星:ダンジョンのある日々(一人称)

 ある日、六大陸に大きなクレーターが複数発生した。クレーマーでは無い。月の表面にある大きなくぼみのことだ。


 原因は不明。突然、地表に出来た。元々そこあったものは粉々となって宙を舞い、付近へと散らばった。森も建物も人も動物も、皆全て粉々となった。そして、くぼみを起点にして大陸にヒビが入り、そこに海の水が入り込み、大陸は程よい大きさの島々となった。


 国? 大陸の大部分を占めていた国はもちろん崩壊し、小さな国へと分割された。日本は、と言うと、大陸に所属していなかったのが功を奏し、謎のクレーター発生から免れた。故に油断していた。数日後、小さなクレーターが島を潰すかのように彼方此方に出来た。日本もいくつか県がまるごと無くなったりした。


 もちろん、世界人口もかなり減った。国連発表だと、千分の一だと一万分の一だったか。ただあの組織も人が減ったことによる人材不足でそれどころでは無かったらしい。あと、どこかの国が報復としてミサイルを発射したらしい。どこからどこへ、というのは知らんが、大体やりそうな国はいくつかあるだろう。もちろんやられた国も打ち返したらしい。これでさらに人口は減った。


 世界的人手不足。これにより、人々が自身達を賄う食料の供給先を失った。世界的食糧危機。と思われていたが、クレーター跡に現れたモノによってギリギリ世界的餓死は免れた。人手不足は解消しなかったが。


 クレーター跡に現れたモノ、それはダンジョンである。ただし、もの凄く浅い。しかし、クレーター跡の中心にはもれなく一つ出来ていた。そして、そこから食料や資源がなぜか獲れた。ついでにモンスターも現れた。ついでに人類はレベルとステータスも手に入れた。


 まるでゲームのようである。と言うことで、今度はゲームと言えば、の日本が黒幕指定を受けた。が、ミサイルを撃った国々はすでに崩壊済み。であれば、と単身で乗り込んだ外国の皆さんテロリストは、日本で事件を――起こす前に民間人によって捕まった。何が起きたかというと、生き残った日本人は皆、ダンジョンとレベル制度についてあっという間に馴染み過ぎていた。故に日本人の八割以上が、日本を除く世界のトップレベルと同等の強さを持っていたのだ。


 オゥ、ジャパニーズニンジャァァ!

 ノー、ノー、ノットニンジャ。これにはからくりがある。単純に小煩い割にすぐ油断する方達が、ぐーぜんにもクレーターの追い打ちで消えていったのだ。残ったのは生まれたときからゲームに馴染みのある若人達。チーター、ビーター?上等。なモンで、ダンジョンへ突入する人続出。ついでに今晩のご飯を仕入れるために、突撃する主婦おばちゃん達も続出。メシが絡むとヤバいな、この国。


 挙句の果てに外国の不埒者テロリストが見たものは、武器である剣や盾では無く、ツルハシや伐採用の斧、なぜかクワを持った人たちがダンジョンへ潜る様。興味を持ち、聞き出してみると、ダンジョンの拡張工事中だとか。「え、ダンジョンって拡張できるの!?」と愕然としたとかなんとか。


 そう、日本人、浅いことに不満を覚え、自身でダンジョンを拡張し始めたのだ。決してクレーター跡に水田を造ろうとしてダンジョンから土を持ってきたところから始まったとかでは無い。それは多分デマだ、多分、そう信じたい。


 こうして始まったダンジョン拡張工事だが、工事中はなぜかモンスターから襲われないらしい。音が恐いのか、と推測した有名大学教授が、大音量の出るスピーカーを持って言ったが、ボロボロになって帰ってきた。小さな段差でダメージ食らったわけでは無く、大音量を出していたが故に、普通にモンスターに居場所を特定され、しつこく襲われたらしい。だったら、工事道具か、と再び教授。そして動かぬ身体になって帰ってきたことを報告しておく。なお、その帰ってきた動かぬ教授曰く、「ダンジョンには意思がある。ダンジョンを拡張したい、という人の行動と、ダンジョンを広げたい、というダンジョン自身の思惑の一致があり、人の阻害せぬよう取計らっていたのだろう」とのこと。しばらくは使わないだろうが、彼の遺言の候補として挙げられている。


 ダンジョンに意思がある、と言う話はそこそこに広がり、そう言えば、と言う噂話が飛び交う。

 ①イケメンだらけのダンジョンがある。でも美女や女の子モンスだらけのダンジョンが見つからない。

<国内、海外の反応>

・ダンジョンの性別って女性なんだ。

・そういえば、船も女性だもんな。

・ダンジョン娘のアプリまだですか?

