第13話 俗・真祖吸血鬼の憂鬱

 どうだ? 食事は美味いか? コック長は元々人間界でも一流シェフだったらしい。今日は出ていないが舌平目のムニエルは絶品だ。

 ん? 勿論吸血鬼とて血液ばかり啜っている訳ではないぞ? 普通に食事もとるし、血液は必要だが正直美味しくはないしな。今飲んでいる物? 血と思うたか? 残念じゃが赤ワインじゃよ。

 指先を切った時無意識に舐めたりするだろう? 美味しいと思うか? 何と言うか鉄臭いというか半端なしょっぱみというか……我だって必要じゃなければ飲みたくはないわ。実際月に1回ワイングラス1杯ほども飲めばいいらしいし、そもそも今は飲まなくても点滴という物もある。


 ん? 首筋に齧り付いて飲むイメージじゃと? それは件の小説のイメージだろうな。

 考えてみろ、首筋には確かに太い血管もあり傷を付けたら食事に充分な量が流れるだろうが、そこに嚙り付く前に抵抗されるだろう?至近距離から頭突きやパンチを受けて牙を折られたら堪ったものではないわ。吸血鬼に限らずとも巨大な犬歯に噛まれたりすると相当な痛みもあるだろうしそれこそ死ぬ気で抵抗されるだろうしな……。

 もしどうしても首筋から吸血行為をしたいのなら、相手をどうにかして気絶等させないといけないだろうな。劇中の吸血鬼は薬やら催眠術でも使ってると思うぞ。


 次は変身の件について? 霧の件でも言ったが我は出来んぞ? そもそも生物が違う生物に擬態ではなく「変身」するという事自体がとんでもないわ。虫の変態ではないのじゃぞ?

 先程もいったが霧に変身すればほぼ無敵だろう。むしろ何故弱点があるのかという話にすらなる。

 まぁ考えられるとすれば厳密な水蒸気としての霧ではなく、目に見えない位の大きさに分裂した、という事かもな。

 無論脳細胞等も分裂した状態なのに更にそれがまた吸血鬼へと戻れるというのがもう驚きだわ。考えられるに本体は幽霊のようなものなのだろうな。そうなると何故肉の身体を持ち血液を主食とし、白木の杭が弱点なのかという話に戻るが。

 

 変身はともかく、強大なパワーについてじゃと? ううむ、特に我は力が強い訳ではないぞ? 体力もそうないしな。

 そもそも人間の大きさならば、どう足掻いてもパワーの限界はあるだろう? 創作物とかで出てくる吸血鬼は人間を襤褸切れか何かの様に容易く引き千切ったりするが、熊ほどの手の太さがあるのならともかく優男の様な体格では多分に筋肉の密度的に無理じゃろう。

 とはいえ熊は勿論猿とかも人間より小さくても人間の数倍の力を持つという。チンパンジーと握手をしようものなら手が複雑骨折し、場合によっては破裂するらしいな。

 だがそもそも、それだけ力を持っていても緊急時以外人間が作った武器を持った方が安心じゃろう?

 急に襲われたとかならともかく、獲物を狩る際でも拳銃やナイフを使った方が遥かに楽じゃわ。我ですらいざという時は魔法じゃなく拳銃を使うしな。


 ……


 何? そろそろ時間じゃと? まだまだ話足りないのじゃが……。

 まぁ我は貴様が気に入った、いつでも質問しに来るがよい。

 ん? 最後に……何故吸血鬼が今も魔物たちの王のように扱われてるかじゃと?

 ……まぁ様々な創作からくるイメージと、種としての絶対数の少なさからくる認知度の低さからまだまだ「誤解」が解けていないせいだろうな。

 我の様に魔法合わせての戦闘能力なら高い個体もいるだろうが、そもそも力だけ強くてもな……。

 まぁせいぜい夢を壊さない程度に真実を伝えてくれたまえ……か弱き王族の存続の為にもな、ふふり……。

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