夜:陰陽課(一人称)
私は、警察庁陰陽課の一人。あ、陰陽課というのは、明らかに人の能力では発生しえない事象などを取り扱う課のことで、この世界では古くから存在している。と言っても、秘密課の一つで、表ではただの交通課の一つにされているんだけど。
「オイ、また泥案件だ。今度はデスゲームだとよ」
「うぅ~、またですかぁ~」
先輩の平さん(ちなみに課長)が、バサリと書類の束を私の机に置く。いや、PCがあるんだから、わざわざ演出のためだけにそんなことしなくても良いです。紙の無駄です。しかもこれ、被害者の一覧とかがっつり個人情報載っているじゃないですか。裏紙にも出来ませんよぉ~。
「よろしくな」
「えぇ~、はいぃ」
陰陽課は、明らかに人の能力では発生しえない事象などを取り扱う課、でした。今は科学技術の発展のせいで、面倒臭い事件を押しつけられる課です。
「泥案件のデスゲームって運営会社は・・・っと。げぇっ、お姉様方の会社じゃないですか。今年でもう三件目ですよ・・・」
私は紙束から只今デスゲームを開催中している関連会社の一覧を眺めます。そもそもフルダイブシステム出来る技術を持った会社はほぼ一択、異世界技術をパク――いえ、横流――いえ、流用・・・ああもう面倒。異世界の技術を持ち込んだ我が一族、
「ちょっと乗り込んで、爆破とか出来ないの?」
一部の書類を抜いたことでズレて落ちそうな書類を宥めていると、横から隣席の子も支えてくれました。いつもおやつを分けてくれる良い子です。言うことは過激ですが。
「無理ですよぉ。あの人達、ああ見えても一人一人が一騎当千で、被害は一般人にしか与えられないですぅ」
「そこはほら、夢魔的な力でパパッと、ね?」
「いや、向こうも夢魔ですし、何なら格上の夢魔ですし」
夢魔にはいくつかのランク分けがされています。知能を持たない劣等種から、世界を渡ることができる最上級種まで。私は丁度真ん中くらいで、彼女らはその最上級種の一歩手前。私が直接戦おうとしても、目が合うだけで魅了を受け、その場でノックアウトです。うん、ダメ、絶対勝てない。
「とりあえず、これをやらかした人に話聞きに行こっか」
「はいぃ・・・」
彼女はさっとバックを持ち、片手でスマホを弄ります。多分、地図アプリでしょうか。そう言えば、さっきの紙に住所が書かれていたはず・・・、とその紙は既に彼女の手の中にありました。行動が早い。
「いや、貴女がのんびりしすぎなのよ」
「そうでしょうか?」
「とりあえず、長時間、被害者が寝たきりになるから、病院も確保しないといけないかな」
確かに、と思ったのですが、ここでふと、前回の事件のことを思い出しました。前回の事件は、真夜中に高速道路を走る人が大量発生したことです。この原因はフルダイブ中、身体を動かさないことによる筋力の低下を憂いた例の会社が、自動運動付きベッドを売り出したことによる騒動でした。
その最初は一定時間ごとに膝部分だけを持ち上げ、簡単に身体を動かす、というシンプルな機能でした。それが段階を踏むにつれ、腕を動かし、両足の動きが分離し、介護支援団体や政府による支援を受けて調子に乗り、ついには寝てるうちにマラソンを始め、いつの間にか、高速を走る集団と化していました。ちなみに、途中で起きないようランニング中は意識ロックされていたようです。そして、起きたときには激しい筋肉痛が・・・。
「どうしたの?」
「あ、いえ、前回の件を考えると、ちょっとは余裕ありそうだなって」
「あー、ああ・・・」
彼女も苦い顔になります。実は彼女、平さんに言われて試しにベッドを利用した被害者の一人だったりします。恐らくその時のことを思い出しているのでしょう。平さんが部屋から出させないように直前でドアを閉じた結果、ドアをぶち破りましたからね、(無意識の)彼女の全身で。
「とりあえず、行くか。あ、発砲許可取っとく?」
「あの、本当に何しに行くつもりですかぁ」
「マッドサイエンティストは潰すに限る」
「何ですか、それ」
あ、ちなみに我々が使う『泥』案件という意味は、『マッド』なサイエンティストが起こしそうな事件、と言う意味です。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
例の会社の帰り道。私と彼女は一人の男を後部座席に載せて署に帰っています。後ろの男は虚ろな目のまま動かず、ぼーっとしたままです。恐らく私達が先ほどからしている雑談も一切聞こえていません。
「・・・やっぱり、爆弾仕掛けるべきだったかな」
「ですからぁ、それしたって、被害を受けるのは一般人さんだけですってぇ」
「むぅ。とりあえず、一人逮捕したから良しとするか」
・・・・・・・・・
私達がビルに乗り込んだ結果ですが、すでに終わっていました。ビルの前に立ったときに平さんから電話があり、今回の事件を引き起こしたマヌケを引き渡す、との連絡があった、と言われました。確かに目の前、ビルの前に見覚えのあるお姉様が殺気立てて立っておられます。その傍らには犯人らしき男がいました。
「企業スパイ。評判落としのために勝手にウチのネットワークに侵入してきたのよ。痕跡ほぼ消されてたから追いかけるのは苦労したけど」
「あ、はい」
「あと、デスゲームは演出でしたってことで済ませてある。すぐに気づいて通報と同時に解除をしたから、被害者は一応無傷のはずよ。一応裏付けはよろしく」
「・・・ご協力感謝します」
「こっちはそいつの雇い主に抗議を送るわ。ああ、平さんにも資料はメールで送っておいたから後で見せてもらってね」
「はい」
「あの、お姉様?」
「何かしら」
「この人、生きてますよね?」
「肉体的には生きてるわよ? ほら、動いた。問題ないでしょ?」
「あ、はいぃ」
・・・・・・・・・
というのが、先ほどまでの経緯です。本当に怒ったときのお姉様って恐い。というか、最初にネットワークに侵入って言っていたはずなのにさらっと人体を追い詰めてるのっておかしくないですか? 痕跡ほぼ消されてたって証拠とかどうなってるんでしょうか。あ、でも平さんにメールで送ったって言ってたなぁ・・・。多分今頃、プリンターがフル稼働してる気がする。
「とりあえず、帰ったら机の整理ね。きっと書類増えているでしょうし」
「・・・やっぱりそう思いますかぁ」
「平さんだからねぇ」
私達が乗った車は本部へと戻ります。
これが陰陽課のとある一日の話。この後、プリンターのインクを交換しようとして黒インクをまき散らした惨状に出くわし、平さんと三人で掃除をする羽目になるのはまた別の話。
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