第82話 超高難易度ダンジョン、出現

 ダンジョンの内部構造には一定の種類がある。


 まず一般的なのが連層式。

 一本の道が複数の部屋を通して続き、末端にダンジョンコアがあるパターンだ。


 次に多いのはランダム配置式。

 通路が迷路のように入り組み、コアの位置を悟らせないようになっている。


 来たら嬉しいと言われる単部屋式というのも多い。

 敵が比較的弱いので速攻でコアだけを狙ってもよく、ボーナス回とされている。


 あとは、小細工が効かないコロシアム式。

 大部屋二つが連なるパターンが毎度同じで、ボスも配置されている事が多い。


 他はたまに現れる特殊構造式。

 この間のダンジョンミミックもこの一つだし、もしかしたらレッドオークとの戦いのダンジョンもこれに含まれるかもしれない。


 ――で、今回のダンジョンは一般的な連層式。

 末端まで進めば確実にダンジョンコアが見つかるだろう。

 仕組みに頭を使わないで済むのは気軽で助かる。


 ただ、今回は戦いの方にとても頭を使いそうでならないが。


『遂に岩手にもやってきました、ネオ~すえつぐ、ですっ! ダンジョンが発生したと聞いてソッコーで勢いのままにやってきてしまいましたーっ! という訳で、今回は生放送でお送りいたしまーす!』

「お、今回はすえつぐ来てるんだな」

「この間のダンジョンミミック戦の時はあーしの見舞いに来てくれてたしねぇ」

「「「えッ!?」」」

『実は最近揃えた機材が使い慣れなくてですねー。編集版の方の更新が遅れてしまって申し訳ありません!』

「そういえば撮影した動画のインポートがやり方変わって難しいって嘆いてたね。メーカー変えちゃったからかな」

「詳しいな緒方君。さすが動画編集の経験者」

「うん、最初は絶対戸惑うよね。動画形式一緒ならこっちとしては問題無かったんだけど」


 緒方君、まるですえつぐと一緒に動画編集しているみたいな言い方だ。

 きっと動画編集者となるとシンパシー的なものを感じるんだろうな。

 別視点での感想も聞けてとても勉強になる。まったくわからないけど。


『お、今回はトップスナンバースリーの東北アライアンセズが頭を張るようだ! これは速攻解決も期待できるぞ!』

『:空の貴公子キター!』

『:つよっしーのアクロバティック槍アクションはいつ見ても最高!』

『他のチームもレベルが平均的に見て高いようなので不安はありません。後はダンジョンの中身次第だ!』


 そうだな、剛司さんの槍さばきは実に良かった。

 群れる敵を薙ぎ払う豪快さと、飛び跳ねて翻弄する軽快さ。

 あくまで個人プレイの範疇だけど、前衛としては申し分ない実力はだったんだ。


 だけど剛司さんはもう……。


『遂にダンジョンへ突入する模様――あれ、いきなり何かアクシデントが? え、冗談だろ!? 三木塔剛司さんが、ダンジョンに入れない!?』

『:で、でたあああ!! このタイミングでかよおおお!!』

『:うわあああ!! つよっしー遂に引退!?』

『しかしここで先導を副リーダーに託し、スムーズに事を運びます。だがあの人の離脱は痛ぁい!』

「剛司さんすごい悔しいだろうに、真面目にみんなを送り出してくれているな」

「あの人いい人だからねー。熱血漢って感じで!」

『さぁさっそく第一層の様子が映像に映った模様! これは――』

「ちょちょ……え、マヂィ!?」


 なんだ、澪奈部長が動揺している?

 それほどの相手なのか、こいつらは……!?


『サハギンだ! 現在確認されている獣人タイプで一番面倒臭い相手の!』


 魚に手足が生えたみたいな奴らだが、これはサハギンって呼ばれているのか。

 たしか軒下魔宮にも似たような魔物が出てきた事はあったな。

 とはいえ面倒さを感じた事は無いんだけど。


『しかもおあつらえ向きにとバトルフィールドも水浸し! これだとプレイヤー側の機動力が半減させられてしまうぞ!? 一体どうする!?』

「サハギンってそんな強いんすか?」

「まーサハギンそのものは槍を担いだ陸魚ってだけでそこまでじゃないんけどねぇ。問題はフィールドの条件が厳しいん。地面に水が張ってると、速さのステータス補正にデバフがかかるんよぉ」

「え、空飛んでても?」

「そそぉ、部屋にいるだけで制限かかるん。厄介だよねぇコレ」

『その中でも恐れずにプレイヤー達がなだれ込みます! 苦戦必至だが大丈夫かぁ~!?』


 戦い方は相変わらずの突撃か。

 この辺りはもう仕方がない。


 ただ、速度制限のせいでプレイヤー全体の動きに戸惑いが見える。

 たぶん水に足を取られる感覚に苛まれているんだろうな。


 しかし一方のサハギン側はまさに水を得た魚状態だ。

 プレイヤー顔負けの素早い体さばきで翻弄し、確実に攻撃を返している。

 澪奈部長が難色を示したのがわかるくらいに強いぞ、こいつら……!


 救いなのは、プレイヤー四〇人に対して魔物側が三〇匹という所か。

 数で押せば自然と勝てるようになっている。


 ただ、その勢いだけで戦うのもどうかと思うけど。


『なんとかサハギンの討伐には成功したものの、すでに二チームほどが戦線離脱を余儀なくされる事態だ! 最初からこの状況は厳しいかもしれない……!』

「やっぱり力押しだと被害も大きい。先がわからない状況でやる戦法じゃないよな」

「相手が強いしねー。あたしもサハギンと戦った事あるけどしんどかったよー。あいつらさーもぉ打撃効かないの!」

「ウフフ、体がぬるっとしてるからね……」

『だがそれでもプレイヤー達は諦めずに進む模様。ではその先にいるのは何なのか――えっ!?』

「うっそお!? 待ってよぉここでコイツはないでしょお!?」

「ひ、ひえええ!?」

「なんて事かしら、まさか二層でコイツが来るなんて……!」


 ううっ!? なんだ、このバカデカい奴は……!?


 しかも遥までもが動揺しているだって!?

 コイツはそれほどまでの相手なのか!?


『ケートスだ! あの走る暴走巨大陸魚ケートスがもう出てきたぞぉぉお!!?』


 どうやらあの東北チームを伊達に三層で退けた訳ではないらしい。

 俺から見ても、この異様な敵の強さには目を見張らざるをえなかったのだから。

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