伝説の始まり中
まさかそんな風に思う日が来るなんて思いもしなかった。
現在、豊徳院の配信の同時視聴者数は10万人。
つまりは、今。リアルタイムで10万人に俺の醜態が晒され続けているということだ。
下に行く程湿気でじめって俺の今の心境を投影しているようだった。
取り敢えず、モンスターの一匹でも狩らないと締まらないということで、モンスターが湧きそうな場所を案内する運びとなった。
なんだか耐久配信と化して来たぞ。このまま帰れないとか無いよな――?
笠井が、一団より少し先を離れて歩く俺をヘッドロックしながら付いて来るから、逃げられない。
甘ったるい匂いが鼻をくすぐる。
コイツ香水を付けているのか――。
それと真っ赤なツンツン髪が
手にしたバットが、俺の腹に当たってぽよんぽよん跳ねている。
「な……、なぁ。鱶野はさ、好きなやつとかいるのかよ?」
え……。
どうしたのよ急に――。
笠井は普段出さない様な小さめの声でそう俺に問いかけた。
「……いないが」
「へ、へー。今日の昼休みよぉ、コスズはなんか俺の事言ってなかったか……?」
マジか。お前そうゆう感じなのか――。
ヤバ目のチャラ男の様な見た目をしておいて、いきなりピュアな面を見せるな。
「お前、宮越の事が好きなのか……」
「ばっか、鱶野。声がでけーよ。ちげーし、全然そうゆうのじゃねぇし」
俺は見た目で笠井の事を誤解していたのかもしれない。
急にかわいく見えてきた。
などと思っていると――。
「なぁこっち着てくれないか?」
「あ、リュー君が何か見つけたみたい!オーリ君、フカちゃんちょっと来てよぉ」
爪楊枝隊長『お!コスズちゃんが何か呼んでるみたいだぞ』
PARIPI『うぇーい』
酒断ち『オタク君、呼ばれてるぞw』
暗黒☩騎士ざまぁん『ねー、
豊徳院が獣道から外れた先で何やら見つけたようだ。
と、いうか隊列から離れるなよな――。
そして、さっきまで俺にぴったりくっついていた笠井の姿は既になかった。
俺も呼ばれた方へ、おずおずと近づいていくとそれは見えた。
「何だ、ただのゲートじゃないか。――あれ、こんな所にあったけ……?」
「ここ入ってみないか?」
豊徳院は俺に提案する。
マジ落ちくん『お、ゲートあんじゃーん』
ぺんぎん『流石リューイチ君おてがらぢゃん!』
おのぎり『お、そこ入ればモンスターもいるんじゃね?』
記憶違いでなければ、こんなところににゲートは無かったはずだ。
立川第二ダンジョンは俺の庭と言っても過言でもない程、配信で擦ってきたのだ。
現に、ここはたつらーの間では、“タツミの庭”と呼ばれているくらいには。
俺は
ある拍子で他のフロアに繋がるゲートが出現する。
と、いった現象は確認されているが……、そうだとすれば、こんな素人集団を連れての探索なんて危険すぎる。
「うぇーいwじゃぁこの先に行けば、モンスター狩りまくりじゃね?」
笠井が脳天気に言う。
「いや、この先は危険だ。やめておいた方が良い」
銀二『せっかく面白くなってきたのに邪魔すんなよ』
一級吊り師『はやくして、飽きてきちゃった』
こいつらは何も分かって無い。
未開拓エリアだとしたら、
俺だけでも冷静でいなければ、このパーティは全滅しかねない。
そうこうしているうちに、既に豊徳院達はゲートの向こうに消えていた。
「ねー、鱶野が役立たずな上に、びびり何ですけどぉ」
「あ”ぁ”ん!?」
売り言葉に買い言葉。結局俺もゲートを潜る。
※※※
ゲートを潜り抜けた先は、だだ広い広間の様な場所だった。
底冷えするように、足元から冷気が
転移した先では、先団が立ち止まっていてぶつかってしまう。
「痛って、なんだよ急に止まr……」
俺は、言いかけた言葉を飲み込むと、すぐに豊徳院達が立ち止まっていた理由を理解した。
何かが居る。
スティックのり3号『しゃぁモンスターきたああああああ!』
USB タイプAを許すな『え!?あれモンスターなの!?』
マジ落ちくん『めっちゃ強そうじゃんw』
爪楊枝隊長『いや、明らかにやばいだろコレ……』
真夏のおでん『ほたるちゃん!逃げて!!!』
チョコレートマニア『面白くなってきたあ↑↑↑』
暗黒☩騎士ざまぁん『負けるな陽キャ軍団www』
一級吊り師『w』
PARIPI『おい!お前ら煽るな!!……あんたらさっさと、そこから逃げろ!!!!』
少し先で、青白く粛々と輝く輪郭を、
揺ら揺らと、だが、着実に近づいて来るその様を、
骸骨で出来た、微かに笑うその顔を、
俺もそいつと目が合った。
「そんな話が違うじゃないか…」
誰かが小さくそう言った。
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