第17話 「よし、首元を切りつけた」

 「では逃げるぞっ」

 「え?」

 「え? じゃねえよ。暴れる彼奴の吹き飛ばす瓦礫に当たりたいのか? ほら、こっちだ」


 ……訝しむ転生勇者の背を押しつつ、熟練戦士は入り口付近まで逃げる。

 三つ首龍・ヒュドラは血を噴き出しつつ暴れまわっていたが、段々と動きが鈍くなり、やがてドスンと音を立て崩れ落ち痙攣し始めた。

 「あ、あれ?何で……あっそうか毒だ、毒を使ったのですね?」

 「それならば楽だったのだがな、生憎依頼主はヒュドラの肉を所望だ。何に使うかは判らねえが毒を使うのは避けたかったしな」

 「で、では何で奴は瀕死になったのですか? 首元を切りつけただけなのに」

 「いや、そりゃ彼奴だって生物だ、首元の太い血管を切れば出血多量で死ぬだろ」

 「それはそうなんでしょうけど、ヒュドラって首を全て斬り落とさねば直ぐ生えて来るんじゃ」

 「おいおい、どこの御伽話だよ。その辺の蜥蜴とかなら尻尾を切り落としてもまた生えて来るかもだが、あんなでかいのの首が生えてきたらホラーだわ。胴体の三分の一くらいの太さがある首を切り落とすのも大変だが……人間だったら片腕を切り落とすようなもんだ。出血多量以前にショック死するかもな」

 「うーん、常識で考えたらそうかもしれないけど……」

 「むしろ人間だったら片手を切り落としてももう片方の腕で止血出来るが、彼奴は見た目通り全て頭だしな。あの鋭い牙で切り口を押さえようと思っても逆に傷付けちまうだろうさ」

 「うーん、でも俺の常識的に納得ががが」

 「そういえばお前はこの間のランドタートルとの闘いでも、MPの無駄だっていうのに氷魔法を唱えてたな。そして俺がバトルハンマーで倒してるのを見てぶつぶつ言ってたが……」

 「いやだって、亀系モンスターは物理に強くて氷魔法に弱いって思ってたから……」

 「そりゃ亀に限らずどんな生物でも寒けりゃ動きも鈍るけどな……いくら固いからって思いっきりぶん殴れば脳震盪も起こすだろうし内臓も破裂するだろ?

 どんな重装甲をしてても、あの重さ3キロはあるバトルハンマーでぶん殴って無事ですむと思うか?」

 「うーん、うーん」

 「後お前、この間のメデューサの時も目を伏せながら戦ってたな。駄目だぞ、いくら裸の女の上半身だからってちゃんと敵を見ながら戦わないと」

 「だって……目を合わせたら石化するって……」

 「だからどこのおとぎ話だよ。ずっと対峙していた俺はどこも固くなってないぞ、俺の息子以外はな、ガハハ! ……それはともかく、本当に視線で相手を石化出来るとかなら、遠距離くからの弓や魔法とかじゃないと勝てないだろ。

 メデューサも遮蔽物の多い迷宮にいないで、見通しの良い所にいるべきだ。そもそも石化なんて強力な技能が見るだけで発動するとかなら仲間とだって一緒に暮らせんわ。

 あれは上半身で油断した相手を下半身の蛇部分で巻き付いて絞め殺すただの物理モンスターだよ……おっと、ヒュドラが息絶えた様だ。持てるだけの肉を切り取って凱旋だ」

 「うーん、判る、判るんだけどさぁ! なんて説明したらいいんだ、このモヤモヤ感っ!!」

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