第117話 宝春学園ダンジョン部部員、久しぶりに勢ぞろい

 ドブ川遥の人格を宿したミニ遥が俺達の下へ帰って来た。

 またあの騒がしい日々が戻ってくると思うととても嬉しく思う。


 とはいえ、だ。


 遥とはいえ今は魔物に変わりはない。

 それなのでひとまず委員会に相談した所、身体検査を実施する事となった。

 外来生物的な危険が無いかをたしかめるためにと。


 最初は宇宙人のドナドナみたいなのを予想していたけど、それは平気だった。

 各国のダンジョン攻略情報は極秘機密扱いだけど、魔物の情報に関しては世界で共有されているらしい。

 基本的な魔物はあらかた調査され尽くされ、検査方法も確立しているそうだ。


 で、その検査の結果ひとまずは無害だという事が判明。

 また、もろもろの検査を通してわかった事がもう一つ。


 どうやらミニ遥はなんと菌類という事らしい。

 ようするに今の遥は「キノコ遥」が正式名称だという訳だ。


 どういう生態で、どうしゃべってどう思考しているかは依然不明。

 しかし魔法キノコ魔物「ファンガス」と同じ仕組みであると判断された。


 もちろんこの検査ですべてわかった訳ではない。

 しかし今は明らかに害がないし、意思疎通も可能。

 だからこそ経過観察という形で許され、俺達の下へと戻って来たのだ。


 それで今は俺の家へと住まわせている。

 俺の両親がダンジョン関係に詳しいからと、普段時の隔離の意味も兼ねて。

 ダンジョン部全員で決めた結論だから、うっとおしくても仕方がないと受け入れた。


 そして今日、ついにキノコ遥を連れて学校へと赴く。


 となれば当然、バス内は騒然だ。

 ただでさえ人形的にかわいい遥がいて、大人しくしている訳もないから。


 さらには学校でもアイツは今まで通りだった。

 周囲が騒ごうと平然として自分の席に着き、クラスメイト達を翻弄する。

 なお机の上に座って授業を受ける姿が女子に大好評だった模様。

 だからといってちゃんと学習できているかどうかは定かではないが。


 それでようやく授業も終わり、部室へと赴く。

 ひさしぶりのダンジョン部部員六人勢ぞろいだ。


「改めておかえりぃ遥!」

「ようやく混沌としたメンバーが揃ったわね……!」

「ただいま、ですわ。皆さま方もお元気そうでなによりです」


 やはりキノコ遥でも遥である事に変わりはない。

 時にはこうして奥ゆかしく返してくれるのだから。


 まぁ次の瞬間にはつくしと大騒ぎしていた訳だけど。

 ――やめろ、軽いからってジャイアントスイングするんじゃない!


「ひとまずぅ遥も今後のダンジョン攻略に参加していいってぇ委員会からお達しがあった事は伝えておくわ~」

「なら俺も。昨日軒下で少し実験してみたんです。遥の耐久値がどんなものなのかって。そうしたら以前並みには上がっていて、回復魔法も効くようになっていました。この調子なら蘇生もできるかもしれません」

「おおー! 良かったじゃん遥ーっ! いえーーい!」

「オーッホッホ! わたくしはもはや永久不滅なのですわァァァァァ……」


 おいつくし、勢いのまま手放したら――

 あ、遥が窓の外に飛んでいった……。


 ま、まぁいいか。

 アイツの場合、外でもダンジョン準拠の身体能力だから平気だろう。


「ともかくこれから平常運転♪ 一時はどうなるかと思ったけどぉ、バツが付かなくて安心したわぁ~!」

「うん、俺もなんかおかげで迷いが晴れましたよ」

「おー? もしかしてダンジョン参加の理由が見つかったりしたー?」

「まぁなんとなくね」


 今はちょっと恥ずかしくて口外できないけどな。


「なら魔王彼方をこれからも頼りにさせてもらうとするわ、フフフフフ」

「僕もこれからどんどん強くなってみなさんを守りますから!」

「うんうん、初々しくていいねぇ~!」


 こうやって頼られるのはやっぱりいい。

 そうだよな、宝春学園ダンジョン部っていうのはこうでなきゃ。

 先日までの鬱屈だった俺にそう教えてあげたい気分だよ。


 おかげで今ならなんでもうまくいく――そう思えてならない。

 穏やかな学園生活も、ダンジョン攻略もきっと。


「ところで彼方さー?」

「つくし、その切り返しはよくない。ホンットよくない」

「まぁまぁそう言わず~!」


 でもほら来たよ、いつもの。

 つくしが話ぶった切るといつもロクでもない事ばかり起きるんだもの。


「彼方ってさ、コメッターやってる?」

「え? いや、やってないけど」

「前にアカウント作った事は?」

「ないよ。だってスマホもパソコンもないし」

「だよね」


 なんだ、いきなりSNSの話なんて。

 俺がそんなものいじる事さえできないのは周知のはずだろ?


 なのになんだかつくしの顔が不穏げだ。

 もう嫌な予感しかしないんだが?


「なのにさ、なんかコメッターに彼方がいるんだよね」

「「「えっ?」」」

「ほら見て」

「「「あ……」」」


 それでふとつくしがスマートフォンの画面を向けてきて、それを見た俺達は思わず唖然としてしまった。


 いたのだ。俺が。

 コメッターのタイムラインで昨日にもコメントをしっかりと残して。


 アカウント名、間宮彼方。

 宝春学園一年生、ダンジョン部所属。


 おかしい、俺はコメッターとやらを一度も触っていないのに。


 ――いや、待てよ……!?

 だとしたらまさか、俺にも魔物化の兆候が出ているのでは?

 それで記憶があいまいになり、別人格がコメッターを操作している……!?


 そうだとすればかなり大変な事だぞ!?

 俺はもしかして、このまま魔物になってしまうのでは!!?!?

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