・おいおい、奥まで入れても良いのかい?

・↑そして彼は帰ってこなかった。

他、省略。


 ②イケメンの工事作業者、よく作業後に居なくなる。

・ダンジョンも面食いなんだなw

・文字通り「食う」のか

・そういえば、昨日倒したモンス、知り合いに似てたような・・・ハッ

・止めてくれ、恐いだろ

・はいはい、ただイケただイケ

他、省略。


 ③ダンジョンで偶に女の子モンスがライブやってる。

・は? どこで、今すぐ行くわ

・種族は? アラクネ? サキュバス? ラミア?

・ついに見つかったか! 今すぐ拡散するんだ

・そう言えば、ちょっと前にアイドルグループの娘、ダンジョンに行って帰ってこなかったとか・・・。

・だから、止めてくれって行ってるだろーが

他、省略。


 以下噂話は省略。


 そんなこんなで、ダンジョンがある世界に変わってしまいましたが、本質は余り変わっていないようで・・・、今日も平和です。



――――――――――――――――――――――――――――――



 神々の間と呼ばれる空間。その世界の中心。そこに雄々しきチャラ男――失礼、スカした顔で上半身をはだけさせた馬鹿――創造神がおった。そこにもう一人、生まれてから随分立つけどまだまだ成長期、もっと背は伸びるはず、と信じ続けている今は幼女、未来は美女、の星神である我がいる。


「暇だぁーーー」

「なんじゃ、藪から棒に。と言うかお主、この間、神同士で戦争みたいなことやったばかりじゃろ」


 突然雄叫びを上げた馬鹿をじろりと睨みつつ、我はため息をつく。ついこの間まで、神を二分する戦が起きておった。どちらも大神を中心に、小神を多数引き連れ、大バトルの日々。我らはどちらの言い分も一理あり、として傍観しておったのじゃが、どこぞの小神がこちらへと攻撃を開始。面倒臭いから適当にあしらっておったら、もう一方の軍勢もこちらを攻撃。多分、我らを倒したら、その力を奪える、と思ったのじゃな、愚かな。


 余りにも見苦しいと思っておったら、先にこの馬鹿がキレおった。そして拳を一振り。両陣営のほぼ全てを消し去り、戦争なんて無かったことにしおった。まぁ、腐っても創造神じゃから、これくらいの芸当は余裕じゃて。我も同じこと出来るしな。


「はぁ・・・、んー。よし。決めた!」

「何をじゃ」

「ダンジョン作ろう!」

「は?」


 何を言い出すのか、と此奴の姿をよく見てみると、手元に下界で言われるタブレットが。そう言えば、神界の世界樹の大女神の部下達が、神々に配っておったな。良い暇潰しとかいって此奴は漫画ばかり入れておるようだが。


「ここは流行に乗るべし! ってことで、まずはダンジョンのための穴を――」

「待て待て、星を穴だらけにする気か!?」


 馬鹿は、中に映し出された星に向かって、過剰すぎる神通力を向けようとしておった。此奴の神通力は少しでも八百万の神を殲滅した力じゃぞ。そんなモンを我の加護が一応ある星とは言え、只では済まん。


「せめて、この月の表面くらいの威力になるよう調整せい」

「月・・・、ああ、これか。ほいほいほいほい」

「うむ。このクレーターとか言われておるくらいであれば、表面を少し削るくらい――って、ちょっと待たんか! 今何発打ちおった、この馬鹿」


 星の映像に映し出された地表に、いくつものクレーターが発生する。結果、そこに海の水が流れ込み、大地を割り、大陸は小規模の大陸へと分散した。


「なぁぁぁ!! 何やっとんじゃ、この馬鹿!」

「ふむ、これだと、元ネタのジャパンにダンジョンが出来ないな。こういうときは、なんとか指先一つで、ちょいちょいちょいっと」

「あああ、やめんかぁぁぁ!!!」


・・・

・・・

・・・


 とりあえず、地球に作ったクレーターの中心にダンジョンコアを配備。放っておけば、ダンジョンが成長するらしい。


「って、この電子書籍に書いてた」

「漫画じゃねえか!

