恋と、ゾンビとゾンビとゾンビ!

うびぞお

第1話 ゾンビ!

 あたしは、この思いを、どうしたらあの人に伝えられるようになるんだろう。もう、気持ちだけは溢れ出ているというのに。



 と、頭の中は恋する乙女だったりするけれど、実は、あたしは力自慢の一兵卒だったりする。手には小柄な体に似合わない大ぶりの鉄剣。それをぶん回して、屍人ゾンビの首付近をぐシャッと粉砕。元は赤かったんだろう黒い血が少しだけ飛び散って、その後を追うように、屍人ゾンビの頭が転がり、次に別れた体がどうっと地面に倒れ伏した。返す刀で逆から鉄剣を振り上げ、もう1体の屍人ゾンビの首を落とそうとするが、狙いが外れて、肩辺りに剣が食い込み、あたしの動きが止まる。その隙に、肩にあたしの剣を食い込ませたままの屍人ゾンビの腕があたしの方に伸びてくる。


 やばいやばいあたし屍人に殺されちゃうよ剣を抜き取らないとやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい死んじゃう死んじゃう屍人になっちゃう屍人になんかなりたくない助けて誰かお願いやばいやばいやばい


 頭の中は「やばい」で一杯になったけれど、言葉は口から出てこない。


「ルータ、そういう時は助けて、って言え!」


 通る美しい声が耳に響いて、次の瞬間に、あたしを襲おうとした屍人の首に線が走って、屍人の動きが止まった。隊長は首を切り落とさず、脊髄辺りだけを綺麗に切断する。

 糸が切れた人形のように屍人が崩れ落ちると、その背後に、隊長がすっくと立っていた。筋骨隆々の脳筋兵士の中で、シュッと美しく咲いた花のような人。あああああ、格好いい格好いい格好いい格好いい格好いい


 この人が、あたしの所属する部隊の隊長のオリガネエラ様だ。


 下手な男よりずっとずっと素敵。というか、うちの国の軍隊、隊長以外はみんな下手な男しかいないわ。


 隊長は、女性にしては高身長で逞しいが、筋肉達磨ダルマなんかじゃない。鎧は最低限でしか装着していないから、体のラインはまる分かりで、それがスタイルの良さを強調していていて、一目で理想・妄想を膨らます立派な体の持ち主だと分かる。顔は今は面頬で隠れているからその隙間から瞳の色しか見えないけれど、それでも大きな目と長い睫毛は分かるし、後頭部を守る小さな兜からは青みがかった金色がこぼれ落ちている。


 あたしの隊長は、凄く凄く綺麗で強い。誰よりも強い。誰よりも綺麗。凄く凄く。この人に憧れて兵士になって、その指揮する部隊に配属されて良かった。幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ好き幸せだ幸せだもう本当大好き幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ幸せだ


「ルータ?」


「……ぁす」


「危ない時は声を出せって言ってるだろう?」


「……ぃ」


 あたしは馬鹿で、隊長の前にいると頭の中にある言葉がうまく出て来ないし、簡単な返事もまともにできない。きっと隊長にも馬鹿だと思われてる。それでも側に置いてもらえるならいい。側にいたい側にいたい側にいたいあたしが守る側にいたい側にいたい側にいたい側にいたい好き側にいたい側にいたい側にいたい側にいたい側にいたい側にいたい離れたくない側にいたい


「お前は本当に口が重いな」


 隊長はそう言って、あたしの前髪に指を突っ込んで掻くように撫でる。


「頼むよ、ルータ。もうお前しか残ってないんだから」


「……ぃ」


 ああ、隊長に言いたいことは、王国一高い山の湧水みたいに頭ん中溢れちゃってるのに、馬鹿なあたしからは、一滴の水しか出てこない。


 隊長が好きすぎて、喉と胸が詰まっちゃうんだ。






第2話につづく


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