる。


 俺は、突貫しながら魔導紋を展開する。


 「ブラスティア・ランス!」


 ボルト系が、初級魔術ならばランス系は中級魔術だ。


 ボルト系と比べ、面での制圧能力が格段に上がっている。


 その分消費する魔力も大きくなるが。


 無数の炎槍が射出されていく。


 ドドドドドドドと、骸骨の群れを薙ぎ払い。


 小規模な爆破能力が効果的に作用して、更に骸骨の数を減らすことができた。


 今ので半分は減らせた。


爪楊枝隊長『え……!!!オタク君めっちゃ強いじゃん!!!!』

孔掘る加藤『まさに鎧袖一触……』

銀二『ええええ!?THUEEEEEE!!!???』

一級吊り師『うっそ。何ランクだよこいつ。陰キャだと思って舐めてたわ……』

チョコレートマニア『馬鹿みたいに強くて草』

みぎよりレッドロード『いいぞ!タツミ!!』


 「ハーッハッハッハッ」


 死神型のモンスターは、失った以上の数の骸骨を補充する。


マジ落ちくん『まだいるぞ!油断するな』

USB タイプAを許すな『もおおん、せっかく減らしたのに……』


 「嘘だろおい……!!!」


 そう何度も打てないぞ――!正直Bランク程の魔力があれば、大抵のダンジョンがソロで攻略してもお釣りがくるくらいだ。

 

 それを思うとこいつらはバケモンみたいに強い。


 「グライシス・ボルト!」


おのぎり『え?』

酒断ち『誰?』

カルマ山親方『オタク君とリューイチ以外に誰か魔術使えるっけ?』


 後方から真っ直ぐ、ギャル沢が走ってきた。


 「ギャル沢!?お前魔術が使えるのかよ!」

 「そんなの後、ってかギャル沢って呼ぶな!……あのおっきいのを倒せばみんな助かるんでしょ?豊徳院は後ろで手いっぱいだから、私が援護したげる」

 「ふん、まぁいい。礼は言わんぞ」


ゴシップバット『共闘キター!!!!』

唐揚げさん『うををををおおお、熱い展開』

おのぎり『二人とも頑張れ!』

ぺんぎん『リューイチくんも頑張れ』


 俺は、“マジで助かる”と思ったがえてそう答えた。


 こんな状況でも何故だかギャル沢には弱みを晒したくないと感じたからだ。


 「ばーか、ささっと行けし」

 「ふ」


 心強い味方の登場に、俺は全身全霊で答える。


 「ブラスティア・ランス!!」


 魔術式を両手で二重に展開する。


 着弾時の爆発で、辺り一帯が一瞬、昼間のように明るくなった。


 「グライシス・ボルト!!!!!」


 氷のつぶてが5つ。


 取りこぼした骸骨たちを蹴散らしていく。5連射だと――!?


 ふん、味な真似を……。


 二人の連携で、僅かな間ではあるが死神型のモンスターの取り巻きは壊滅状態。


 俺は、この期を逃さない。


すたみな次郎『今だ!タツミ!!』


 「ブラスティア」


 初級魔術をえて詠唱して発動する。


 こちらの方が威力が上がるからだ。


 魔術式へと魔力が充填されていき、燦々さんさんと輝きだす。


 「ハハハハハハハ」


 死神は、まるで余裕と言わんばかりに微動だとしない。


 狙いは、ええっと――、正直、ダンジョンにこういったアンデッド系のモンスターが存在するなんて今まで知らなかったから、どこを狙えば良いか分からない。


 取り敢えず、頭に照準を合わせる。


 「ボルト!」


 ボォッと、鈍い発射音がした頃には、既に、着弾間近。


 音速を越えたのだ。


 探索者のランクは主に保有魔力量がその評価の大半を占めているが、魔術の練度だけで言えば、俺はSランク探索者に匹敵する。


一級吊り師『いっけええええええ!!!』

カルマ山親方『やっれええええ!!!!!』

不明な点はお問い合わせました『お前ならやれるだろ!?』

三人目の僕『やっちまえ!タツミ!!』


 着弾。


 魔術は顔面に直撃。


 轟音が広間内に低く響いた。


 奴が首から下げていた赤い水晶は砕け、それに呼応して、新たに生産され始めた骸骨は砂の城の如く崩れて消えた。


爪楊枝隊長『良し!スケルトンが居なくなった』

入鹿『でも、本体が』

最速の牛歩『嘘だろ……』


 が、


 「ハハハハハハハハッ」


 本体には傷一つ付いていない。


 「おいおい、勘弁してくれよ……」


 「ガハハハハハハハハハハハハ」


 笑い声が少し低くなる。


 どうやら怒らせたようだ。


 その証拠に身体の骨は赤黒く変色し、髑髏どくろ頭の目と口からは青い炎が噴き出している。


 「ガーハッハッハッハッハッハハハハハ」

 

 大鎌を構えたかと思うと、戦闘機のような速さで低空飛行をして向かってくる。


 狙いは、ギャル沢だ!


