第8話 死体はどこから? どこへ?

 その日の状況で分かったことというとそれだけのことであったが、実は肝心で決定的なこと以外であれば、この日の状況で、大体分かるくらいだった。

 それは、事実というだけではなく、刑事たちが想像していることや、清武の理解している状況も含めてという話であるが、後は別に何かを隠しているというわけではなく、まだ捜査がそこまで追いついていないだけというだけで、ほぼ、全体の七割くらいは、表に出てきていることではないだろうか。

 不思議なこととして残された課題も、一つの情報として考えれば、決して解明できないわけではない。それぞれの事柄をその周辺だけに絞って見てしまうから、見えるものも燃えなくなる。それはきっと、目の前のことを見落としがちという、

「灯台下暗し」

 という発想から来ているのかも知れない。

 これを積み木を組み立てるように、一から考えていくか、将棋のように、最初の隙のなさをどんどん狭めていくかということでも決まってくる。積み木のように一から積み重ねる場合は、意外と難しい。何が難しいのかというと、完成品に近づいていけばいくほど、そのスピードは鈍くなり、しかもゴールには、双六のように、ピタリと止まらなければ終われないというルールであれば、

「百里を行く者は九十を半ばとす」

 という言葉が示すように、最後まで気を緩めないという意味のことで使われるが、最後が難しいということも示している。双六ゲームなどでも、ピタリとゴールまでの目が出なければ、また後戻りして、堂々巡りを繰り返すこともある。この事件も、案外そういう事件なのかも知れないと思った。

 だが、逆にいえば、何かきっかけになる事実が見つかれば、最後のピースがピタリと嵌り、できなかったパズルが完成することだろうことも大いにあるのだ。

 この事件はまさしくそのどちらにも言えることであり、ゴールが見えたとして、それが本当のゴールなのか、考えさせられてしまう。

 別の考え方をすれば。不思議に思う部分はまったく違っている単独の部分だとどうしても思ってしまうのは、単独で考えるから不思議だと思うということを感じていないからではないだろうか。頭では理解しているつもりなのだが、本当にそうなのか、どこまで突き詰めればいいのか、考えさせられてしまう。

 ただ、何から考えればいいのかが難しい。

「タマゴが先かニワトリが先か」

 というような、どこを切っても同じところに戻ってくるというような発想が果たしてこの事件では有効なのかどうか、それも難しいところである。

 たとえば、一番の疑問である、

「あの白い液体は何のために使われたのか?」

 と考えると、激臭を醸し出すことで、毒薬か劇薬を思わせ、捜査を遅らせようとしている意図が感じられたが、果たしてそうなのか、確証があるわけではない。

 だが事実として、捜査が遅れたのは周知のとおりであり、それが何らかの思惑を秘めていると考えられる。そうなると、一緒に撒かれていた大根のろしにも何かの意味があるようにも思えるが、大根おろしの効果は、シミ抜きである。死体の血液のシミを取ることから、

「死体がどこかから運ばれてきたということを隠蔽したいという思惑がある」

 と考えられる。

 だか、科学捜査をすれば、ここにどんな薬品が使われているか、大根おろしの存在だって分かるはずだ。ここまでの激臭があるのだから、それはまるで警察に、

「毒薬かどうかの捜査をしてくれ」

 と言っているようなものである。

 ということは、そこに作為があるということか? 何のために?

 と考えさせられてしまう。

 さらに、ここに転がっている死体の殺害方法である。片方はナイフで刺され、もう一人は首を絞められている。まるで、

「犯人は別にいる」

 と言わんばかりである。

 さらに、ナイフは見つかっているが絞殺された凶器は見つかっていない。ナイフがその場にあったのは、血が噴き出さないようにするためだと言えば説得力にはなるだろうが、じゃあ、絞めた凶器も一緒にその場にあってもいいはずだ。それがないというのは犯人が持って行ったのか、それとも、この殺人だけは、計画になかったことで、犯人がパニックになり、行動パターンが変わってしまったのかなど、いろいろと考えることが可能であった。

