第63話 迷路ダンジョン攻略の秘訣は、振り子?

 遥の機転で参戦問題に関しては何とか解決できた。

 だけど真の問題はこれからだ。


 今回のダンジョンは今までとは違う。

 全員が頭を使わなければまず間違いなく攻略不可能なのだから。


 だから俺達は今、ダンジョン入口前で作戦会議中。

 プレイヤー全員を集めて攻略手段を策定している所だ。

 一位から十位まで揃い踏みだから百人近い人数になっている。


「今回ばかりは全員で声を合わせて入った方がいいと思う。また無策で入るのはいくらなんでも無謀が過ぎると思うんだ」

「その事にはこっちも賛成や」

「ああ、こっちもだ。力押しでどうにかなるようなダンジョンじゃないしな」


 よかった、これにはみんな了承してくれるみたいだ。ありがたい。


「それで作戦としてはどうする? チームごとに分かれて進むのはいいとして」

「それだと結局は先日と同じ結果にならないか?」

「たしか昨日の攻略組は、分かれ道が訪れる度に分かれていった結果、散り散りになったんだったな」

「しかもその後も分かれ道に遭遇していたわね」

「枝分かれの数がキリないんだよな」

「しかも末端が別の道と繋がってたりするし」


 騒いでいるようにも見えるけど、ちゃんと話しあってはいる。

 さすがトップスだけあって攻略に対しては真面目に対応してくれているんだな。

 参戦したばかりの俺達の声にもしっかりと耳を傾けてくれているし。


 しかし答えがなかなか出ない。

 みんな色々と考えてきてくれているみたいなんだが。


「でしたらわたくしに提案がありますわ」


 えっ、遥が手を挙げた?

 まさか何か策を考えて来たのか?


「なんや遥、言ってみい」

「わたくしは〝2 on 2の振り子式進行作戦〟が良いと思いますわ」

「ど、どういう意味だ?」

「まず二人二組の仮チームを立て、メイン班とサブ班を決めます。そしてチームが散り散りになったらメインを主軸にして進み、分かれ道に遭遇したらサブが別の方を進む。しかしサブは一定進行したのち引き返し、すぐメインと合流するのです」

「なるほど、一本で進み続けるのではなく、二本同時に手を出して調査領域も広げる、か」

「そうする事で万が一の挟撃も防げるでしょう。つど印なども付ければ進んだ道もわかりますし、何か気付く事もあるかもしれません」


 割と具体的な作戦だ。最適かどうかは別として。

 少なくとも、分かれた先で合流した場合にも気付きやすい。

 それに、一本で進み続けるよりはダンジョンのギミックにも気付きやすくなるかもしれないし。


 このダンジョンは普通とは違うように感じるからな。

 少しでも何かに気付ければ、それが糸口になるかもしれない。


「他に提案はあるか?」

「いや、こっちにはない」「こっちもだ」

「ならこれ以上話し合っても仕方ないし、遥の提案を採用する事にしよう。じゃあチームを再編成だ。あぶれた人員は混成チームにするのと、あと何かあった時のヒーラーを一人くらいは入口に配置したいかな」

「「「了解だ」」」


 そうと決まるとみんな納得するのが早い。

 思った以上に統制が取れている気がする。

 初めて入った時とはまるで大違いだ。


 こんな物わかりの早い人達ばかりなら通常攻略ももっと楽になるだろうに。


「さて、俺達もメインとサブで分けようか」

「そうですわね。でしたらわたくしは――」


 ん、なんだ?

 遥の視線がこっちに向いている。

 何かまた提案でもあるのだろうか?


「ダメーッ! 遥は彼方と一緒はダメーッ!」 

「なっ!? いきなりなんだよつくし!?」


 今度はつくしがなんだ!?

 いきなり間に割って入ってきたぞ!?


「当然ですわ。わたくしと彼方が一緒になる事はありえません」

「え!?」

「共に前衛ですし、それに後衛だけで組ませるのは危険でしょう?」

「そ、そだよね! 当然だよねーあはは!」


 だな、遥の言う通りだ。

 だったら俺がつくしと組んで――


「でしたらメインを彼方と母桃さんが。サブをわたくしとつくしにするのが良いかと」

「ええっ!?」

「その理由は?」

「わたくしは母桃さんの能力を把握しておりませんし、彼方であれば彼女の力をより利用できると聞き及んでおりますので」

「だ、誰に聞いたんだそれ」

「ええと、く、くぅ……くずもちとかそんな感じの名前の冴えない男ですわ。あなた達との対決前にかの男から情報リークがありましたの。四人だけでダンジョン攻略をしたとかいうよくわからない眉唾話も含めて」


 葛餅? くずもち……あー、くすのき!

 楠の奴め、俺達の情報を流していたのか。相変わらず小賢しいままか。


 そもそもがその情報、口外禁止だったはずなのになぁ。

 あとでそれとなく新北関東プロチームに問い合わせてみよっと。


「それに実力ならあなたの方が上でしょう? でしたらヒーラーであるつくしをわたくしと組ませるのが得策かと」

「なるほど、それなら納得かな」

「むむむ、そういう事なら仕方ないなー」

「ンッフフ……あらつくし、そう言ってなんだか不服そうだけど?」

「そ、そんな事ないよー!?」


 まぁつくしの様子がなんだかちょっと変なのは気になるけど、これでいいか。

 今の遥ならつくしの事を任せても平気だろうし。


 こうやりとりしている間に、他のチームももう再編成が済んだみたいだ。

 数えてみると二三チームに余り二人……結構な数になった。


「余り二人は要望通りヒーラーだ」

「了解。各班は何かあったら無理せず戻って欲しい。なおメインはM、サブはSの文字を分かれ道毎に刻んでくれ。それじゃあ行こう」


 そんな大人数でダンジョンへと突入を開始。

 まずは武器庫で装備調達しなければ。今回は小斧でいいかな。


 ――なんて思っていたのだが。


「なんか武器庫小さくない?」

「待って、いつもより武器のレパートリーが少ない」

「うわぁ私のいつも使ってる武器無いんだけど? レベル1スタートじゃん……」


 さっそく想定外の出来事が待っていたとは。

 もう周囲から不満の声が上がってきたぞ。

 小斧も見当たらないし、ちょっとショックなんだが?


「こんな話、昨日の情報にあった?」

「いや、知らんな」

「ダンジョンの構造そのものが変わってるのかもしれない」


 聞くと、ダンジョン内部はプレイヤーが全員出たらリセットされるらしい。

 ただ構造自体はほぼ維持されるという事だからちょっと変な話だ。

 新しいタイプだから仕様もちょっと違うのかも。


「班分けに支障が出るチームある?」

「……いや、ひとまずは無さそうだ」

「だったらこのまま行くとしよう。レベル1の人は無理しないようにしてくれ」


 幸いなのは敵がほとんどいないし、いても弱い事か。

 だからレベル1で進む事もそれほど抵抗は無い。


「よし進もう。チーム数が多い内はどっちに進んでも構わないから判断は任せるよ」


 しかしまさか誰も無職レベル21に率いられるとは思ってもなかっただろうな。

 武器が無い不運な人を除くと、俺が今一番低いんだよね……。


 それにしても、俺は一体いつになったら変身できるのだろうか。

 個人ランキングトップになってもまだできてないって、ホント奇妙な話だよなぁ。

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