第3話 ゾンビとゾンビとゾンビ!
「
隊長の鎧の取り付けを手伝っていると、隊長がそう言った。
隊長もあたしも最低限の鎧しか付けていない。実際、最初に屍人にやられた王の軍隊は、キラキラした金属の鎧で全身を包まれていた。今でも、キラキラしたままの元兵士の
「ルータ、素早く動け。戦ってる時は止まるなよ」
隊長の髪をざっと結い上げて兜の中に収める。この旅で、あたしは隊長の髪を結う役目を仰せつかった。隊長の髪に触れられるのは至福だけど、毎日、これが最期かも、と思いながら、そのさらさらの髪に指を通すのは、ちょっと切ない。
「それと、頼むから、噛まれそうになったときは教えてくれ。悲鳴をあげてくれよ」
「……ぃ」
はい、という返事すらまともに出てこないあたしには、隊長に助けを求めることはできない。
「全く、お前ってヤツは。私以外の者の前で、お前がもう少し話してるところを見たことがあるんだぞ」
う、それを言われると、ちょっと困る。隊長以外の人なら緊張しないから挨拶くらいはできるんだよな。
「なんでルータは私とは話してくれないんだ。私のことが嫌いではないんだろう?」
隊長はそう言いながら、あたしをクルンと回して、隊長に背中を向けさせられた。そして、あたしの鎧がきちんと付けられているか確認し、緩いところは締めて、最後にハチマキになっている鉢金を確認して、後頭部でキュッと縛ってくれた。
あたしはブルブルと震えた。もろ真後ろに隊長が立っている。私の後頭部や首筋は隊長の息遣いを感じてしまっていて、息遣い!息!吐息!!息息息息息息、あ、声も好き、息がかかるかかってるんだけどイキイキ息が息息息息息息息いっき息声息風が起きてるみたいで息が
「ルータ、お前、汗が尋常じゃないぞ」
「!!」
ピョンピョーンとあたしは隊長の前から飛び退いた。危なく屋根の上の足場から落ちるところだった。ヒイいい。
汗臭かったらどうしようどうしようどうしようぬるぬるしてたらどうしようどうしようヌルクサなんて最低すぎるサイテーサイテー
「元気そうだな」
ブンブンと首を振って頷いた。ええ、あたしゃ鼻血が出るくらい元気ですだよ!元気だから、元気すぎるくらいだから、隊長が
愛用の鉄剣を抜いて振って見せた。少し刃こぼれしてしまったけれど、あたしの剣は斬るよりは砕く剣だからあんまり関係ない。
言葉が出ない代わりに、隊長に精一杯の笑顔を見せた。
隊長が目をそばめてくれた。
充分だ
がすん、ぶしゃん、ぐちゃん、だん、ごろごろ、鉄剣が
人混みならぬ、屍人混みで動きが取れなくなる前に、とりあえず、あの建物、村の権力者が住んでいた屋敷、に飛び込みたい。屋敷の中に閉じこもれば、ある程度、襲ってくる屍人の数は抑えられる筈だ。こっちの人数は二人しかいないから、室内みたいな狭い場所の方が戦いやすいし、閉じこもれる場所が見付かれば休憩も取れる。そんでもって、体勢を立て直して、屋敷のどこかにいる屍鬼と戦うのだ。
屍人の声は澱みすぎていて言語をなしてない。村中にそんな声が反響している。
「3時上!」
だから、隊長のキリっとした声は、あたしの耳に威勢よく飛び込んでくるし、指示も的確だ。あたしは右上の壁から襲ってきた屍人をぶっ飛ばせた。跳ねた血を跳び避ける余裕もあった。横目でちらりと隊長を見た。
隊長の動きは無駄がなんにもない。屍人の動きは、思考がなく直線的だから、読み取ることは隊長にとって楽すぎるだろう。踊るように剣を振るだけで、バタバタ屍人が倒れていく。まるで舞のようだ。どうしたらあんな風に剣を扱えるんだろうか。蝶々か鳥のようだ空を飛んでいる羽根のある生き物の周りに醜い物なんか近寄ることはできない
頭の中で言葉を妄想・暴走させながら鉄剣を振り回すのが誰も知らないあたしの特技だ。
「ルータ、走れ!門に取り付け」
その指示に、
門扉にガンガンと屍人がぶち当たる音がして、門や塀が揺れる、こいつぁ、屋敷の敷地内に屍人が雪崩こむまでの時間は短そうだ。あたしと隊長は、屋敷の入り口に全速力で走り出した。
第4話につづく
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