 というか、ダンジョンコアとかいうのさらっと造っておったが、それ一つで何とかなるのかの?」

「異世界から転生した人がなんか色々やりとりして無双してるな」

「・・・つかぬ事を聞くんじゃが、それも用意してるんじゃろうな?」

「異世界転生は手続きが面倒臭いんだよ、星神ちゃんは知らなかった?」

「知ってるわっ!

 つーか、なんじゃ、そうなると、ダンジョンコアがぽつーんとそこにあるだけか、今の状態!」

「そうだね。あ、でも、サキュバスちゃん達にフォロー頼んで置いたから大丈夫っしょ」

「だ。大丈夫なんじゃろうか」

「きっと、可愛い子達を増やしてキャッキャウフフしてくれるはず。そうなったら、俺っちも遊びに行こう! あ、星神ちゃんも来る?」

「行かんわっ!」



 というやりとりがあってから数日後。

 すっかり地球もクレーターだらけの姿にも見慣れ、地殻変動も収まった頃。地べたに這いつくばる馬鹿が一柱。


「・・・何やっとるんじゃ、お主」

「さ、サキュバスちゃん達が・・・」

「彼奴らがどうしたんじゃ?」

「サキュバスちゃん達が女の子モンスターを集めてくれないっ」

「ああ、そう」

「理由を聞いたら、『好きなようにしても良いって言われたし、私達にも目の保養が必要』って!」

「そらそうじゃろ」

「女の子は!? キャッキャウフフは!?」

「知るか、馬鹿」


 よく分からないくらいに知能レベルが落ちた馬鹿を見下しつつ、ここに来た要件を告げる。最近、どうにも魂の循環がおかしいのだ。


「のう、最近、輪廻の輪の調子がおかしくないか? 担当者はどこにおったかの?」

「ん? んー、あれ、そう言えば後任造ってないや」

「後任?」


 ぽけっとした顔でそう答える創造神。なぜか、凄い嫌な予感がする。そもそも後任とは何じゃ。まるで今は居ないような――


「ほら、戦争でいなくなったじゃん」

「いや、彼奴も中立で戦争には加わっておらんかったじゃろ」

「そうじゃなくて、最後の俺の一撃で、さ」


 そう言えば、この馬鹿、一撃で両陣営の小神・大神を滅しておったが、まさか、戦争に加わってすらおらんかった者達も巻き添いにしたんか? え、馬鹿なの? いや、馬鹿じゃったわ。


「いやいや、そんな目で見ないでよ。とりあえず、今造るよ。

 ってアレ、神の魂もちょっと少ない?ここ最近、何か造った記憶は無いんだけど」


 困り顔で馬鹿は言う。創造神は無から有を創造可能だが、無から造るより有を造る方が神通力の消費が少なくて済む。そのため、無意識に有から有に作り替える能力を発動する。

 さて、この場でこの創造神が何か造って居たのだろうか。彼の手元にあるタブレットは世界樹の女神の部下から支給品。一応置いてある家具は戦争前から変わらずここに置いてある。


「ここのモノを増やしたってわけじゃなさそうじゃな」

「んー、だとするとちょっと拙いかも。神の魂で出来たモノが下界にでも落ちてたらそれこそ、その魂が無双しちゃう。・・・・・・無双? あっ」


  顔面蒼白にしながら、地球の映像を拡大する創造神。何やらやっておるようじゃが何やっておるんじゃ?


「ダンジョンコア、やっぱり。

 あっ、ダンジョンで死んだ人魂、勝手に使い回してやがる!」

「なんじゃと!?」


 思い出した。確かに此奴はしれっとダンジョンコアをここで造っておった。その材料として神々の魂を使いおったか! しかも神々の魂はそうそうモノに変わったとて意思が消えるモノでは無い。神通力も残っておるようじゃ。


「おい、どうやってコレ回収するんじゃ」

「えっと、うん。見なかったことにしよう」

「おいっ」

「いや。あのさ。どうもこの神通力のおかげで、ダンジョンの生成物が豪華になっているっぽいんだよね」

「それがどうしたんじゃ」

「今の人の世って、人が減ってるから、コレがないと命の営みが止まるっていうか星が滅ぶ?」

「なっ、なぁっ」

「だから、もう、放置するしかないんじゃないかなー」

「なぁぁぁ--!!!」


・・・


 しばらく後、突然現れた神界の世界樹の大女神に、二人共めっちゃ怒られた。

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短編集(星と夜) 水時計 @clepsydra

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