第3話 たわけ! 次は、夜の運動じゃ!

//SE 玄関のチャイムが鳴る音


「こんばんは。『眠れぬ夜の寝かしつけサービス』から参りました」//インターフォンに向かってに明るく


//SE 玄関ドアが開く音

//スーツの女性が入ってくる


「毎度のご利用、ありがとうございます。失礼致します」//口調はやわらかいが、仕事モードで


//SE 玄関ドアが閉まる音


「気に入って頂けましたようで、連日のご指名ありがとうございます。早速ですが、シチュエーションは『ハイエルフのロリバ……コホン、ロリBBA(ビービーエー)と異世界転生の新米冒険者』でよろしかったでしょうか?」


「オプションの『名前を付ける』を頂いておりますね。私の名前は『ターコイズ』……と。宝石がお好きなのですね」//ニコッ


「他にオプションは……ダイヤ様からのご提案でメニューに加わりました『夜の運動』早速ご利用頂きまして、ありがとうございます。こちら大変ご好評頂戴しておりまして、一昨日にオプションとして追加させて頂いたのですが、すでに八名様にご利用頂いております」


「ダイヤ様のお名前は、そのままでよろしいでしょうか? では僭越ながら、『ダイヤ』と呼ばせて頂きますね」


//少し沈黙があって


「それにしても……思い切りましたねぇ……」//感心したように小さな声で


「あ、いえ。失礼致しました。なんでもございません。では着替えて参りますので、寝室をお借りしますね」


//SE 寝室の引き戸を開ける音

//寝室にひとり入る

//SE 寝室の引き戸を閉める音

//SE ポンチョを被ったり、腰布を結んだりする、着替える音

//SE 少しあって、寝室のドアをドンドンとノックする音


「ダイヤ! ダイヤはおるか!」//声は出来ればロリっ娘っぽい声色、だが尊大な老人口調で


「ワシじゃ。ターコイズじゃ。稽古をつけにきてやったぞ!」


//SE 寝室の引き戸を勢いよくガラッと開ける音


「ダイヤ、ま~た鍛錬をサボっておったな? 一人前の冒険者にしてくれと、額を土にこすりつけて頼みに来たのはお前じゃぞ。悪い奴ではなさそうだから、森の外れに家まで用意したやったというのに。お前は、いつも座ってその四角い板を観ておる!」


「なんと言ったかの? ス……ス……」//思い出そうと


「そうじゃ。『スマホ』じゃ! どんな魔法か知らんが、絵が動いたりしておる。……そんなに面白いのか? ワシにも見せてみい」//興味津々にスマホを覗き込む


//距離が近くなる


「これは……おぬしの絵じゃな。この女は? オシ? オシとはなんじゃ? ほう、嫁? おぬし、そんな情けないていたらくで、よく結婚が出来たな。こっちの女は? なに? こやつも嫁なのか? こっちも、こっちも、こっちも?」//驚く


「おぬしの世界は、一夫多妻制なのじゃな。よく分からんが嫁が集まるということは、おぬしにもなにかしらの魅力があるのじゃろう」//納得


「じゃがこの世界では、自分の身くらい自分で守れるようでなくては、一人前の男として立ちゆかぬ。今日は、子ども用の模造剣を持ってきた。いつものメニューの腹筋、背筋、スクワットを二百回ずつに加え、そのあと模造剣での素振りを千回じゃな」


    *    *    *


//SE 剣を振る音


「五百九十八、五百九十九、ろっぴゃ~く」//やる気なさそうに


「……ふあ~あ……」//豪快に欠伸


「遅いのう。三十歳……人間で言うと五歳児じゃが、そのくらいの子どもでも、倍の速さで剣を振るぞ。あんまり遅くて、ワシは眠くなってしもうた」


「ふあ~あ……」//再び欠伸


「先に、風呂を貰うぞ。あっちの扉か?」


「魔法でちゃんと見張ってるからな。サボったらもう千回じゃぞ」


//SE 風呂の折り扉を開ける音(ユニットバス)


