第53話 すべてをやり切った、その後は
つくしとコンとマナを振り絞り、最後の蘇生に成功。
おかげで俺達は全員を生かして帰る事ができそうだ。
ただこの時点で残り時間はもう五分ほどしかない。
それに俺達や匠美さん達、一位のチームは最終確認でまだ居残っている。
「よっしゃ出るでぇ! 急げ宝春んん!!!!!」
「で、でももう足が動かなくて……」
「何のためにワシらが残ってると思っとんのや! 担いだる! お前ら走れぇぇぇ!」
「「「おおおーーーっ!」」」
けどどうやら心配はいらなかったらしい。
彼等は俺やつくしやコンのために残ってくれていたんだ。
誰一人残らずこのダンジョンから無事に脱出させるために。
そのおかげで、俺達は誰一人欠ける事無く脱出する事ができた。
もちろん、人質も蘇生された人達も余す事なく。
それにしたって本当にギリギリだった。
俺達が脱出してものの数十秒後にダンジョンが消滅を始めたのだから。
だから最後には全員がちゃんといるか何度も確認するくらいだ。
「よぉーし、三回チェックしたからおらん奴はないな!」
「こっちも平気だ。あぶねぇあぶねぇ」
「僕らも平気だけど……遥様がいない」
ただし唯一、司条遥だけがこの場にいないワケだが。
もしかしてアイツ、巻き込まれて一緒に消えたとか無いよな?
「司条遥様は自前の輸送ヘリで一足先に帰られましたよ。メンバーの皆さんの帰りは勝手にしろ、と伝言だけ残していきましたが」
でもすぐ委員会の人がこう教えてくれた。
……まったく、最後の最後までお騒がせな奴だ。
しかも仲間を置いて帰るなんて、人でなしにもほどがあるだろう。
「ま、いいさ。今さら僕達が一緒に帰る義理も無いし」
「なら丁度いいし、一回地元帰ろっかなー。私元々九州出身なんだよね」
「帰りの旅費、委員会で都合してもらえませんか? 我々の荷物はあのヘリの中に置いたままなのです」
「ええ、もちろんですよ」
とはいえ一位メンバーももう振り切ったらしい。
さすがにあそこまで言われて執着なんてできる訳ないよな。
しかし本当に平気なのか、司条遥。
あんな爆弾発言を全国に流されたらメンツなんてあったもんじゃないと思うが。
ボスに醜態晒させられたのも相当キツいだろうしなぁ。
もう一位を名乗れるかどうかすら怪しいんじゃなかろうか。
「僕らはもう帰るとするよ。宝春も関東だったよね? 一緒に帰るかい?」
「あー、ちともう歩くのも辛いんで、今日は予定通りホテル泊まっていきますよ」
「だねー、あたしももうクタクタだよぉ、とけちゃうぅ~~~」
「キュ~~~……」
コンめ、どさくさに紛れてつくしの胸にもたれかかるんじゃない!
なんてうらやま――けしからん!
「そうか、君達の事をもっと知りたかったのだけど仕方ないね」
「ありがとうね、宝春」
「はぁい! お気持ちは後で金一封とかいただけたらそれだけで充分ですぅ!」
「澪奈ちゃん、欲望出てる出てる」
澪奈部長もなんか調子に乗ってるし。
しかし今は突っ込む気力さえ無い。
仕方ないから浮かれ気味な澪奈部長はモモ先輩に任せるとしよう。
まぁモモ先輩も部長の背中を壁にしないと何もできないみたいだけど。
おや、今度は委員会役員のおっさんがきた。
「宝春学園の皆さん、今日は本当にありがとう。君達がいなければトップオブトップスが全滅という最悪の事態もあり得た」
「いえ、機転が利いて良かったですよ。あ、座ったままですんません」
「いやいや、こちらこそ偉そうで申し訳ない……」
今回はきっと委員会も肝を冷やしただろうな。
これに懲りて、今後はプレイヤー同士の対決みたいな事が禁止されればいいんだけど。
委員会も少しは関係していたんだから、それくらいはしっかり対応して欲しいよ。
「良かった! すごく良かったよ宝春! 君達こそ日本の宝だよぉ!」
「あ、すえつぐだ」
「あとで学校に凸とかしにいっていい?」
「ギャラ次第かなぁー? あとは学校が許せば?」
「まぁ学校の方は大丈夫だよ。実は僕、宝春学園のOBだから」
「ウッソ!? 先輩だったん!?」
「今も弟が通ってるしね。いつか行こうと思ってもうアポはとってあるんだ」
すえつぐもきたか。相変わらず調子がいいな。
宝春学園のOBだったのは驚きだけど。
あ、そうか、だから最初の時に俺達を推してたのか。母校だから。
「さて、話はここまでにしておくぞ。みんな疲れているんだからな」
「お、紅先生の登場だ。今回のみなさんの活躍について一言どうぞ!」
「えっ!? あ、ええとぉ、みんな大活躍してくれてぇ、先生も嬉しい、みたいなー?」
紅先生もカメラを前にするとキャラ変わっとるー!
一昔前の女子高生みたいな雰囲気醸し出しとるぅー!
そのワイルドでアダルティな様相でJK気取るのは無理がありますよぉ!
「実は紅先生も密かな人気を博しているんですよ。クールで綺麗な頼りになる美人顧問だって」
「やだもぉ~! 大人をからかっちゃだめなんですよぅ~!」
「あーハイセンセっ! そろそろ行かないとぉ!」
「ああん、急いじゃだぁめぇ~!」
ああ、そこに澪奈部長が合わさって最凶に見える。
モモ先輩が死んだ魚の目で立ち尽くしてしまう程に。
うん、俺達は見てはいけないものを見せられたのかもしれない。
――という訳で俺達はこのままホテルへと帰還した。
色々あったが、結果的に上手くいって良かったと思う。
まさかつくしとも絆ライディングできるとは想像もしなかったし。
でも間違いなく俺は彼女と繋がれた。
それにあの時の心地良い感覚はコンの時でも感じた事が無かった。
これがきっと、人と繋がるって事なんだろうな。
できうる事なら、もう一度あの感覚を味わってみたい。
そう思わずにはいられないくらい、気持ちが良かったんだ。
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