 「避けろギャル沢!!!」


 気が付けば、身体が既に動いていた。


 こちらの方がギャル沢に近く、手を引いて間一髪でくぐった。


 「ちょ、どさくさに紛れて、手握んなし!」

 「お前なぁ、そんなこと言ってる場合j……」


 !?


 刹那せつな


 「ううう!?」


 見たことも聞いたことも無い、映像や情報が圧縮されて、無理やり頭の中に詰め込まれる。


 そうとしか説明しようがない感覚に襲われる。


 「うぅ、痛!?」


 ギャル沢も同様だった。


 「だ、大丈夫か!?」

 「大丈夫……、それより」

 「ああ」


 死神アンデット・ロードはいまだ健在。


 ん?アンデッド・ロードってなんだ――!?まぁいいや。


 奴は、勢いを殺しきれずにかなりの大回りをして再度こちらを目指してくる。


 「ふん、散々おれをコケにしてくれたなアンデット・ロードよ。この礼は、安くは無いぞ?」


 嗚呼、そうだ――。のだ。


 おれはアンデット・ロードの進路に立ちふさがると、巨大な魔術式を展開し始める。


 “大いなる魔術グランデル・マギカ”。


 選ばれたものしか使いこなせない秘術の事だ。


 「アルス」


 ふははは――!

 

 人類諸君刮目かつもくするがいい!!


 これが魔を統べる長の真なる実力よ。


 おれが、はるか遠き異世界からこうして降臨してやったのだ、感謝するがいい。


 そして、おそあがめるのだ。


 おれがこの現実世界に君臨し、混沌を治め、必ずや泰平の世を作り上げよう。


 「マグナ」


 諸君は口々におれの名をたたえ、おれへの親愛の証として巨大な像を立てるのだ。


 そして、朝昼晩とおはようからおやすみまで祈りを捧げることをゆるそう。


 後、チャンネル登録もするのだ。


 さあ、共に祝おうではないか――!!!!


 新たな伝説の始まりを!!!!!!!!!!


 「ブラs……」

 「アルスマグナ・グライシス。」

 「……。へ?」


 小さな氷の弾丸がアンデット・ロードを目掛け一直線に飛んでいく。


 見た目は小石同然だが、溶岩をも一瞬で凍らせるほどの魔力が凝縮されているのだ。


 音もなく着弾すると、アンデット・ロードの身体は秒で凍結し、更には連鎖的に大気中の水分までをも凍らせ始め、遂には、巨大な氷の華が爆誕する。


 それは、限界まで育ち切ると糸でも切れたかのように粉々になり、アンデット・ロードは断末魔を上げることも無く消滅した。


 「えええええ!?」


焼きくま『え?』

PARIPI『凄』

のあ『あんな魔術見たことないぞ!』

USB タイプAを許すな『ギャル沢ちゃんTHUEEEEEEEEE』

マジ落ちくん『マジか』

真夏のおでん『スゲええ!みんな無事で良かったあああ』

のあ『やった!』

PARIPI『俺たちは伝説の始まりを目撃したのかもしれない』

暗黒☩騎士ざまぁん『オタク君も強かったけど、最後のギャルJKの魔術ヤバすぎでしょ』

爪楊枝隊長『大丈夫?みんなケガはない??』

おのぎり『やべぇ、なんか泣きそう』

チョコレートマニア『スゴ』

銀二『オタクくんも良かったぞ』

酒断ち『みんな無事で良かった!』


 何してんのおおおおおお!


 おれの見せ場ああああああああ――!?


 おれは、振り向き。


 を放った犯人を捜した。


 ギャル沢だった。



 ※※※

 


 後日、この事件は暫くネットニュースを席巻した。


 実の所、ここ数年のⅮライバー事情は目新しさに欠けていて、業界内では停滞した雰囲気が漂っていたのだ。


 そこに来てのインパクト抜群のアンデット・ロードや美少女ギャル探索者の登場だ。


 今、業界内は第二次Ⅾライバーバブルを迎えようとしていた。


 豊徳院のチャンネルは一日で登録者が20万人も増え、件の配信した動画は500万再生までされた。


 真の功労者である俺には何もなかった。


 全てが俺の功績になるはずだったが、結局、ギャル沢の一人勝ちと言う結末を迎えた。


 当の本人は、伝説の美少女ギャル探索者“ギャル沢”としてネット上でたてまつられてしまいブチギレていたそうだ。


 しかし、そんな俺たちのあの事件の動画は、切り抜きも含め、


 敢え無く、ライブライバー社によって公開停止とされた……。


 その理由は……、


 ギャル沢がパンチラしまくっていたのだ。 

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