「あ、それから。覗いたらもう千回追加じゃからな!」


//SE 風呂の折り扉を閉める音

//SE 服を脱ぐ衣擦れ音

//SE 蛇口をひねってお湯を出し、シャワーのお湯が肌をはじく音


「(機嫌良く、鼻歌を歌う)」//浴室内にリバーブのように響く


//SE ボディソープを付けたスポンジで身体を洗う音

//SE シャンプーを泡立てたり、リンスをする音

//SE 再びシャワーを浴び、泡を洗い流す


「(ときどき鼻歌を歌いながら)」//リバーブ


//SE 髪や身体をバスタオルで拭く音

//SE 服を着る衣擦れの音

//SE ドライヤーで髪を乾かす音(マイクに直接風を当てない)

//SE 風呂の折り扉を開ける音

//SE 風呂の折り扉を閉める音


「ふぁ~! いい風呂だったぞ!」//さっぱりして陽気に


「で? 何回まで振った、ダイヤよ。ほほう……九百二回までか。感心感心」//上機嫌


「実はのう……」//含み笑い


「ワシが素人にまず剣を振らせるのは、根性を試すためでの。構えもなってない内に、千回も振ることに意味はないのじゃ」


「ふふふ、まあそう怒るな。これで、おぬしが一人前の男になれる素質があることが分かったんだからの」


「褒美に、アッチの方もオトコにしてやってもよいぞ……?」//右の耳元で囁く


//距離は近いまま


「(爆笑)赤くなりおってからに。たわけが、冗談に決まっておろう。そういうことは、好いた者とすることじゃ」//多少説教っぽく


「それでおぬし……好いてる者はおるのか? 半人前でも嫁がたくさん居るおぬしじゃ、この世界で一人前になったら、女どもが放っておくまい」


「ほほう、おるのか。ふふふ、行く末が楽しみじゃのう」//含み笑い


「ニンゲンというのは、わずか百年ほどで生涯を閉じる。その内、子を成せるのはせいぜい十五から四十五(しじゅうご)くらいの間じゃ。好いた者がおるのなら、すぐに一緒になって、子を成せ。それが、今のおぬしにワシが伝えられることじゃ」//真面目に


「なに? ワシには好いた者がおるのかだと?」


「んん~、そうじゃな~」//悩む


「もし明日も素振り千回に耐えられたなら、教えてやっても構わんが?」//少し好戦的に


「どんな輩か知りたいだと? んんん~」//悩む


「好いておると言うか……気になる輩なんじゃが。ニンゲンでのう。ワシは永遠の命を持っておるが、ニンゲンは百年じゃ。好いた者が、自分より先にこの世界から居なくなると考えると……あっ」//声が震えて涙がポロリと零れる


「だ、大丈夫じゃ!」//鼻をすすって、大慌てで袖で拭う


「問題ない! おぬしがワシの心配をするなど、五百年は早いのじゃ! ワシは……」


//SE 言葉を遮ってピピピ、というタイマー音

//SE いつもより少しだけ長く鳴ってからピ、と止める音

//距離を取る


「……ありがとうございました」//仕事モードに戻る。少しだけ硬い口調


「お風呂を頂いたので、ポンチョの下にスーツを着用させて頂きました。失礼して、ポンチョを脱がせて頂きます」//無理をして明るい声を出そうとするようなニュアンスで


//SE ポンチョを脱ぐ衣擦れの音


「え? オプションの『夜の運動』でございますか? ふふ。今、運動されましたよね? あれが『夜の運動』でございます」//明るさを取り戻す


「あ……いえ。涙はサービスでございますので、ご心配なく。気になって眠れない? 

ふふ。それでは、またのご利用をお待ちしております」


「改めまして。ダイヤ様、『眠れる夜の寝かしつけサービス』毎度のご利用、ありがとうございました」


「同じシチュエーションでしたら後日談などご用意させて頂きますので、ぜひ。ぜひまた、ご指名くださいね」//明るく


//SE 玄関ドアの開く音


「それでは、失礼致します」//仕事モードで


「おぬしはワシが、一人前の男にしてやる。また明日も、な」//ドアが閉まる直前、シチュエーションプレイの口調で。ツンデレがデレたときの恥ずかしそうな小さな声で


//SE 玄関ドアの閉まる音

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