実家が先行実装ダンジョンだった俺、同級生の女子に誘われたので今度は正式実装版で無双をやってみた。え、配信された攻略動画がバズってるって!? だが気付いた時にはもう遅かった!
第112話 プレイヤー、辞めるのもありかなって
彼方の戦う目的編
第112話 プレイヤー、辞めるのもありかなって
高難易度ダンジョンで起きた一連の事件。
その衝撃の事実が世界中にこれ以上ない驚愕をもたらした。
人間が魔物に変わる――そんな事があるのか、と。
この事例は日本のみならず世界でも初。
そのせいで問い合わせが殺到、ダンジョン攻略委員会は三日経った今も混乱中。
現在も激務に追われているという話だ。
それでも魔物化するという恐怖はぬぐえない。
よって委員会は全現役プレイヤーを対象に一斉の身体検査を敢行した。
魔物化の進行状態を確かめて対処するためである。
なお魔物化に関しては俺が詳細な情報提供を行った。
あくまで主観的な論理だけど、おおむね間違ってはいないと思う。
そのおかげでどうやら検査の方向性も定まったらしい。
魔物化の兆候が実際に検査で検出できたというのだ。
その結果、ほぼすべてのプレイヤーが陰性。
通称〝魔物化因子〟と呼ばれるものは検出されたものの、直ちに影響がない事がわかった。
ただし全プレイヤー四一七二人中、三人ほど陽性反応が出たそうな。
そのプレイヤー達はいずれも性格がより粗暴に、感情のコントロールもできなくなり、時には支離滅裂にもなっていたらしい。
どうやら魔物化に関する影響は共通しているようだ。
なのでその三人はひとまずダンジョン参戦を停止し、経過観察を行う事に。
必要以上のストレスを与えない事が緩解に繋がるかもしれないと踏んで。
以降の観察結果次第で対策手段も定まってきそうだ。
今度の研究成果に期待したい。
それで肝心の俺達はというと、もちろん全員陰性。
軒下の影響もあるかなと思ったが、それほどでもなかったようだ。
やはり大事なのは心の持ちようって事だな。
そう、心の持ちよう。
でも今の俺は、その心を保てる自信がなくなっていた。
「見て見てぇ~この通帳ぉ! なんと、ドーン! 一千万円が振り込まれましたぁ~~~!!」
「「フゥーーー!! いっせんまん! いっせんまん!」」
「これでヒルズ族になるって夢がまた一歩近づいたわぁ~!」
「いいなー一千万。先生もあと十年若ければ……」
「十歳若かったらダンジョンに行かないで彼氏作りを」
「つくしお前、化学の成績覚悟しておけよ」
「イヤァーーーーーーッ!!!!!」
……そんな俺の事なんて歯牙にもかけず、みんなはいつも通りだが。
まぁそれも仕方が無いか。
今回はあまりに特殊案件過ぎて、特別報酬が発生したのだから。
特に、魔物遥を倒しに行ったプレイヤーに一千万円以上の別報酬が。
ちなみに俺とつくしには二千万円が振り込まれているがそれは内緒だ。
やはり委員会も今回の案件に関してはかなり重要視しているらしい。
魔物化の情報を渡すにあたって警告もしておいたし、きっとこれからはもっと慎重に動いてくれるようになると思う。
また魔物遥みたいな存在が出てきても止められる確証はないからな。
「彼方、まだ悩んでる?」
「……まぁね。正直に言うとさ、プレイヤーを辞めたいって思った事もあったよ」
もうあんな思いはしたくない。
遥みたいに、知っている人を失うのはもう嫌だ。
やっぱりそうも思うと辞める事だって考えちゃうよ。
「相当キてるねぇ。ま、あんなことがあったら仕方ないんだけどねぇ」
「むしろもう立ち直れている部長達の方が驚きですよ」
「そりゃねぇ、あーしらは金の亡者だからさぁ?」
「フフフ、目標があるからがんばれるのよ。時にはこうやって切り替えるのも大事だってね」
「仲間が急に死んじゃう事だってあったしねー」
「つくしはもう体験していたんだな」
「うん。昔は今よりずっと無茶してたしさー」
