第18話 洲蹴頓

 俺は物言わぬ骸骨を物言わぬ骸骨にした……いや正確には物言わぬが動く骸骨を物言わぬ動かない、ただの屍に戻したというべきか。

 戦闘が一息付き、俺達はキャンプを張り食事を摂る。

 骸骨と戦った後なのに、鳥とはいえ骨付き肉か……と冗談を言おうとしたが食事担当に取り上げられては事だし黙っておく。


 しかし此奴等を見ていると不思議である……人間の骨がそこそこの冒険者と同じ程度の腕力で剣を振り槍を突き刺してくるのだ。

 ……そもそも何故ここまで力が強いんだ? 人間には筋肉という、手を振り上げ足を動かす為の機関があるが、此処までの力を出すならそれなりの太さの筋肉が必要だ……此奴等は勿論その様な物は付いていない。

 始めて戦った際当時の装備、檜の棍棒を全力で叩きつけたが弾き返された。3~4cm程の太さの骨なのに耐久力もそこそこあるだろう。


 油で揚げた骨付き肉に齧り付きながら、意地汚く骨をしゃぶってみる。

 関節の部分を綺麗に平らげると勿論骨と骨は外れる。骨と骨は靭帯? とかで繋がり、皮や筋肉が周りを覆う事で強化されている。

 ……此奴等の場合は? 勿論骨と骨の間に皮も靭帯もなく、筋肉も存在していない……では一体何で繋がっているのか?

 魔力、と一言でいうのは簡単だ。俺も勿論そう思っている。

 ただ先ほど言った通り骨と骨の間は物理的には繋がっていない筈だ。

 其れなのに何故此奴らは、態々骨格標本の様に「人型」をしているのか? 何故人間と同じ様な動きしか出来ないのか?


 例えば関節が自由に動くのならば、首は360度自由に動かせる為死角という物が存在しないだろう……そもそも眼球がないのに何故頭蓋骨をこちらに向けて「見る」必要があるかという話だが。

 肩や腕の関節を剣を持ったまま四方八方ぐるぐると回せば背後や頭上は勿論近付く事さえ困難になる。

 背骨を後方180度折り曲げる事が出来れば俺達の攻撃を回避しつつ、足に刃でも付けておけばノータイムでの反撃も出来るだろう……マトリックsゲフン、曲芸師の様だが。


 ……いや、そもそも骨と骨が繋がっていないのなら、例えば腕の骨を何本を連結させ長くしたり、手首と肩の間を背骨の様にして鞭状にしたり……。

 そもそも何で「骨」である必要があるんだ?骨も丈夫とはいえ世にはもっと固い物質も沢山ある。肉という鈍重な鎧を取っ払ったのに重さ制限もあるまい?


 魔力じゃなく霊魂が存在し、其れ等に人間の様な形があるから此奴等も、とも考えたが、最初バラバラの状態から積み木の如く組み上がる事もあるのだ、理由にはなるまい。

 想像だが最初に骨に魔力を注ぎ兵にしようとした魔術師は、多分に骨、死体をただ動かして不死の部隊にしようと思っただけではないのか?

 魔力でそこそこ強化されたそれは確かに人々に畏怖を与え、それなりの戦果を挙げたのだろう。

 ……そして後続の魔術師も次々と真似をし、此奴等は結局人としての動きしか出来なくなったのだ。


 もしこの固定観念が崩され、散乱する骨がありとあらゆる形となり予測出来ぬ方向から人を襲うのなら……。


 それはもう此奴等「スケルトン」ではないな……俺は雑念を振り払い食事を再開した。

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