第79話 嫉妬なんてみっともないよね

 遥が大暴れしたせいなのか、今回はちょっと軒下を抜けるのが大変だった。

 おまけにボス戦の時も死んじゃったから、遥のレベルはヒロ君よりも上がってないし。


 おかげで結構疲れちった!

 ここまで苦労したのは初めてかも!


「つくしってばさぁ、結構動き慣れてたよねぇ?」

「あ、うんー! 実は最近、彼方達と一緒に通う事が多くてさー!」

「あらぁ~? もしかしてぇ、それなりに進展してらっしゃったりするぅ~?」

「そ、そんな事は無いよー! と、友達だから遊びに行ったりしてるだけだし!」

「動き慣れていたものね……今もレベルが269。結構通ってるんじゃないかしら?」

「え、えへへ~……」


 パイセンズ、なんか視線が怪しいよぉ!

 てかモモパイセンいつから起きてたの!?

 もぉ、変に勘繰り深いんだからぁ!


 こうなったらコンちゃんを可愛がって誤魔化そう!


「ただいま、コン――」

「キュ!? キュキュキュ~~~!!?」


 あれ、出迎えてくれたコンちゃんがすぐ逃げちった。

 しかも居間へのふすまを突き破って強引に。

 えぇ……ふすまってあんな風に穴が開くんだ……。


 おかげで直後、彼方のお母さんの怒鳴り声が聞こえてきたし。


「あー……どうやらコン、遥の匂いが苦手らしい」

「あらそうですの? まだドブ川の香りが残っていたかしら?」

「そんな事は無いと思うんだけどなー」


 そうだよ、匂いなんてもう残ってる訳ないのに。

 なんたって昨日急に呼び出されてまた体洗うの手伝わされたし。

 結構入念に洗ってあげたからもう平気だと思ったんだけど。


 おっかしいなー、よほど嫌いなのかな?


「ごめんね遥、あたしがさぼってお尻を丁寧に洗わなかったからかもしんない」

「……まぁわたくし、別に犬に興味はありませんし。お気になさらず」

「あ、コンちゃんはキツネだよ」

「あらキツネでしたか。では食べたらどんな味がするのでしょう?」

「食べちゃダメだよー!?」

「遥さぁ、アンタどんどんワイルドになってくよねぇ……」

 

 まぁいっか、彼方との仲も誤魔化せたし。

 毎日のようにどっちかの家に遊びに行ってるなんて、恥ずかしくて言えないよ。

 あたし自身の問題もあるから誤解されたくもないし。


「じゃあまた俺の部屋に――」

「あらお友達のみなさん、またきてくれたんですねぇ~!」

「あ、お邪魔しまーっす!」

「今日も大人数で嬉しいわぁ、うっふふ!」


 あ、彼方のお母さんだ!

 相変わらず着物を着こんでいるし、綺麗な人だよなぁ。

 どうしたらこんな綺麗になれるのかいつも思う!


「あら、あなた……」

「ん? なんですの?」

「……いえ。そうだ彼方、今日はうち特製のお茶をお出ししますから、そちらをお持ちしてあげて」

「特製? あ、うん、わかった」

「それとお嬢さん、お名前は?」

「ドブ川の女王、ドブ川遥ですわ」

「そう、では遥さん、一つだけお伝えしておきます。もうこれ以上無茶はおやめなさい。あなたのためにも」

「? よくわかりませんが忠告をありがとうございますわ」


 あれ、お母さん、今はなんか顔が険しい感じだ。

 いつもニコニコしているいい人なのに。


 遥も、彼方達も首を傾げてる。

 何が言いたいのかもわからないみたい。あたしもだけど。

 

 ちょっと意味深で怖かったけど、彼方のお母さんはそれ以上何も言わなかった。

 だからあたし達はいつも通り彼方の部屋へ。


 それでやっと疲れた腰を落とし、ここまでの戦いの話題を広げる事に。


「だけどまさか間宮君の家がダンジョンだったなんて思いもしなかった! 僕、ダンジョン入るの初めてだからすごいドキドキしちゃった! 見てるだけでも充分臨場感を体験できたよ!」

「そ、そうか、喜んでくれてなによりかな。ともあれ、これでヒロ君も戦いやすくなると思う。それでも戦いの勘だけは個人の器量に寄るけども」

「うん、誘ってくれてありがとう! 迫力のあるすごい動画も撮れたし最高だよ!」

「それはよかった。でも動画投稿だけは避けてくれると嬉しいかな」

「もちろん! これ、僕の宝物にするね!」


 ヒロ君はさっきから興奮しっぱなしだったからなーもう止まらないや。

 戦いの時は結構怖がっていたけど、彼方への憧れの方が強かったみたい。

 おまけにちゃんと守られてくれたからレベルも上がったし、今度からは心強い盾役になってくれるとうれしいなぁ。


「たしかにステータスが上がるのは良いですが、それも気持ちの問題でしょうね」


 ただ、戦いの事になるとストになる子がもう一人。


 遥もこういう事にはなぜか厳しい目を向けるんだよねぇ。

 ダンジョンに向ける情熱が強いというか、戦いに対してだけは真面目というか。

 こればっかりはあたしでもついていけないかも。


「遥も気付いていたのか」

「ええ、当然ですわ。ダンジョンにおいての戦いの肝は、いかに敵の弱点を突くか。レベルとステータスはその成功率を上げるためであり、結局は個人の資質に準ずるのですから」

「そこまで気付いているなら戦いに関して説明する必要はもうなさそうだな」


 しかもこの手の話になると彼方とウマが合ってすごく仲良く見える。

 その光景を見るとなんだか胸がギュッとしちゃう。

 だからって二人ともなんだか楽しそうだから邪魔したくもないし。


 さっきみたいにまたモヤモヤするなぁ……。

 もしかして、これが嫉妬ってやつなのかなぁ。


「わたくしはずっとその事を提言しながらトップであり続けたつもりなのですが。しかし気付けば誰しもがレベルばかりを見ていた。とても嘆かわしい事ですわ」

「ま、まぁ~それはぁ、レベルって数字がわかりやすいっていうのもあるしぃ?」

「そうですわね。人は楽をして生きたいと思うものですから、結局わかりやすいモノにすがってしまうのでしょう」

「クフフ、そこは言い返せないわね。人はやはり怠惰という闇に囚われし罪深い神の家畜ですもの……ヒヒッ」

「モモ先輩、な、何をおっしゃって……?」


 パイセン達との仲もこうやってすぐ普通になってたし。

 ――ああ、やだなぁ、こんな事を思う自分が嫌いになっちゃいそうだよぉ。


「その中で真理を見出せている遥はすごいと思うよ。おまけに戦闘センスはかなり高いし。戦闘経験なら俺の方があるけど、戦闘力に限ってはたぶん遥の方が上なんじゃないか?」

「ええっ!? 間宮君あんなにすごく速く動けるのに!?」

「いくら動きが速くても、結局は相手の反応速度に対してどう動くか、だからね。敵が反応できない速さ、という領域で動くなら遥も可能なんだ」

「へぇ~……」


 おまけに彼方もべた褒めだしなぁ。

 いいよねぇ、実力者同士って。

 遥って垢ぬけたらホント有能すぎて羨ましいって思っちゃう。


 これじゃあたしがいくら思ってたって、隣に立つ事なんてとても――


「ですが戦略を考える事に関しては彼方の方が上でしょう。それともう一つですが、みなさんはおそらく、つくしの才能に気付いていらっしゃらないのでは」

「「「え?」」」


 ――はい?

 あたしの、才能?


「多少なりに軒下での成長も影響しているとは思いますが、つくしの魔法能力と打撃能力は明らかに群を抜いています。先日の大声もそうですが、色々と隠れたポテンシャルをお持ちのようで」

「ちょちょ、な、なにいってるの~遥!?」

「つくしはきっと動き次第で、彼方の心強い相棒となる事でしょう。その事を踏まえ、今後は立ち回りの見直しもした方が良いと思いますわ」

「ぴゃ~~~~~~!!?」


 遥がなんかあたしの事褒めてる!?

 すごいとか言ってるの!? どういうことー!?


「わたくしも付き合いますし、今後ぜひとも軒下での戦闘シミュレーションを所望いたしますわ」

「まぁそれは別に構わないけど……みんなが良ければね?」


 しかもなんだかとんでもない話になってる!

 そのせいでモモパイセンが拒絶反応起こし始めてるしー!


 ……でも。

 遥も彼方と同じで、戦いに関しては嘘を言わない。

 それにあたしの事を思ってくれている。


 それなのに嫉妬するなんて、やっぱあたしは大バカだ。


 だからもう信じよう。ドブ川の女王、ドブはるさんを。

 もう元トップスだとか昔の確執とかそんなの関係無い。


 この子は掛け替えのない仲間で、体洗いっこまでした本当の友達なんだから。

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