エンカウントエンカウンター

 実は、八歳の頃から結構な頻度ひんどでダンジョンに潜っていた。


 どうしても強くなりたい――、そういった経験をしたからだ。


 昔は、シェルターの様な物が無く、警備員が見張っているという感じだったので、工夫をすれば案外簡単に侵入出来たのだ。


 だから当時は、友人といったものが一人もいなかった。ダンジョンはトモダチなのである――。


 その経験が今の陰キャな性格の構築に一役買っているのではないかと、時々思う。


 そんな訳で俺は、探索者としてはそこそこ強いのだ。


 第一階層も、もう直ぐ端っこ。


 そろそろ、第二階層へ移動できるゲートが見えて来ても良い頃だ。


 今日はここまで来るのに誰にもすれ違わなかった。


 まぁそれは、ここがダンジョンとしては地味だからである。


 探索されきっているので新たな発見も無く、盛り上がりに欠けるのだ。


 それでも俺がここを愛用するのは、お財布に優しく、通うにも丁度いいからで。


閃光の射手ブラッド『こんたつー』

無限の聖槍ロジャー『こんたつー』


 順調にたつらー達が俺の配信に集まってくる。


きまぐれレッドロード『オラ、なんかおもろいことして楽しませろ!』

すたみな次郎『ばっか、俺たちのタツミはつまんねぇ方が面白れぇんだよ』


 なんだそりゃ――。確かに、奇をてらううと滑りますけど、滑りますけどぉ――!!


 「おい、待て貴様ら」


入鹿『所詮、タツミは配信界の底辺ばい』


 「あ”ぁ”ん”!?」


最速の牛歩『乗ろうとするなwやめとけwww』


 この配信に集まるやからは、殆どがオタクである。


 同じ陰キャ仲間だと思うと俺も自然と饒舌じょうぜつになった。


 チャンネルの成長に一切貢献こうけんしようとしない奴らだが、俺はコイツらを憎めないでいる。


 瞬間。


 「――っう”!?」


 こめかみが一瞬痺れた。


 俺は、異変を感じ取り、急遽配信を切り上げる事にした。


 現在、同接300人程。これを手放すのは口惜しいが……、いやまぁ、たつらーだしいっか。


 兎に角、俺の勘が正しければこのタイミングがベスト……ッ!!


 「おっと――。皆悪い!急だけど今日の配信はここでおしまい!!明日も必ず配信するぜ!それじゃぁ、最後にチャンネル登録・高評価を忘れるなよ!!あばよっ!!」


最速の牛歩『あれ、いつもより早いな』

すたみな次郎『乙』

きまぐれレッドロード『おつー』

悲しみの謁ボレロ『こんひめーってもうおわり!?』

痛風のタツナー『なに、これ、タツミが消えていく?乙乙』

ひめひめひめなー『早、もっとやれよー(泣き)乙』

エミール『Z』


 俺は流れるコメントを横目に、通路端の背の高い草むらに身を隠す。


 先ほどは、柄にもなくはしゃいでしまったが、所詮は陰キャ声はそれ程大きくは、なかった。


 だから。


 いまだ、には気付かれていない。


 優位性はこちらにある。


 そう……。


 「うぇーい!」


 奴ら陽キャだ!

 まさか、こんな不人気ダンジョンでクラスメイトに遭遇するなんて最悪だ。


 しかも、迷宮というくらいだから道だって要り組んでいて複雑だ、俺は前世で何か悪いことでもしたのではなかろうか。


 「ふ、らには、情けない姿は見せられないからな」


 緊張をほぐす為に自分の世界に浸ってみる。


 ここから先物音一つ立てるつもりは無い。やり過ごすのだ。

 

 取り敢えず、敵勢力の威力偵察をする。最悪の場合、俺は自分の身と心を守らなければならない。


 ええっと――。


 先頭から、赤髪ツンツンの笠井に、ポニーテールの宮越。


 ショートの立木、後、あのサイドテールは白ギャルの我が宿敵ギャル沢か。


 そして、なにかとムカつく憎っくき豊徳院。


 笠井の横にあと金髪の男が二人いるが名前がわからん。


 計七人の大所帯だ。絶対に絡まれたくない!


 周囲をドローンカメラが飛んでいる。


 あいつら、Dライバーだったのか……。


 成程。昼休みの一件はこのダンジョン探索動画配信のお誘いだったという訳ね。


 三えっっ人が揃い踏みな上にイケメン豊徳院。


 ビジュアル勝負では、奴らが上か。勝ちを譲ってやろう。


 ん?おい待てあいつら、制服じゃないか!死にたいのか――!?


 ここは、遠足やピクニックで来るような場所ではない。スーツ無しなんて自殺行為だ。


 俺は、呆れるのを通り越して、奴らの無謀さにある種の恐怖感さえ感じて震えていた。


 「うぇーい!なんだよぜんぜん肩透かしっつーか、俺らにびびってモンスター出てこれないんじゃね?」

 「うぇーいwそれあるぅwww汪理君すんげぇ強そうだもん」

 「うぇーいwwwこれならトップⅮライバーもよゆーでなれんじゃねw」

 「「「うぇーい」」」


 す、凄い。


 殆ど「うぇーい」で会話を成立させていやがる。


 もう「うぇーい」以外の言葉が必要ないだろ――。


 ……じゃない。俺がやったんだよ、ソレ――!


 俺があんたらの前で探索してたから、図らずも梅雨払いになっていたのだ。感謝して欲しい。


 「ねぇちょっと、そんな騒ぐなし!モンスターが怒って襲ってきたらどうすんのー?」


 ギャル沢は少しは冷静な様だ。そうでなくては困る。


 普段相まみえる強敵がポンコツでは、こちらの格も落ちるというもの。


 「ねー。私もちょっと怖くなってきた」

 「大丈夫だってコスズ、モンスターなんてバットで殴ればよゆーだべ!?」

 「笠井君、かっこいー」

 「そうっしょwww?」


 笠井は確かに金属バットを手にしていた。


 というかこいつら本当こいつらやかましいな。


 迷惑系Ⅾライバーなのではないか?そんな疑問さえ浮かぶ。


 実際。わざと騒いでモンスターを煽り、取れ高を稼ごうとする迷惑系Ⅾライバーは一定数存在した。


 ダンジョンは、見方を変えれば彼らモンスターの家である。誰だって自分の家で他人が騒げば頭にくる。


 そいつは正に大迷惑なのだ。


 豊徳院は、辺りを見回すと、


 「それじゃ、そろそろ配信を始めようか」


 こんな、中途半端なところから始めるのか――。


 まぁ、勝手だが。


 「まず、始めに。皆、50万人の事前登録ありがとう!!」


 ご、50万人んん!?俺のチャンネル登録目標の五倍かよ。


 ……いや、可笑しくもないか。何故なら。


 「ライブライバー社所属。新人Dライバーのリューイチです!今日はLL社の新作ダンジョン探索用スーツの宣伝も兼ねて、仲間達と配信していくから楽しんでいってくれ!!」


 ライブライバー社。


 ダンジョン配信の立役者にして、このⅮギアによって異世界通信法を確立した功労者。


 正真正銘のDライバーの産みの親。


 そしてそこのCEOの名は豊徳院翆怜すいれん


 豊徳院竜一は、翆怜の弟なのだ。


 そして。


 ライブライバー社は。


 悪の企業である。

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