第2話 ゾンビとゾンビ!
あたしは今、辺境の村に隊長と二人きりだ。
二人きりだというのに、全然、全くロマンチックではない。
なぜなら、厳密には二人きりではなく、あたしたちの他に、たくさんの
その屋根から村を見下ろすと、
ここは、王都から離れた辺境の村。
村がこんなんなった理由、あたしが誰かから聞いた話で説明しよう。
辺境の村。その地域にしか咲かない珍しい美しい花があると聞いた花好きの王女、イリュウネエラ様が、その花を見るために村を訪れた。王女様は美しい花に近寄ってもっとよく見ようとしたんだって。ところが、王女様がその花に触れようとした瞬間、花は
だけどね、その村の周辺は
王様は、突貫工事で辺境地域一帯を杭と塀で囲み、
そして、
「
大賢者様がそう言ったらしくて、王様は、すぐに一個大隊を屍鬼討伐に向かわせた。でも、一人の兵士が屍人に堕ちたことを機に部隊が全滅し、ただ屍人が増えただけの結果に終わっちゃった。
このまま兵を派遣したら、同じように兵を失って屍人が増えるだけ。しかも、これ以上兵を失えば、隣国から攻め込まれる隙になる。王様は詰んじゃったってワケ。
そんな時、あたしの隊長が立ち上がった。
隊長は、実は王様の
その一人であるあたしは、腕力だけは自信があったんで、頑張りまくって兵学校を卒業して、隊長の部隊に何とか入り込み、一緒に戦うようになった。あたしの剣技は強引な力技でしかなく、何より、この生来の口下手では、本来、普通の軍隊ではまず使ってもらえないだろうに、なぜか隊長は可愛がってくれている。
多分、あたしのことを犬っころか何かのように思ってくれてるんだろうけど、あたしは、それで構わない。この美しく強い人の近くにいられるのなら、犬でもネズミでも何でもいいもん。
あれは何日前だったかな。隊長が部隊を集めて、王女様のために屍鬼の討伐に向かう、屍人になりたくない者は去れ、と言い放った。あたしは、一も二もなく同行を決意していた。屍人は怖いけれど、隊長と離れる方がずっと嫌だもん。でも、妻子がいるヤツとか臆病なヤツは抜け落ちて、腕に自信があって忠誠心や功名心の強いヤツが残った。結局10人かそこらしか隊長に付いていく兵はいなかったんだ。
それは仕方ないことだよね。
大賢者様は仮死状態になる薬をなんとか3人分
一人噛まれたら仮死状態にして二人で連れ帰るっていう計算だ。ただし、兵士が使えるのは二人分まで。
一人分だけは絶対に隊長用だから。
それは、あたしが預かってる。
もし隊長が噛まれたら、屍人になる前に、たとえ、あたしが屍人になっても隊長だけは城に帰さなくっちゃならない。
王女様を守るために兵になった方だ。
隊長はきっと王女様から離れない。
今のこの戦いも王女様のため。
あたしは、それがちょっとだけ切ない。
「ルータ?」
隊長に呼ばれて、バッと顔を上げる。
「疲れただろう、休め」
隊長が兜と面頬を外す。青みがかった金髪が溢れる。
ああ、どうしよう、なんて綺麗なんだろう綺麗すぎてもうどうしていいか分からない本当にもうあたしは隊長が好きで好きで好きで大好きで好きでどうしていいか分かんない好きで好きで好き
「寝ろ」
「……ぃ」
「なんでお前はいちいち固まるんだ?」
答えられなくて首をふるふると振る。隊長は苦笑いして、あたしの顔を覗き込む。
「お前とちゃんと話してみたいよ。なんで兵士になった?なんで今回付いて来てくれた?私に教えて欲しい」
頬笑みを浮かべて隊長はあたしをじっと見てきた。
体が中の方から熱くなってくる。
隊長の瞳は水色と灰色が斑らになっていて、水晶の鉱石みたいだ。
それを金色の睫毛が囲んでる。さらにそれを日に焼けた褐色の肌が囲む。色合いまで格好良すぎる。
ああああそんな顔見せないでもう天国に行ってしまう死んじゃうかもしれないその笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔が綺麗すぎるんだってばキレイキレイ笑顔笑顔笑顔カッコいい笑顔笑顔綺麗笑顔綺麗
「固まってないで、少しだけ寝るぞ」
答えられないあたしに呆れないでくれた隊長は、枕代わりのカバンにあたしの頭を優しく押し付けた。
その後、あたしが寝付くまで、隊長はあたしの頬や頭を優しく撫でてくれていた。
仲間たちは、噛まれた二人を仮死状態にして、四人がそれを連れて帰り、その後、残りの仲間は屍人に噛まれたが、ヤツらは噛まれた次の瞬間に自ら首に剣を突き立て魂の旅に出た。
仲間を屍人にしないために。
もしもに備えて仮死状態になる薬を持って、あたしだけが今もまだ、こうして隊長のそばに仕えてる。
今は、あたしだけなんだ。
第3話につづく
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