第61話 我々は認めない
「オーッホッホッホ! このドブ川遥、ダンジョン攻略に見事復帰ですわーっ!」
アホな高笑いが長野の一角で木霊する。
まさかの遥の登場に、他のプレイヤー達も驚かざるを得なかったようだ。
「しっかし、まさか助っ人があの司条遥とは思わなかったぞ。どういう接点なんだ」
「まぁ紆余曲折という異次元的再会があったんですよ」
「便利よね、その言葉……」
昨日会いに行って事情を話したら遥は快諾してくれた。
しかも理由はお金が欲しいなどではなく「暇だから」だそうな。
なので昨日の内につくしの家で身支度を済ませてもらった。
お風呂にも入れたし、服もつくしのお古を着せたから臭いの問題は心配無い。
「もう臭わないし、昨日必死になって洗ってあげた甲斐があったな、つくし」
「そ、そうだけど夜通しお風呂に付き合ったあたしの苦労を讃え――うぶっ、は、鼻にづいだ臭いがまだぐるうっ!」
「が、我慢するんだ! もうすぐ注文していた香辛料いっぱいのタコスバーガーが届くはずだから!」
「カモォンタコォォォースッ!!!」
「さっき委員会に電話していたと思ったら、そんな注文していたのかお前達……」
ただ、そんな遥に向けてほぼ全員の注目が集まっている。
やはり暴言を吐いた事に対する怨恨はよほど大きいらしい。
まぁ本人はまったく気にも留めていなさそうだけど。
「オイオイオイ宝春、こりゃどういうこっちゃ!? なんでお前らが司条遥連れて来とんねん!?」
「ま、まぁ色々と縁がありまして。今日はちょっと助っ人で参戦してもらったんですよ」
「はぁ~……人数合わせは難儀やが、明らかに人選ミスっとるで?」
匠美さんでさえこの調子か。
遥のイメージってよほど悪くなっていたんだな。
……いや、今の俺達が変なだけか。
俺でさえ以前はこれ以上なく恨んでいた訳だし。
でも彼女が「ドブ川遥」になってからはなんとなく一皮剥けた気がするんだ。
傲慢だった頃の面影が――表側だけにしか残らないくらいに。
だからもう彼女に対しての恨みも消えてなくなってしまったよ。
俺が嫌いだった〝司条遥〟はもういなくなってしまったんだ。
――おや?
どうやら委員会のおっさんも誘われて来たか。
遥だとわかるや否や、眉を寄せた丸顔をこちらに向けてきたぞ。
「宝春学園、これは一体どういう事かね? なぜ司条遥がここに……?」
「今のわたくしはドブ川遥ですわ」
「ド、ドブ……? と、とにかくだね、彼女の参戦はあまり好ましいとは――」
「でもそれって委員会からの招集がかからないだけで、仲間として連れて来る事に関しては特に明言されてませんでしたよね?」
「た、たしかにそれはそうだが……」
「なら今は遥も宝春の仲間なんで問題無いと思います」
委員会の人達も困っているようだけど、明言しない方が悪い。
今まで遥をさんざん持ち上げて来たクセに、本人になんの説明もなく簡単に切り捨てたしな。
正直な所、俺には委員会の対応の方がずっと心証が悪い。
楠の時もそうだったが、「悪いものは一方的に切り捨てる」というやり方はあまりに前時代的で短絡的過ぎないだろうか。
大人達にはもう少し〝若者に未来への希望を示す〟ような対応をしてもらいたいもんだよ。
「という訳で今回は認めて――」
「認められる訳がないじゃない!」
「――え?」
でもどうやら、そんな対応ができないのは大人だけじゃないらしい。
大声の元へ咄嗟に振り向くと、そこには麗聖学院のプレイヤー達の姿が。
「我々は断固として拒否します。司条遥の参戦は僕達へのこれ以上ない侮辱と捉えます」
「そうよ。そいつは私達をただの囮としか考えていなかった差別主義者なのよ!? 到底許される事ではないわ!」
反応したのは麗聖学院の現リーダーである
どちらも遥との対決の際には俺達に理解を示してくれていたんだが。
そうか、遥の招集停止には彼等も一枚噛んでるんだな。
それもそうだよな、一番の被害者みたいなものだし。
彼等の言い分ならわからなくもない。
「あらぁあなた達、まだ麗聖学院に残ってらっしゃったの?」
「「「っ!?」」」
「わたくし、てっきりもうお国に帰られたものかと。わたくしがいなくなって雇われの身である必要はなくなった訳ですし?」
「そ、それは……!」
「ですのにどうして麗聖学院に居残ってるのかしらぁ! どれだけ優雅な学生生活に未練があったんでしょうねぇ~!?」
お、おいおい遥、この期に及んで彼等を煽るなよ。
また印象悪くなっちゃうじゃないか。俺達もいるんだぞ……。
「ぐっ……! これは司条グループの温情で卒業まで居させてもらう事になったんだ! 僕達を強引に引き込んだ事への詫びとして!」
「あらそうですの。なら結局同じですわね」
「な、なにがさ!?」
「あなた達は結局、古巣に戻らなかったのでしょう? それは今の立場に依存しているだけ。ただ対象がわたくしから司条グループないしはトップオブトップスに変わっただけですわぁ~!」
「ううっ……!?」
言っている事は間違っていないんだけどな。
遥の言う通り、麗聖学院チームは彼女がいなくなった時点で解散するべきだったんだ。
だけどここできっとまた汚い大人達が動いたのだろう。
現在団体ランキング六位の麗聖学院……その立場の利益を吸い尽くすために。
そのために彼等は未だチームに残され、こうして参戦させられている訳だ。
でもよく見れば前にいたメンバーの姿がちらほらいなくなっている。
欲に負けず出て行ったんだ。五位チームが心配していた女子もそう。
そんな人達の方がずっと利口だと思うよ。
「――と、いう訳で。その立場も縁も切れた事ですし、これからは無関係な者同士、仲良くやっていきましょう?」
けど、欲にほだされて居残った彼らをここまで煽ったあげく、手を差し出すとか。
それはさすがに受け入れられる訳がないんじゃないか?
「仲良く!? できる訳がないでしょうがッ!」
ほら、やっぱり手を打ち払われてしまった。
相手の心情を考えない辺りはやっぱり遥らしい。
昔の遥だったらこれだけで激昂していただろうけど。
「ではどうしたら認めていただけるのかしら?」
でも今は冷静に微笑んでいる。
きちんと周りが見えている証拠だ。
彼女、思う以上に視野が広くなっているのかもしれないな。
むしろ麗聖学院側の方がずっと熱くなっている。
特に、矢面に立った東雲さんがもう完全におかんむり状態だ。
これは……何をしでかすかわかったもんじゃないぞ?
「だから僕達は――」
「いいわ。なら教えてあげる。どうしたら認められるかってさあ!」
「お、おい!?」
なんだ、東雲さんが足をわざとらしく一歩踏み出させたぞ!?
一体何をするつもりだ!?
「私の靴を今ここで舐めな」
「「「!!!??」」」
言うに事欠いて、なんて要求を!?
あの子、自分が何を言っているのかわかっているのか!?
この流れは、とてもまずいぞ……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます