第42話 負けるな! ダンジョン対決開始!

「武器を選んでいる暇はねぇぞおっ! 急いで来いっ!」


 すでに奥へ行ってしまった司条遥の代わりに、匠美さんが先行してくれた。

 ただもう敵が襲ってこないとわかっているので躊躇いはほとんどない。


 だから武器庫に着いたら即座に自分達の得意武器を手に取っていく。

 誰も彼も手馴れていて、迷いなく変身までしてみせていた。


「彼方、今回も武器は斧?」

「いや、今回は最初から素手でいくよ。さすがに今回はわがままを言う気になれないからさ」

「おっけ!」


 それはつくし達も同じだ。

 すぐに自分達の得意武器を見つけ、手に取る。

 そしてその姿を変えるのだ。


 今までとは違う、高ステータス値に相応しい神々しき装備へと。


 つくしはパステルカラーが目立つ大きなリボン付きのドレスに変わった。

 本人がとても喜びそうな、フリフリも付いたとても可愛い衣装だと思う。


 澪奈部長は更に軽装っぷりが加速していて肌の露出もすごい。

 だが各所のパーツが仰々しいまでに凝っていて、おまけに白銀の装飾が派手だ。


 モモ先輩は漆黒の翼を四枚も背中に生やした黒ローブになっている。

 おまけに各裾元から黒いオーラが漏れていて表情どころか顔すら見えやしない。


「な、なんや宝春その姿は!? 明らかにおかしいやろ!?」

「ま、まぁちょっと装備変化のコツ?みたいなのを発見しちゃってぇ~!」

「ちぃぃ! 聞きたいけどそれどころじゃあらへん! もぉー!」

「ちょっと間宮君、あなた素手で行く気なん!?」

「そうですよ。ステータス値見れば理由はわかると思います」

「ステ?――は、はあああ!!? 腕力829って、重戦士レベル49のタクの十倍以上はあるやんか!? なんねんこれバグっとるんかあああ!?」


 俺に関してはもはや今さらかな。

 数値がおかしすぎて、冷静な凜さんの方がバグってしまった。すみません。


「り、理屈はともかく心強いに変わりはないわ。ほなら行くで!」

「「「おお!」」」


 でも今はそんな事を気にしている暇なんて無い。

 みんなそれがわかっているから好奇心を抑え付けて先へと走り始める。

 とはいえ、せっかくだからその間に匠美さん達の能力も見せてもらう事にしよう。


 ふむふむ、匠美さんは槌矛メイスと大盾の組み合わせで重装甲の重戦士ヘビーウォリアー49か。防御重視の盾役だな。

 一方の凜さんは大弓使いの弓術士アーチャー51。走る中であろうといつでも撃てそうな体勢なのが型にハマってる感じだ。

 他のメンバー達もしっかりバランスの取れた構成で無駄が無い。

 さすがトップオブトップスのナンバーツーを張るチームなだけの事はあるな。


 そう感心していたら、さっそく分かれ道が見え始めた。

 三又に分岐したルートだ。


 これは先日の動画でも見た場所。

 先日では攻略チームが三隊に分かれ、本隊が中心へと乗り込んでいった。

 そして通路から迫る敵を倒しつつ、奥の大部屋に辿り着く。


 その先で彼等は説得を試み、失敗に終わったのだ。


 後は思い出したくも無いくらいに酷いありさまだった。

 本隊は当然のこと、分かれた部隊も即座に包囲されて逃げるので精一杯で。

 その際に捕まったと思われる人数は、委員会によるところ九人って話だ。


「見ろ、中央ルートの壁を」

「あれは……マーキング?」

「せやで。司条遥が残した足跡や。あのドリル、自分達が進む道には必ずこうやって印を付けるんや」

「そうやって自分の戦う場所を示すのか」

「ああ。それと同時に『この先は自分達の場所だ』って示してもおる。それを破る奴はどさくさに紛れてあの女に獲物をかっさらわれるって寸法よぉ」

「独占欲の権化だねぇ……!」


 まったく、戦いに関しても面倒臭い奴だ。

 できる事なら今も関わりたくないよ。


 ま、無理に関わる必要はないんだけどな。


「……なら中央はアイツに任せましょう」

「ええんか?」

「どうせアイツにやられるボスならもう終わってます。そうでなくとも時間稼ぎにはなるでしょう。ならその間に他二部屋を制圧して外堀から人質を助けた方が効率がいい」

「でも足跡は左右どちらにもあるよー?」

「四位五位が分かれて進んだんだろうねぇ」

「関係無いよ。必要なら共闘すればいい。目的をはき違えちゃだめだ」

「……よぉしわかった。ならそれでいこか!」

「だったら俺ら東北組は右ルートに行こう!」

「ほならワシらは左に行くで! 宝春、ついてこいや!」

「「「了解!」」」


 たしか動画を見る限り、左ルートには大部屋が待っている。

 洞窟内にもかかわらず木々が生い茂る広大な森林空間だ。


 それに対して右は石柱が乱立するだけの殺風景な狭めの部屋があるだけ。

 人員を割くなら左を多めにするのが定石だろう。

 その事を匠美さんもわかっているから俺達を連れ出したんだ。

 

 けど走っていたら先にもう人影が見え始めた。

 人数が多い……って事は五位のチームかな。


 ただ全員が揃って通路の途中にいる。

 屈んで先を見るだけで進もうとはしない。

 まるで何か様子をうかがっているかのように。


「どうしたんやお前ら、先進まんのかいな!?」

「進もうにも進めねぇんだよォ! 見ろ、あれを!」

「「「え……」」」


 だがその理由はすぐにわかった。

 彼等が通路の先を指差した事によって。


 人だ、人がいる!

 裸の女子が通路の先、大部屋の前で板壁を背に座らされているんだ!


 なんであんな突拍子も無い所に人質が!?

 何なんだこの違和感、これじゃあまるで――

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