 ここまでが一つの括りになるかも知れない。

 今は死体が発見された翌日の、夕方の捜査会議の中でのことであった。

 その日の捜査を締めくくる形で、実際には捜査はまだ行われていたが、その日に分かったことをおさらいする意味での、その日のいわゆる締めくくりの会議だった。

 その日の捜査で分かったことは、前日に比べてほとんどなかった。前日でほぼ出尽くしたと言ってもいいくらいで、とりあえず、会議は開催された。

「昨日の宿題になっていたことや、昨日は不明だったことで分かったことというのは何かありますか?」

 と言われて、

「まず、凶器として残っていたナイフですが、指紋は被害者のものしかついていませんでした。だけど、一つ不思議なことは、あのナイフは被害者の持ち物だったんです。どうして女性があんなナイフなどを持っていたのかというと、彼女は学生時代から野外活動が好きで、キャンプが趣味だったようです。それでいつも持ち歩いているということだったんですが、銃刀法違反になるまでのものではないということでした」

 と辰巳刑事は答えた。、

「それは誰が言っていたんだい?」

 と聞かれた辰巳刑事は、

「昨日一人一人尋問した中の女性からです。彼女は凶器がナイフだとは知らなかったのと、もし知っていたとしても、まさか自分のナイフで刺されるようなことはないだろうという先入観があったようですね」

 と答えた。

「ということは、犯人は彼女のナイフを使って、自分では指紋を残していないということは、彼女が普段からナイフを持っていることを知っていて、それを凶器に使おうと考えていた人物ということになるわけだ。相当親しくなければできないことではないのかな?」

 と、捜査主任は言った。

「その通りだと思います。そうなってくると気になるのが、行方不明の兄である波多野副所長のことですよね?」

 というと、今度は、副所長の捜索をしていた刑事に聞いてみた。

「高木刑事、そのあたりはどうなんだい?」

 と聞かれ、

「捜索を広げていろいろやってみましたが、まだ見つかりません。家宅捜索をした限りでは、数日帰っていないような感じですし、管理人や近所の人の話を訊く限りでは、三日は見ていないということ。新聞受けの新聞の日付を見ても、大体三日前くらいから帰っていないというのが、共通した意見ですね」

 という話しか聴くことができなかった。

「ということは、三日前、どこでどのように行方が分からなくなったのかを、今後は探ってみてくれたまえ」

 と、捜査主任の話であった。

「ちなみに、あの白い液体は?」

 と聞かれた山崎刑事は、

「あれは、やはり清武所長が、彼がずっと研究している牛乳アレルギーでもおいしく飲める牛乳に似た味の開発に使用されている試作品だそうです。開発の方はある程度まで煮詰まってきてはいたんですが、いくつか問題を残していて、今の最大の問題が、あの時に感じた激臭なんです。ある程度の時間が経過すると、腐ったような臭いを発するようになり、食品の精度を高めようとすると、どうしても、あの激臭がさらに激しくなるという問題が解決しないことでずっと開発が遅れているということでした」

 という報告だった。

「ということは、基本的に臭いの問題や種々の問題が解決できれば、開発は終わるが、この問題だけのために、ずっと完成できないでいるということか?」

「ええ、そうですね。清武所長も、助手を務めていた波多野千晶も、そのことをずっと悩んでいたようです。所長などは、ここまで来たのに完成しないということは、ゴールなど本当はないのではないかと言って苦しんでいるということですし、波多野千晶も、開発が完成できるのであれば、どんな犠牲だって払うとまで言っていたというくらいなので、結構悩みは深かったと思います」

 と山崎刑事がいうと、

「じゃあ、あの場が、一歩間違えば、清武所長と助手の波多野千晶の心中の場だったのかも知れないと言えるのかも知れないというわけだな?」

 と捜査主任に言われ、少しムッとした気持ちにはなったが、事情だけを考慮した気持ちで考えると、

「ええ、その通りです」

 としか言えない山崎刑事は、苦虫を噛み潰したような表情になっていた。

「そんな未完成で、所長や助手の悩みの種である問題の液体を、渦中の助手である波多野千晶が殺された後に浴びているということは、これが見立て殺人のようなものだと考えると、犯行を行ったのは、清武所長ではないかとも考えられるんだが、そのあたりはどうなのかな?」

