第113話 遥案件デスワ

 どうやら紅先生の下に電話をかけたのは委員会らしい。

 なんでも「俺じゃないと対処しようがないダンジョン」が生まれたらしいのだ。


 だがよりにもよって「遥案件」とは……。


 ともかく詳細がわからない以上は行くしかない。

 それなので俺達はひとまず指定された場所へと向かう事になった。

 念のためとコンも連れてきたのできっと大丈夫、だと思う。


 なのだが。


「こ、これって……」

「冗談っしょ……?」


 いざダンジョンに進行した途端、衝撃の光景が待っていた。


 なんと本当に遥がいたのだ。

 最初の部屋の中央付近に。


 ただし普通の遥じゃない。

 身長が女子の腰くらいまでと小さいし、それもなぜか二頭身でちょっと丸々しい。

 おまけに表情がアホな高笑い状態で固定されている。

 ついでに言うと頭頂部にもアホ毛ドリルロールが立っている。なんで!? どうやって!?


 ちなみに服装は宝春学園の制服を模したもの。

 デフォルメされているし微妙に意匠が違って適当感が漂ってはいるが。


 しかも、しかもだ!

 そんなのがワラワラとたくさんいる! 五〇匹くらいいる!


「デスワ」「デスワ」「デスワ」

「あーこれ無理だー。普通の人じゃ絶対無理だと思っちゃうよー」

「そもそも私達ですら無理じゃないのこれ……?」

「あの数に襲われたら僕でもどうしようもないと思うんですけど……」

「キュ……」


 おまけに鳴き声が「デスワ」でとてもうっとおしい。

 あんなピンポイントな魔物が存在する訳ないだろ!?


 となるとまさかダンジョンめ、遥の記憶を手に入れて再現したのか……!?


 考えてもみれば、ダンジョンコアを取り込んだからな。

 もしあのコアという物が一種の情報端末なら充分にあり得る。

 魔物化した際に遥の記憶情報を得る事もできたのかもしれないな。


 ならどうしてわざわざ再現して……?


「ねーねー彼方、この子達かわいーよー!」

「ってつくしがもうミニ遥と戯れとるーーーっ!!?」


 おぉーーーい待てェ!? ホンット危ないから待てェェェ!!!!!


 ……あれ、でも襲ってこないな?

 つくしが一匹を抱き上げても、どいつもこいつも見上げるだけだ。

 それどころか一気に集まって囲んでいく。


 だ、大丈夫なのか!?


「思ったより触り心地がいいねぇ~ミニ遥ぁ! これお持ち帰りしていーい?」

「フフフ、魔物と戯れるのも悪くないわね……!」

「だから待って!?」


 しかも気付いたら澪奈部長とモモ先輩までーーーっ!?

 まずいぞ!? もしこれが奴らの、ダンジョンの罠だとしたら!


「大丈夫だってぇ~コンちゃんだって魔物っしょお?」

『アレとボクを同率にしないで欲しいんだけど? なかなか失礼な事言うね、あの貧乳』

「お前も大概だがな」


 あ、なんか俺の足元にも一匹歩いてきた。

 それにキラキラしたつぶらな瞳で見上げてくる。

 あたかも「わたくしも抱いて欲しいですわ」って視線を向けて。


「あああチクショウ! 抱き上げてしまったぁぁぁ!!!!!」

「彼方もノリノリじゃーん!」


 見た目の大きさよりに反してかなり軽い。

 まるで人形みたいだ。


 それとなんだこの驚異のフワフワモコモコ感!

 頭の中身詰まってないんじゃないか!? そこまで再現しなくてもいいだろ!?


「デスワ」

「お前、本当に遥なのか……?」

「デスワ」

「まぁ返事なんてできる訳ないよな」

「デスワ……」

「……」


 ああっ、クソ! なんだこのつぶらな瞳ィ!

 めっちゃくちゃ心に訴えてくる! かッわいぃぃぃ!

 すっごい抱き締めたい! ああああああ――


 いやダメだ騙されるな俺!

 ミニ遥はこれでも魔物なんだ! 危険なんだ!


 それに遥を模しているなら戦闘力も相応なはず!

 だとすれば背後から襲われて一瞬でミンチだ!

 俺でさえ対処できるかどうか怪しいぞマジで!


「彼方っちー先進もうー」

「――えッ!? 先って!?」

「ほら見てみー、ここ連層式っぽいよ」

「あ、ほんとだ、先に通路がある……」

「デスワ」


 なんだと連層式!?

 まだミニ遥がいるっていうのかよ!?

 勘弁してくれ、こんなのに一気に囲まれたらどうしようもないんだぞ!?


「大丈夫だってー! たまにいるんだよ、無害な魔物も。でちこちゃんだってそうだったじゃーん!」

「そぉゆー時はスルーするのもありって言われてるんさぁ」

「デスワ」

「そ、そうなのか? ま、まぁその理屈はわかるけどさ……」


 しかしいつまでも戯れている訳にはいかない。

 なのでひとまずミニ遥達を降ろし、先に進む事にした。


 なのだが。


「つ、ついてきてるッ!?」

「ちゃんと一列で並んできてるねぇ、かわいーじゃん♪」


 なんかミニ遥が全員後ろについてきたんだが?

 しっかりと綺麗な列をなしてペタペタ歩いているんだが?


「デスワ」「デスワ」「デスワ」

「デスワ」「デスワ」「デスワ」

「う、うっとおしい……!」


 それに通路へ入ったら音響効果でさらにうるさくなった。


 待ってくれ、これじゃあ消音魔法の意味ないじゃんか!

 こいつらを連れている事自体がデメリットなんだが!?


 どうするんだよこの先!?

 ヤバいのがいたらまずいだろ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る