魔法少女の適正
ユダカソ
魔法少女の適正
「君には魔法少女としての適正がある。選ばれし戦士だ。」
魔法の妖精にいきなり魔法少女として選ばれたのも束の間、敵に襲われ大ピンチ。
そんな状況に陥った少女はこの街に珍しくなく、彼女たちは日夜世界平和のために戦い続けるのだーーー。
魔法少女が闘う相手となるモンスター達は暴走した人間の心の表れだ。
何か不満を抱えていたり、どうしようもない悩みを抱えた人間は悪の組織に利用され、心を暴走させてしまう。
すると彼らはモンスターとなり魔法少女達に襲いかかるのだった。
モンスターの形は様々で、心を暴走させた人間が大切にしていたものの形をしていることが多い。
例えば野球の試合に出たかったけど脚を怪我して入院してしまった子はグローブ型モンスターに、好きな子に手紙を渡したけど振られてしまった子はラブレター型のモンスターとなる。
このようなモンスターに対して、魔法少女は蹴りを入れたりパンチを入れたり、はたまた癒しのビームを撃って敵の心をケアするのだ。
すると敵は落ち着いて平静を取り戻し、人間へと戻る。
という流れを繰り返し、かくして今日も平和は魔法少女によって保たれたのだった。
魔法少女は各学校に数人いるかいないかの割合で存在する。
魔法少女どうしで仲良くチームを組む者もいれば、ソロで活動する子もいる。
でも結局残るのはソロだ。
チームでワイワイ楽しくやっていた者も、仲間同士で仲違いをしたり、内輪ノリについていけなくなったりして、みんなやめてしまうのだから。
はじめはみんな楽しんでいる。
いきなり得た強い力に、立ちはだかる敵を倒す爽快感。
一気にヒーローになれる。
「ありがとう!」「すごい!」「かっこいい!」「さすが!」
周りからは賞賛を得る。感謝される。名声も上がる。
こんなに楽しいことは無いとノリノリで魔法少女を楽しむのだ。
魔法少女に選ばれた誰もが数日間〜数週間は積極的に活動する。
だがその後、魔法少女の伸び代は適正次第で大きく差が開いていく。
初めはノリで倒せていたモンスターも、数をこなす内に強くなっていき、悪の組織の幹部との戦闘も加わっていくのだ。
それだけでなくライバルが出現したり、仲間の魔法少女と仲違いしたり、ベテランらしき同業者から「お前なんか向いてない。やめろ。」と言われたり……。
戦いはモンスターだけではなくなっていく。
さらに日常は容赦なく過ぎていき、戦闘なんかしていてはテスト勉強もついていけなくなる。
先生や家族からは「何をやっているんだ」と怒られる。
落ちていく成績を前に彼女達は「魔法少女をやっているから」なんて言えるわけがない。
「そんなふざけたことをしているから頭が悪くなるんだ」と言われるに決まっているから………。
そんなことが重なれば、当然負け戦も増えていく。
するとどうだろう。
助けられなかった者の友達や家族など、被害者達によって魔法少女は「お前のせいで」となじられる。そしられる。けなされる。さげすまされる。
「弱いな」「何やってんだよ」「負け犬」「ふざてんのか?」「真面目にやれ」
昨日までの賞賛が一気に罵倒に変わる。
観衆は一切手伝わないのに。
戦っているのは魔法少女なのに。
周りは観ているだけで、何もしないのに。
痛みを知らない者ほど無責任に罵倒する。
問題を解決するより、非難する方が簡単でラクだからだ。
その実態を知った魔法少女は、次々とやめてしまう。
「こんなこと続けていられない」と、匙を投げてしまうのだ。
そうして新米魔法少女は減っていき、残るはベテランだけとなる。
だがそれも仕方がないこと。
彼女たちには適正が無かっただけなのだ。
適正の無い、魔法少女になれない者達だった、ただそれだけのことだ。
適正が無かった元・魔法少女たちは日常にすぐ戻れるわけではない。
「あの子魔法少女だったんでしょ?」「えー本当に?」「やめちゃったんだって」「才能無かったんだ」「なんで魔法少女なんかやったんだろ」「自分が可愛いと思ってたんじゃない?」
魔法少女だった過去がまとわりつき、周りにいじられる要因となる。
この状態が数ヶ月続く場合もあれば、数年経っても「お前、魔法少女だったんだって?」と掘り返されることもしばしばだ。
最悪の場合、このことに耐えられず自殺してしまう少女もいる。
魔法少女としての適正が無かっただけでなく、心も弱かったんだろう、かわいそうに。
残った適正のある魔法少女は戦い続ける。
世界の平和のために。
傷はついても何も得られないような戦いに彼女たちは臨み続けるのだ。
頑張っても頑張っても報酬は得られないのに。
世界が平和になることが、魔法少女のただひとつの願い、なんだろう。
きっと。
魔法少女が魔法少女を続ける理由は誰にもわからない。
魔法少女をスカウトする妖精はもちろんのこと、魔法少女自身もなぜこんなことを続けているのかわからないのだ。
こんな見返りの無いつらいだけのキツい業務なんて誰もやりたがらないことだ。
こんなこと、適正が無ければ続けられるものじゃない。
魔法少女の適正がある子はどんな目に遭っても文句も言わず闘い続ける。
闘いが終わっても、終わらなくても、どうしたらいいのか魔法少女には何もわからないのだ。
自分では何も決められないような子が、魔法少女となるのだから。
魔法少女の適正条件は以下の通り。
「運動神経がいい子」
「成績は良くても悪くてもバカ真面目である子」
「決められたことを守る子」
「見返りは求めない子」
「やりたいことが特に無い子」
「一度始めたことをなかなかやめられない子」
何より一番は「頼まれたことは断れない子」。
いい子であればあるほど魔法少女に向いている。
いくら使い潰しても、文句を言わないから。
魔法少女の適正 ユダカソ @morudero
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