 と捜査主任に聞かれた山崎刑事は。

「ええ、実際に検視が遅れたこともあってか、彼女の死亡推定時刻と、男性の死亡推定時刻から考えたとしても、清武所長にはアリバイがあります。ただ何分漠然とした犯行時間ですので、鉄壁のアリバイというわけではありません。そういう意味では全員のアリバイはそうなるんですがね」

 と言った。

「確か、君と辰巳刑事は、波多野千晶は、別の場所で殺されて運ばれてきたのではないか? という話だったが、そのあたりはどうなのかな? 訊くところによると、部屋はオートロックのような仕掛けになっているようなので、犯行現場が別だったということになると、必然的に中から扉を開けた共犯者がいるということになるんだが?」

 と捜査主任に言われて、

「ええ、その通りなんです。その共犯なのか、主犯なのかの人物が、あの部屋で阿佐ヶ谷を絞め殺した可能性はありますね」

 と山崎刑事がいうと、

「じゃあ、その殺された二人の関係はどうなっているんだい?」

 と質問を受けた。

「二人はやはり不倫をしていたようです。ただ、二人はすでに別れているという話も聞きました。だから、二人の間で別れ話のようなことがあるということはありえないという話です」

「その話に信憑性はあるのかな?」

 と訊かれて、

「ええ、複数の人の話ですから、信憑性は高いと思っています」

「そうか、あの二人は別れていたということか……」

 と言って、捜査主任は考え込んだ。

「ということは、犯人は、二人がまだ付き合っていて、その二人の死体を並べることに何か意味を見出していたということでしょうか? 別れたことを知らずにですね」

 と山崎刑事がいうと、

「それは逆かも知れないね。すでに別れているということを知っていて、しかもウワサにもなっているので、死体が発見されて捜査が始まると、別れたことなどすぐに分かってしまう。だから犯人は別れたことを知らない人だと捜査陣に思い込ませるというような意味が込められているとすれば、そこに何かが隠されているのかも知れないよな」

 と、捜査主任の話だった。

 山崎はそれを聞いて、

「なるほど」

 と思った。

 今まで、その場に現れた事実だけを、パズルのピースにして組み合わせてきたが、実はそのピースの中にはたくさんの主題とは違ったピースがダミーとしてバラまかれている。それを相手の策略とも知らずに、それが正解だと思って積み重ねていくと、実はそれがダウトだったというお話になりはしないかと考えた。

 つまりは、謎になっている部分を見て、それだけで見えてくる世界にこそ、秘密が隠されているのだろうが、それを組み立てるには、いくつかのピースが足りない。

 だが、実際には、本当に組み立てる方のピースを使用しないといけないわけで、最初から見えている部分と謎の部分という形で分けてしまうと、犯人の術中にはまってしまうのではないかと山崎刑事は感じていた。

 ただ、この考えを最初に抱いたのは、辰巳刑事だった。

 彼は結構早い段階から、その意識を持っていたようだ。

「こんなに謎が多いと、いかにも発想を分けて考えてしまいがちだが、すべてを割り切ってしまわないようにしないと、こういう事件は解決することはできないんだ」

 と言っていた。

 最初は何のことを言っているのか、さっぱりわからなかったが、後になって、捜査主任の考えを聞いていたりすると、その時の辰巳刑事の言葉が思い出されて何とも言えない気分になっていた。

「辰巳刑事はそれだけ現場の経験があって。その都度吸収できているということなんだろうな」

 と、山崎刑事はいつも辰巳刑事に敬意を表していた。

「山崎刑事は、この事件に共犯、あるいは主犯二人という考えもあるが、を、どのような人物だと思うかね?」

 と捜査主任からいきなり聞かれて、一瞬ドギマギしてまわりを見た。

 誰が助けてくれるわけでもないのに、ついまわりを見てしまうという人間の習性に驚いていた。

――そうか、そういうこともありえるな――

 と思い、答えていた。

「少し漠然とした考えではありますが、自分が困った時、まわりをじっと見つめてみて、目が遭った人が、共犯者のような感じなんじゃないかと思いました」

 と山崎刑事がいうと、ニコニコしながら、

「なるほど、君はまず困った時や答えを見つけなければいけない時には、冷静になってまわりを見るというんだね? そしてそんな自分に共鳴してくれるような相手が、同じ考えを持っていたり、共通の利害関係にあったりするものではないかと思っているということだね?」

 と捜査主任に言われ、

「ええ、そうです」

 と、自分が頭で考えているだけだったはずのことを、捜査主任は勝ち誇ったように見透かして話をした。

――なるほど、これが捜査主任の捜査主任たるゆえんなんだ――

 と感じた。

 冷静に判断できるだけではなく、部下が何を言いたいかを考え、その代弁ができるだけの技量を持っていなければ、とても捜査主任など務まらないということなのではないだろう。

 山崎刑事はそう考えると、自分も捜査主任に負けないように、想像力を豊かにしないといけないと感じていた。

「もし、逆転の発想が許されるのであれば、さっきまで考えていた思いを逆から考えてみることもできるのではないかと思えてきました」

 と山崎刑事がいうと、

「ん? どういうことかな?」

 と、捜査主人が訊きなおした。

「私は、この事件で、この部屋がオートロックになっているということと、密室にこだわってしまったという考えから、波多野千晶は他で殺されて、あの現場に運ばれたと思っていました。根拠としては、胸に刺さったナイフです。凶器を抜き取らずにそのままにしておいたのは、血が噴き出して、その地の量が少ないことで、犯行現場が違っていたと分かってしまうことを懸念したという思い、そしてあそこにばらまかれた激臭を放つ液体は、死体を動かした形跡を消す効果があるのだという先入観がありました。そして。死体を動かしたことで生じるアリバイがどこかにあると思ったからなんです。でもアリバイという意味でいけば、あの液体のせいで、犯行時間が曖昧になり、アリバイが鉄壁ではなくなってしまいました。これって本当に犯人が意図したことなのかと思うと、何とも言えなくなってきたんですよ」

 というと、

「じゃあ、君はあの場所で本当は彼女は殺されたのではないかと思うのかい?」

「ええ、そんな気がしてきたというところでしょうか?」

 と山崎は、再度頭をリセットしなければならなくなったと自覚していたのだ。

「なるほど、では刑事の勘を一度信じ込ませておいて、再度リセットさせるには、それなりの何かがあるはずだ。今は見えていないかも知れないが、それが何なのかをしっかり見極める必要がある。それがこれからの捜査の進む道だと私は思っているがどうかな?」

 と捜査主任に言われて、

「ええ、そうだと思います。考え直さなければいけない部分もたくさんあると思いますし、実際にまだ分かっていないこともたくさんあると思っています。でも、これは私の勝手な思い込みではありますが。初日である程度の情報が出てきたと思うんです。問題は先ほどの話ではないですが。いかに間違って、ダウトの方のピースを組み立てないようにしないといけないかということだと思っています」

 というと、

「そういうことだ。皆も聞いてほしいんだが。捜査において、必要なものも、紛らわしい者もあるだろうが、その見極めは、それ一つだけを見ていてもダメなんだ。必ず全体を見る目を養う必要がある。だから、推理をする必要はあるが。先入観だけで先にいってしまうようなことだけはないようにしないといけないと思うんだ」