そうか、みんなは強いんだな。
それに比べて俺はやっぱり弱い。
強いのはステータスくらいで、人間としては本当に未熟なんだなって実感したよ。
「ま、彼方っちは仕方ないっしょ。だって大々的な目標がないしぃ」
「そういえばお金にも困っていないって言ってたわね。たしかお爺様が武器解体して得た素材を売りまくって資産を稼いでいたのだっけ?」
「うらやましい話だよねぇ~、あーしは一般家庭だからそーもいかないってぇ」
「私もつくしと似たようなものだし、辞められはしないわ」
目標、か。
たしかに言われてみれば、俺にはダンジョンに行く理由がない。
最初は友達作りの一環で入って、手伝うつもりだけだった。
けど気付いたらリーダーみたいな役割になって、別のチームにも頼られて、それでいつの間にかやる気になっていた。
相性としては軒下の事もあるから最高なんだろうけど、動機が浅いんだよな。
なにかそれらしい動機が転がってないものか。
「ならさぁ、いっそ本当に辞めちゃったら?」
「えっ!?」
え、ちょっと待って澪奈部長!?
だからっていきなり退部勧告!? いきなりすぎません!?
「別に無理する必要ないって。ダンジョンってそういうもんっしょ」
「そだね。そもそもダンジョンって強制的に参加させると法律違反になるし」
「それに魔王彼方が魔物にでもなられたら日本滅ぶと思うし。冗談抜きで」
「そんな、じゃあもしかして俺って用済みって事です?」
「あっははは! んなわきゃないっしょ~!」
「笑いごとじゃないっすよ」
「……笑いごとにできないから問題だっつってんの。少しは楽観的になんな?」
ウッ!? おでこに部長のデコピンが!
とても痛い! なんで!?
「間宮、澪奈達の言う通りだぞ。みんなお前の事を心配しているんだ。無理させてまで参加させたくないとな」
「わかってます、わかってますよ……だから嬉しいんですけど、複雑なんですよ」
「なんでー?」
「だって俺、夢だったから」
「夢……?」
「遥と友達になるってさ、それって俺が小一の頃に歩むはずだったもう一つの可能性を再現できたかもしれないって事だろ?」
「あ、そっか……」
「だから俺、その先がとても気になって仕方なかったんだ。俺達、もっともっと仲良くなっていけるんじゃないかって。でもそれが叶わなくなって、『なんだ無駄なのか』って気持ちが溢れて来るんだ。喪失感みたいな気持ちがさ」
もしかしたらみんなにとってはこれも当たり前のことかもしれない。
だけど俺にとっては初めてだから、だからこそ悩ましい。
どう答えを切り出していいかわからなくて、モヤモヤしてしまって。
「もしかして彼方っちって、遥の事好きだったんじゃね?」
「えーーーっ!? そうなの彼方!?」
「まぁ、好きだったかな。でも異性としてじゃなく、仲良く遊べる仲間としてね」
「そ、そっか……良かった」
「ククク、つくしってホント正直すぎるわね」
なんだろうな、この不快な気持ちは。
いっそ俺もこうならないくらいの強い動機が欲しいくらいだよ。
「おや、電話だ。ちょっと静かにしていてくれ。……はいもしもし大内です。ハイ、いつもお世話になって――え?」
ん、なんだ? 紅先生の様子が変だな。
もしかしてまた彼氏候補にフられたのか?
「は、はいわかりました。すぐに向かいます。ハイ――すまない間宮、悩んでいる所を申し訳ないが、お前に対する案件が来た」
「えっ……?」
案件? 俺に対する?
なんだそれ……。
「よくわからんが、一言でいうと……遥案件だ」
な、なにぃ~~~!!?
言うに事欠いてなんなんだよ遥案件って!?
ダンジョンめ、まだ俺を遥の事で惑わすつもりなのか!? いい加減にしろ!
一体どこまで追い込もうっていうんだよ、クッソォ……!
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