第52話 マナが足りない!
「ケガ人は急いでヒーラーの下へ! どんどん回復するよ!」
「ヒーラー来てくれ! こっちに盾に潰された人質がいる! もう虫の息だ!」
「奥に牢屋がある! けどなんてこった、人質の残りがいるが、これは……」
人質の被害が甚大すぎる。
蘇生にはたくさんのマナが必要になるっていうのに!
しかも人質も被害が甚大ときたか!
これじゃあ俺やコンが個別に蘇生しても到底間に合わないぞ……!
「彼方!」
「――え?」
「あたしもやるよ、蘇生!」
「なっ!? つくしもできるのか!?」
「ちゃんとした効果が出る自信はないけど、そうも言ってられないからね」
つくし……。
たしかに軒下魔宮側のレベル的には蘇生魔法を使えてもおかしくはない。
だけどこの類の魔法は人側の適正が最も重要で、相応しくないとただ大量のマナを消耗するだけになってしまう。
そもそも今のつくしのマナ容量で耐えられるのか!?
ここまでに大魔法使用一回きりとはいえ、俺よりもレベルが低い彼女に。
下手をすればマナオーバーロストで自分の命さえ失いかねないぞ!?
――いや、迷っていても仕方がないんだ。
やれるというのなら、彼女を信じるしかない!
「ならやろうつくし、コン! 俺達で全員を蘇生しきるぞ!」
「そう言うと思って、もう澪奈ちゃんは入口に走ったわ……」
「よし! なら他の確実に死んだと思われる人だけをこっちに連れて来てくれ!」
「何をする気や彼方ァ!?」
「死んだ人を、生き返らせるッ!!!」
「んなバカなッ!? ――ああもぉ! わかった、すぐに集めたる!」
どうやらダンジョン界では本当に蘇生魔法が知られていないらしい。
だからか、こんな事を叫んだ矢先の全員の反応がすごい。
けどみんなもプロなんだな。
だからこそすぐに人質を集め、誰が死んでいるかを確認し始める。
中には大学医学部の人もいるらしく、瞳孔反応を確かめたりと本格的だ。
もっとも、まだ学生だけあって知識を思い出しながらと不安もあるけれど。
ただ、おかげで死者らしき人物が四人に絞られた。
そこで俺達は各一人に蘇生魔法を使用。
その結果つくしも成功し、なんとか三人は蘇生できた。
だけど……。
「あと一人や!」
「けど俺もコンももうマナが残り少ない……くっ」
もうだめだ、力が残っていない。
これじゃ最後の一人を蘇生するのはもう。
せめてあと一時間あれば……!
「彼方!」
「えっ?」
「最後の一人、一緒に、がんばろ……!」
「つ、つくし……?」
でもそんな時、地面に着いた俺の手につくしの手が添えられる。
とても暖かくて、やさしい感触が伝わってきた。
つくしも相当に消耗しているだろうに。
心地いいな、つくしの優しさを感じるようで。
なんだかこのまま眠ってしまいたくなる温かさだ。
――あ、まさかこれって……!?
今気付いた。
やっと気付いてしまった。
この感覚はそう、コンと触れた時ととても似ているんだって。
……だったら。
「ならつくし、俺にちょっと力を貸してくれないか?」
「うん、いいよ。彼方ならなんとでもしてくれるって、わかってるから」
「キュ!」
「よし、それなら一緒にがんばろう。この人を生き返らせるために」
「うんっ!」
そこで俺は添えられたつくしの手を掴み、コンの手も取る。
そして集中するんだ。二人のマナを一点に集中させるために。
ああ、流れて来るのがわかるよ。
これがつくし、君のマナの心地良さなんだね。
俺の事を信頼して、慕ってくれている……そんな気持ちが伝わって来るかのようだ。
……よし、これなら届く。
このマナ量なら、あと一人くらいは何とかなるぞ!
ゆえに俺は残るマナをほとばしらせ、最後の蘇生魔法を放った。
――その結果は、成功!
これで四人の蘇生をみごと完了させる事ができたのだった。
これは間違い無く絆ライディングの力。
俺はつくしとも心が繋がり、マナを共有する事ができたんだ。
でもまさか今さら人とマナティクスライドできるとは。
俺は父さんとも母さんともまだできていないというのに。
父さんと母さんの二人同士ならできるんだけども。
一体どうしてなのだろうか。
理由がまったくわからない。
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