 と、捜査主任は言った。

 捜査本部では、このような話が煮詰まってきていた時、一人の刑事が飛び込んできた。辰巳刑事である。

「ただいま戻りました」

 というと、

「お疲れ様です」

 と皆が声をかけ、辰巳刑事に視線を集中させた。

「何か収穫はあったかね?」

 という捜査主任に対して、

「何もないことが収穫とでもいいましょうか」

 と言って、ニンマリとしている辰巳刑事に対して、彼の気持ちを察したのだろうか、捜査主任も含み笑いを浮かべて。

「どうやら、何か掴んだようだね?」

 というので、

「ええ、まだ私の推理の段階にすぎませんが」

 と言った。

 辰巳刑事は、先ほどのピースの話に掛けては、誰よりもその話を理解している人だったので、彼が、推理という言葉を口にするという時は、ある程度の信憑性がなければ決して口にしない人なので、ほぼ信用できる話だということを分かっていた。捜査主任だけではなく、その場にいた捜査員もほとんど知っているので、辰巳刑事が帰ってきた時の報告を、皆は全集中で待っていたのだった。

「では聞かせてもらおうかな?」

 と、捜査主任は言った。

「あくまでも状況から考えてというのが最初のきっかけであって、まだ犯人を特定できるまでにも言っていないこともあって、だから、推理の段階だと言っているのですが、理屈を考えると、今まで不思議に思えていた部分が不思議と繋がってくる感じがするんです。そのつもりでお聞きください」

 という前置きをして、まわりが静寂に包まれているのを確認すると、辰巳刑事は話始めた。

「さて、まず私が気になったのは、波多野兄妹のことでした。二人は、兄がこの会社に入社した痕、洋菓子やスイーツの研究がしたいという妹の意を汲んで、この会社に入社させたということでしたが、どうにも都合がいいような気がしたんですよ。しかも、そんな彼女を所長の清武氏が見初める形で、一気に気に入って、秘書にまで使おうとする。確かにこの事件では、偶然のようなことは多いような気がするんですが、人間の都合での偶然は少ない気がしました。そこで、何かここには意味があるのではないかと思ったんです。だけど、もし二人が関係があるとすれば、今回の事件の結末はおかしいですよね? でもこれを誰も疑う人はいませんでした。なぜなら、阿佐ヶ谷課長と波多野千晶が不倫をしていたというウワサも実際にあったからですね。これはフェイクなのか、それとも何かの保険でそういう事態になった場合を考えてあらかじめ流しておいたのではないかとも思いました。ひょっとすると、本当に不倫をしていたのかも知れない」

 と辰巳刑事は言った。

「よく理解できないのだが」

 と、捜査主任がいうと、

「要するに、この事件において、阿佐ヶ谷課長の存在というのは、事件の渦中にいるというだけで不思議な存在だったわけです。どうして彼があの場所で殺されなければいけなかったのか、見た目は二人が一緒にいて、二人に何かを見られたかも知れないと思って殺したという事件ではないんです。あくまでも計画された事件だと考えると、犯人が本当に殺したかったのは、千晶だったということになる。だとすれば、阿佐ヶ谷課長はただ巻き込まれただけということになるのか? と考えると、千晶が刺殺で、阿佐ヶ谷が絞殺だったことでそれも違うような気がする。そう思うと、阿佐ヶ谷の死体自体が何かのカモフラージュではないかと思ったんです。事件はおのずと千晶の殺害現場に目が向いてしまいますよね? 死体を動かしたかも知れないという疑惑、得体の知れない液体がばらまかれていて、さらに大根おろしまで巻かれていた。いかにも不思議な状況がてんこ盛りの千晶の死体に、捜査の目は集中してしまう。千晶の死体への疑問が解けたところで、やっと阿佐ヶ谷課長の死体の捜査になるはず。でも、なかなか捜査が進まないでしょうね。そもそもカモフラージュが阿佐ヶ谷の死体の方にあるのだから、そうなると、堂々巡りを繰り返し、真相に辿り着くことなどできるはずがないというのが、犯人の目論井だったおではないでしょうか?」

 と、辰巳刑事が推理をした。

 それを聞いて、まわりは誰も声を出す者もいない。捜査主任も黙り込んでしまって、辰巳刑事を見つめるしかなかった。

 そして、辰巳刑事は続けた。

「この事件のカギとして、『死体はどこから? どこへ?』という言葉が何かを暗示しているような気がして仕方がないんです」

 という謎めいた言葉を発した。

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