第83話 恐るべき巨大魔物ケートスとは
岩手ダンジョン二層に現れた巨大陸魚、ケートス。
ぱっと見は「細長いコイに脚が生えている」という間抜けそうな姿なのだが。
でもその大きさは全長で二〇メートル近くある。
ダンジョンでこれだけの大きさを誇っていたのはあのテンタクルスくらいだ。
とはいえテンタクルスはまだ楽な方だった。
あいつは知覚が乏しく、弱点も丸出しだったから。
対処さえ正しければ瞬殺さえ可能だったし。
だがケートスからは弱点らしいものが見つからないのだ。
映像があえて隠しているのかもしれないが、少なくとも今は読み取れない。
「彼方っちが押し黙るなんてよっぽどだよねぇ」
「うん、今見た限りだと攻略法がわからないんです。何かヒントがあればいいんだけど……」
『水フィールドが無いのが救いか。お、意を決してプレイヤー達が突撃していくぞ! あ、水流砲が東北チームメンバーをまとめて吹き飛ばした!? なんて威力だ……!』
『:うわ、盾役ごと吹き飛ばすのかよ!?』
『:まともに直撃したら人間の体なんて持たないだろ!?』
容赦無いな、この魚。
突撃してくるプレイヤーを口から噴き出した水流でまとめて押し返すなんて。
ケートス自体も大部屋の奥にいるから、近づくまでがまず至難の業だ。
プレイヤー達が横に広がってもダメか。
今度は水流砲を水平に薙ぎ払ってきて、全員まとめて弾かれてしまった。
離れているから攻撃力こそ乏しいけど、これじゃあ戦いにもならない。
だからって水切れも期待してはいけない。
尾ひれが傍にある泥池に浸っているから、きっとそこからポンプのように水をくみ上げているに違いないし。
『矢を放ってもダメだ、水球弾で全部撃ち落とされるぞ!?』
「これですわね、わたくしが苦手な理由は。ケートスは異様なまでの対空迎撃能力を誇っているので、空中戦が得意なわたくしではまるで近づけませんの」
「だねぇ、あーしも攻撃しようとして跳ねた瞬間にフッ飛ばされた事あるわぁ」
「こ、こんなの僕耐えられそうにないよぉ……」
足が大きいから胴体が高い所にある。
でも空に上がれば必ず叩き落とされる。
厄介な相手だ。
「しかも足は極太だから攻撃全然効かないしねー」
「ヒヒ、それに足元でうろうろしているとボディプレスを喰らうわ……!」
「あの体重でのしかかられたら人間なんてひとたまりもないだろうね」
「うん。だから足元までは近づけなくて魔法と遠隔攻撃で攻めるしかないんだー」
『お、なんとかプレイヤー達の体勢が整ったらしい! やっと前衛が周りに展開できたみたいだ! 遠隔部隊も盾役に守られつつ攻撃し始めたぞ!』
なるほど、それで前衛はあくまで囮あるいは動きをけん制する役目か。
そして遠くからの攻撃で少しずつ削っていく訳だ。
一応戦術は出来上がっているんだな。
「でもここからが問題っしょ」
『き、きたぁぁぁ! ケートスが後衛達へ向けて一気に走っていくぞ! 逃げろぉぉぉぉぉぉ!!』
『:きた! ケートス地獄のデススライディング!』
『:迫力やべえええ!!』
「うおお!? これは尋常じゃないぞ!? あの巨体がこんな速く走るのかよ!?」
う、後衛を守っていた盾役が一気に崩れた!?
後衛をも巻き込んでみんな弾き飛ばされてしまったぞ!?
なんてこった、一網打尽かよ……!
「これって盾役が防御スキル持ってないと防げないんだよね……きついよー」
「でもぉ全員が持ってるとは限らないからねぇ……あ、やっぱダメかぁ!」
「そういえば俺、スキルって何なのかよくわからないんだけど」
「あ、そっか。軒下魔宮じゃスキルなんて無かったもんね」
そう、俺はまだスキルというのが未だよくわかっていない。
たまに誰かが得意技みたいに使っていたって事くらいしか。
そういえば剛司さんも高速で槍を振り回していたし、あれもスキルなのだろうか。
「スキルってのはぁ、ある一定の能力まで成長した人の武器や防具に宿る特殊能力の事っしょ」
「ええ、ある程度のプレイヤーの性格などが反映されるようになっていますわね。ゆえに十人十色のスキルがあると言われています。たとえばわたくしの〝
「そうなのか。じゃあ俺もいつかは手に入れられるかな」
「うん、きっとね!」
「ククク、そう、魔王彼方ならきっとエグいスキルを手に入れられるわ……!」
装備変化もしていない俺が手に入れられるかどうかはわからないけどね。
でも本音を言えば憧れる! 欲しい!
装備変化もしてみたいし、スキルもどんなのが付くのか楽しみだな!
『プレイヤー半壊だがまだがんばるようだ! 前衛が決死の攻撃を繰り広げているぞ! おかげでケートスがどんどん動きを鈍らせている!』
『:いっけええええええ!』
『:うおおおおおお!』
『うわぁ、ここでボディプレス! 二人が巻き込まれてしまった!? だがこれは同時にチャンスにもなるぞ! きた、一斉攻撃だぁぁぁ! おお、ケートスが、ケートスが遂に動きを止めたぞおおお!!!』
『『『:きたああああああ!!!』』』
「おおー! ケートス倒したよ! すごヤバ!」
「思ったより被害少なかったねぇ。ボスじゃないから能力低めなんかなぁ?」
「それでも無事な者が一〇人もいませんわ。これではとても先まで持ちませんね」
ふう、見る方も疲れる戦いだったな。
なかなか善戦していたと思うけど、それでも改めてみるとみんなボロボロだ。
東北チームですらヒーラーがマナを枯渇させてしまったらしい。
休めば回復は叶うが、それにしたって現状でケガ人が多過ぎる。
環境も汚泥まみれで劣悪そうだし、放っておくと逆に病気を誘発しそうで怖い。
俺だったら有無を言わさずここで撤退を選ぶだろうな。
『どうやら少人数で先の部屋を様子見してくるようだ』
「まだ先に進むみたいですよ」
「けどここまで行くともう攻略どころじゃないな」
「うん、三層到達って言ってたけど、行っただけなんだろうねー」
『さて三層目に待ち構えている相手は――ウミウシスライムの集団だ!』
『:うわ、ここでこいつらかよ!?』
『:溶解液飛ばしてくる奴らじゃんか。盾がいないとムリゲだろ!?』
『おっと、偵察隊が手を振って引き返していくぞ。どうやら諦める事にしたらしい。さすがに攻略は無理だった模様。やはりケートスの壁は厚かったかぁ~……』
うん、悪くない判断だと思う。
いくらなんでも露骨にやられ過ぎだし。
よほど横暴な奴じゃない限り突破しようだなんて思わないだろう。
「ウミウシスライムくらいならわたくし一人でもやれますわ。なのにどうして行かないのかしらね」
「い、いやーそれできるのは遥だけじゃないかなー……?」
「そんな事ありませんわ。つくしだってきっとできますわよ。うっかり粘液でドロドロのグッチャグチャにされるかもしれませんが」
「それはイヤーーーッ!!」
そ、そうだった、一人だけ例外がいたな。
遥はそもそもそういう奴だったのを忘れていたよ。
本質は変わらないなーコイツ。
――しかし敗退した理由はなんとなくわかった。
全体的に水属性の相手が偏っていて、おまけにバトルフィールドも魔物専用に仕上がっているんだ。
だから通常の相手よりもずっと強くて攻略のハードルが高くなっている。
これはちょっと厄介かもしれないな。
だけど、攻略できないという訳じゃない。
なら徹底戦略を構築してみる価値はある。
誰一人死傷者を出す事なく攻略しきるためにも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます