第62話 ドブ川遥に脅しは効かない
靴を舐めろ、だって!?
まさか遥を恨むあまり、麗聖学院の東雲さんがここまで暴走するなんて。
「チーム辞めたいって言ってた奴にあんたがやらせてた事だよ。それをあんたもやるんだ。そうしたら認めてやるわ」
お、おいおい冗談だろ!?
いくら復讐だからって要求が酷すぎる!
しかも今ここでそれをやらせる気なのか!?
マスコミだって来ていて撮られているんだぞ!?
下手すれば脅迫罪まで成立しかねないじゃないか!
それに、そんな脅しなんて今の遥にはまったくの無意味だ……!
「なるほど、それなら納得ですわ」
「何が納得よ、やれるもんなら――えッ!?」
「「「な、何ぃ!!!??」」」
ああ、やっぱりこうなってしまったか……!
なんと驚くべき事に、遥は何のためらいもなく差し出された靴を舐め始めたのだ。
それも丹念に、濃厚に、余す所なくベロォリと、惚けた笑顔で。
誰もが戦慄して固まろうと構わずに。
「あっはぁ~~~すごいですわぁ! これが高級革靴のあ・じ! ドブ川の香りにも劣らない造られた香りが口の中一杯に漂ってくるようですのぉ~~~! それに加えてこのソックス! 絹の上品なお味と、あなたの汗と垢の香りが絶妙にミックスされてるぅ~~~!」
「ひ、ひいいいい!?」
もうみんな慄いてたじろぐばかりだ。
東雲さんに至っては、遥に足を取られたせいで怯え固まってしまっているし。
つくしやモモ先輩さえも口を抑えて顔を渋らせている。
俺でさえ直視するのが辛く感じるくらいだ。
だが遥は靴舐めを自ら望み、しかも喜んでやってしまった。
まったく……お前は本当にどん底にまで堕ちたんだな。
それでも自分を見失わない適応力はもう人類最強クラスなんじゃないか?
「では、これで許して頂けて?」
こうなるともう麗聖学院側の負けは確定だな。
司条遥ではなく、ドブ川遥という存在を見誤ったせいだ。
まぁなんにせよ、これで問題は解決して――
「ふっざけんな! ゆ、許す訳がないじゃんこんなのっ! 気持ち悪いっ!」
「「「なっ!?」」」
うっ!? なんだと、まだ許していないだって!?
待て、それ以上は言ってはいけない!
それ以上否定し続ければ、今度は東雲さんが司条遥の二の舞になってしまう!
「私はあんたなんか――はっ!?」
その事に今さら気付いたらしいが、もしかしたらもう手遅れかもしれない。
周りの仲間が止めてはいるが、もうすでにマスコミ達には撮られてしまっている。
今の光景ははたから見れば「東雲さんが司条遥を強引に屈服させている」構図となっていた。
もしそんな動画を流出させてしまえば反響は避けられないだろう。
〝麗聖学院・東雲美夕は司条遥に無理矢理靴を舐めさせた外道〟と。
遥自身には靴を舐めた事による同情的な意見が出るかもしれない。
過去の言動の報いとも捉えられるだろうが、それでも許されてしまう行為だ。
だけど東雲さんには反動でさらなる批判が集まってしまう。
その結果、東雲さんは徹底的に潰される事になるだろう。
司条遥が潰されたのと同様にして。
この数か月で世間について学んだ今だからこそわかる。
東雲さんはきっともうダメだ。炎上はまぬがれない。
これではもはやプレイヤー生命どころでは済まな――
「ああ~
「「「え……?」」」
「ところで、もう片足も舐めてよろしくて?」
「え!? い、嫌よ、気色悪かったし……」
「残念ですわーっ!」
な、何!? 自ら望んだ事をアピールしたのか、今のは!?
う、嘘だろ? あの遥が東雲さんをかばった?
わかっててやった? 思い過ごし? それともまさか天然!?
「わ、わかった認める。司条遥の参戦を、僕達麗聖学院は認めます」
「しょ、承諾した。それで他に異議のある者は?」
「わたくしにはありますわ」
「え!?」
「わたくしは司条遥ではございません。ドブ川の女王、ドブ川遥ですわぁ!」
「「「ド、ドブ川……? ええ~……」」」
なんにせよ、こうなると無条件で認めざるを得ないだろうな。
あそこまで遥に無様を晒させれば誰も文句なんて言えないよ。
むしろ同情的な人が増えて逆に人気を取り戻しちゃったり?
ま、当の本人はそんな事まったく気にしていなさそうだけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます