03 誰かの隣で


 そうして、坂下さかしたとの関係は結ばれ、解かれた。


 だからどう言う事もなく、しばらく時間が過ぎた頃の放課後の教室。

 

 すっかり寒くなった秋空は、今にも泣き出しそうになっている。


 暑かったり寒かったり、雨が降ったり降らなかったり。


 曖昧な天気は、気持ちを右往左往させようとしてくる。


 そんな妙に感傷的な気分になっていると、雨がとうとう降り出した。


「うわ、雨じゃん。最悪ー、雨宮あまみやが降らせたんでしょ」


 友達が軽い調子で私の元にやってくる。


 この苗字のせいか、雨になるとたまにこうして遊ばれる。


 別に気にはしてないけど、かと言って彼女に共感をするわけでもない。


「まあ、雨でもいいでしょ」


 雨を見ていると、坂下のことを思い出す。


 彼女に会った日も、去った日も。


 どちらも雨が降っていた。


 良い思い出なのか、悪い思い出なのかは置いといて。

 

 とにかく、雨は彼女のことを連想させる。


 教室の窓から見える景色を見やる。


 校門まで傘も無しに自転車を漕ぐ生徒や、傘を差してゆっくり歩いて行く生徒もいる。


 その中には、相合傘なんてしているおめでたい人もいたりするわけだが――


「あれ、坂下じゃない?」


「……みたいだね」


 ――まあ、それが彼女だったのを目にして驚かなかったと言えばウソになる。


 友人も目にしていたから、努めて冷静に返事はしたけれど。


「へえ、あの人付き合ってる相手いたんだねぇ」


 その隣には、男子生徒が傘を差して隣を歩いていた。


 二人は言葉を交わしながら校門の外へと向かって行く。


「坂下、最近一気に可愛くなったもんねぇ。彼氏出来たんじゃないかって噂になってたけど、マジだったか」


「……へえ」


 坂下が可愛くなったのは、ちょっとだけかもしれないけど私も関係していて。


 まだ慣れていなかったメイクを教えたりとか、ヘアアレンジを一緒にやったりとか。


 洋服を買いに行ったりとか。


 そんな積み重ねの結果だったと思う。


 まさか、それが良く知らない男の手柄になってしまうとは。


 無念だ。


「にしても、相手がなぁ……ちょっとセンスないかも」


「そうなの?」


 友人は坂下より、その隣にいる男に渋い反応を示していた。


「彼女をとっかえひっかえしてるみたい。評判は良くないよ」


 眉間に皺を寄せている友人の反応は芝居じみてはいるけれど、嘘を言ってる態度でもない。


「でも坂下とは上手くいくかもしれないし」


 私と坂下は上手くいかなかったけれど、それは私のせいだろうから。


 今度は上手く行くのだと信じたい。


「いやあ、それが一回手を出したら別れるみたいなパターン多いらしいよ。経験人数を増やしたいんだってさ、アホだよね」


 それを聞いた途端、喉の奥が閉まって頭の中に熱がこもった。


 どうしてそうなったかは自分でもよく分からないが、とにかく感情が荒立つ。


「……すぐ手を出すの?」


「みたいだねぇー。けっこー強引なんだって。でも顔面だけはいいから騙される子多数」


 いや、仮にそうだとして。


 それを坂下が良しとするのなら、別にそれでいいことだ。


 私が口出しすることじゃない。


 それにすぐに手を出すことに嫌悪感を持つ資格も私にはない。


 だって私も、同じようなことをしたのだから。


「でもあれだね、雨宮がカップルに興味もつなんて珍しいじゃん。とうとう一人が寂しくなったか?」


「……べつに」


 本当は、胸の奥を射抜かれたような感覚。


 私は私が思ってるよりも、坂下のことを気にしているのかもしれない。


 こんなにも動揺していることが、きっとその証拠だ。

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