第43話 残虐非道のレッドオーク達

 東北チームと別れて左ルート――森林大部屋へと向かった俺達。

 だがその先には、なぜか通路の前で座らされている人質と、前に進めずに二の足を踏む五位チームの姿が。


 人質は通路と大部屋の境くらいにいる。

 ちょうど部屋入口の壁にするような形で放置させられているんだ。


 でも俯いて動かないし、それ以外に特筆する所は見えない。

 強いて言うなら腰が縄で縛られているように見えるくらいか。


 ならなんだ、何に怯えているんだ彼等は。


「女の子!? なら助けなきゃダメっしょ!」

「うっ!? ダメだ澪奈部長ッ!」


 そんな人質に反応し、澪奈部長が勢いよく飛び出す。

 しかしそこで俺は咄嗟に彼女を追い、即座に手首を掴んで引き込んだ。


 するとその途端、彼女が飛び出そうとした場所に矢がいくつも突き刺さる!


「これは罠なんですよッ!」

「うっそ……ごめ、助かった彼方っち」


 間一髪だった。

 少しでも遅れれば澪奈部長は蜂の巣にされていたかもしれない。

 奴ら、レッドオーク共の用意周到な射撃によって確実に。


 そう、これは罠だったんだ。

 あの女子を囮にして俺達を誘い込むという。


 そしてまんまと引き寄せられた所で蜂の巣にするという算段か!

 用意周到すぎるだろう!? 軒下でもここまでやる魔物はいなかったぞ!?


「あいつら完全に武装しきってやがんだ! 一日置いたから準備も完璧ってなぁ! これじゃもう勝負だとか言ってられねぇ……!」

「でもそんな武器、どこから……」

「武器庫だよぉ!」

「なっ!?」


 なんだって!? 武器庫から持ち出した!?

 あの武器庫はプレイヤー用に用意されたものじゃないのか!?


 まさか魔物まで使える、だと……!?

 それってダンジョンが決して俺達の味方ではないって事なのか……?


「じゃあ矢もまさかあの部屋から!?」

「おぉ、だから相手の弾切れは期待すんなよぉ? 武器庫の装備は基本無限だって言われてるくらい、いくらでも沸くからな! しこたま溜め込んでるだろうぜェ!」

「こんな事なら意地はってないで六位から十位も呼んで欲しかったわ!」

「なんや遥の奴ゥ!? そんな人数制限までしとったんかいな! ったくしょーもない事しよるでホンマァ!」


 これはさすがのトップスでもまずい案件らしい。

 だからかライバルなはずの五位が俺達にも情報を提供してくれている。

 それだけ厳しい状況なんだ。


 正面にはバリケードと人質の肉壁。

 迂闊に通路を抜ければ全方位射撃。

 しかも壁が邪魔で先がまったく見えないから、内部の障害物の配置も不明だ。

 たしかに、これじゃ突破さえ至難の業か。


「さすがにどこから撃ってくるかもわからん相手だとワシでも対処できへんな」

「地形をうまく利用してるわね。死角がない」

「凜でも狙えへんか。こりゃあかん」

「下手に飛び出すと一網打尽にされかねねぇ。盾持ちもそこまで多くねぇからな」


 匠美さん達もお手上げみたいだ。

 二人して渋い顔をしていて悔しそうにしている。


 バリケードは木材でできているから、木々を切って即席で作ったんだろうな。

 こうも準備万端となると物資切れも期待してはいけない。

 レッドオークってやつはそこまで知能が高いか……!


 なら、これをどう対処すべきか。


「こいつぁ籠城戦やな。さしずめ、先日の戦いで数を減らされたもんやから慌てて防御に徹する事にしたってぇトコか」

「だなァ。入口のアレもそんな豚どもの浅知恵だろうぜ。〝来ないでくれ~〟ってな」

「んなら構ってたってしゃない。ここは一旦スルーしよか」

「それにゃ同意だ」


 え、ここを引き上げる?

 本当にいいのかそれで?

 なんだ、あっさりと状況に流され過ぎやしないか……?


 ……嫌な予感がする。


 なぜわざわざここで籠城する必要がある?

 なぜ人質を利用して煽るような事までして防御に徹する?

 そもそも奴らに長い時間を立てこもれる備蓄と乗り切れる算段があるのか?


 違和感だらけだ。

 ならどうして……?


「だぁ~! 悔しいなぁ、すぐそこに人質がいんのにぃ!」

「悔しい気持ちはわかるけど、こういう時こそクレバーにいかなあかんよ?」

「っしゃ、ここはひとまず撤収するで! まずは右ルートに――」


 はっ!? そうかわかったぞ、違和感の正体が。


「いや待ってください! ここを離れてはいけない!」

「「「なっ!?」」」


 これはレッドオーク達の巧妙な罠なんだ。

 俺達にあえて引き返させるためのな……!

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