実家が先行実装ダンジョンだった俺、同級生の女子に誘われたので今度は正式実装版で無双をやってみた。え、配信された攻略動画がバズってるって!? だが気付いた時にはもう遅かった!
第80話 今まで謎だったあの人が出た!(つくし視点)
第80話 今まで謎だったあの人が出た!(つくし視点)
遥が強い事を彼方も認めた。
遥もみんなの事をしっかり見てくれて、あたしの事まで褒めてくれた。
おかげであたし、もっと自信もって戦えそうな気がするよ。
ありがとうね遥。
あたし、もっとみんなを信頼して戦うよ!
「そういえばぁ、ふと思ったんだけどさぁ~? 彼方っちの思考力って本当に経験だけで身に着いたものなん~? 戦術とか戦略とか手馴れすぎて怖いくらいだしぃ」
そうあたしの中でまとまったと思ったら、話はまだ終わって無かったみたい。
澪奈パイセンがまーた気になる話題をブッ込んで来たので興味が湧いちった!
そうだよね、彼方って戦い方を閃くのが明らかに早いもん。
前も聞いたけど、それに関しては結局うやむやになったままだったし。
「うーん、意識した事はないけど、それはおそらく俺のスタンスに関係があるんだと思う」
「すたんす?」
「うん。心がけ、の事かな」
どういう事だろう?
気持ちで戦い方が感じ取れる? 空気を読むとかそんな感じ?
「実はさ俺、小さい頃に父さんに戦いの心得を叩きこまれたんだ。『戦いに出るならまず、仲間を殺さない事を前提として動け。全員が生還するための戦い方を全力で考えて実行するんだ』ってさ」
「なるほど、それが今でも人を生かす戦いとなっているのですわね。言われて見ればわかる気がします。彼方の動きは明らかに人を守る事を前提としたものですから」
「うん。根底としてその意識があるから、俺は常に最大効率よりも最高生還率を目指してる。仲間を死なさせない事が俺の生き甲斐みたいなもんだからね」
あーそっか、そうだよね。
彼方は逢った時からずっとそうだったね。
誰かを守るために戦って、蔑ろにされた事に怒って。
その上で全部の理不尽を理不尽でまかり通して信念を貫いたんだ。
そして、そんな優しい彼方の事が……あたしは好きになった。
「そんな意識が大事だって俺は思っている。だから多分、この考え方はずっと変わらないよ。たとえ甘いとか言われてもさ」
「その気持ちの辺りでもきっとわたくしは負けていたのでしょうね。ふふっ、それを成し遂げられる力がありますから、それでよいと思いますわ」
「うん。……あれ? どうしたんだつくし? 柄にもなくしんみりしちゃって」
「え!? あ、なんかイイハナシダナーって!」
「まったく、つくしはそうやってわかりやすく返すのですから、もう……」
え、ええっ!?
あたし何かまずい事言ったかなぁ!? ヤッバ、わかんないよ!
もう彼方のこと考え始めた辺りから思考が働かない! ヤバい!
だ、誰かたすてけーーー!
「――おやぁ、楽しそうな声が聞こえると思ったらお友達が来ていたかぁ」
「「「!?」」」
あ、本当に誰か来た。
で、でもなんかすごいデカーい。
熊みたいな人が来ちゃったー……。
ていうか誰!?
オーバーオール熊!?
「あ、父さん」
「彼方のお友達が来ていたか~! 来るなら教えてくれればいいのに」
「今朝言っただろぉ……相変わらず畑の事ばかり考えてるからぁ」
あ、彼方のお父さんでしたかー。
そうでしたかーあたしも会った事ないから気付かなかったよー。
つかホントでっか! 声野ぶとっ!
彼方と似ても似つかないんだけど!?
ちょっと鼻の形が似てるかなって感じ! 彼方はお母さん似なのかな!?
「初めましてー! あたしつくしです!」
「お、君がつくしちゃんかぁ。彼方からよく聞いているよ~」
「で、この人が澪奈先輩で――」
とりあえず真っ先に自己紹介、無事成功!
も、もしかしたら将来お義父さんになるかも、しれないし……!
や、やだー! あたし一体何考えてるのー!? まだ早いってぇー!
――とか浮かれてる間にみんなの紹介が終わってた。
彼方、ちょっとはあたしの動揺に気付いて!
「実は今さ、丁度父さんの話題で盛り上がってたんだ」
「おおっ!? で、でも変な事話してないよなぁ?」
「うん、昔父さんに教えてもらった戦いの心得の事を話してただけだよ」
「あぁ~そうか、あれは大事な大事な心得だからねぇ」
そうしたらおじさんが短い足で正座してあたし達と向き合う。
それでも見上げるくらい大きいから威圧感もすごいけど。
「みなさんも戦っているようなので敢えてお話しますが、人を死なせるというのはとても悲しい事です。死に急ぐ事もまた同様に。ですのでどうかみなさん、例え関係のない他者であろうとも命を大事にしてあげてください。繋いだ命が巡り巡ってみなさんの関係者となりうる事もあり得ますから」
ああ~でも話し方がすごい丁寧だ~。
熊は熊でも優しい熊さんでした。
しかもおしまいには礼儀正しく大きな体を倒してお辞儀してくれたし。
彼方のお父さんもお母さんも丁寧過ぎだよぉ……!
「それでは――っと、せっかくなのでおやつをどうぞ。今お庭で採れたばかりのお野菜なのできっと美味しいですよぉ」
「「「おやつの、野菜……!」」」
そんなおじさんが布袋を一つ置いて行ってしまった。
それでふと好奇心のままに袋を開いて見てみたら、キュウリが入ってた。
キュウリがおやつ……!?
ドレッシング無いんだけど!?
そ、そういえば昔小さい頃、おばあちゃんが言ってたっけ。
たしか「あたしらが子どもの頃はキュウリをよく食べていたねぇ」とか。
――昭和か!
「ま、まぁうちの野菜は基本無農薬だし、美味しいから是非食べてみて。あ、醤油と塩と味噌持ってくるから……」
「ダンジョンの中で有機栽培って本当に大丈夫なん……?」
「大丈夫だよ。俺らも毎日食べてるし、見た目も普通のと同じ、だろ?」
「まぁそうだけどぉ。つうかさ、こういうのから出た生ゴミとかってどうしてるん?」
「え、軒下に棄ててるけど? フィールドが切り替わると置いた物も消えるし」
「それってばさぁ彼方っち……ここで生ゴミ捨てまくったから普通のダンジョンで荷物持ち込めなくなった可能性なくない?」
「あー……」
「ねぇねぇ彼方! なら今度軒下にゴミ棄てに行ってもイイ!? 棄てたくても棄てれないモノがあるんだよーっ!」
「つくしぃ! どさくさに紛れて軒下便利に使おうと思うなしぃ! あ、あーしも棄てたいのあるんだけどぉ~?」
「「「おぉい!?」」」
まぁいっか、新鮮だし面白いし!
軒下魔宮、相変わらず謎が多くて話題には事欠きませんなぁ~!
やっとお父さんにも挨拶できたし、今日はなんだか運がいい気がする!
なお、彼方はこのあと遥を死なせた事がうっかりバレて怒られたそうです。
うーん、これは遥の勝手な暴走のせいなのになー。
なんにせよ、彼方にとっては不運な一日になっちゃったみたい。カワイソウ。
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