歓喜の歌 第1回短歌・俳句コンテスト短歌の部二十首連作部門参加作品

平 健一郎 (たいらけんいちろう)

歓喜の歌

せめぎあう波間に拒否と許しあり奔馬のごとく息荒し


唇に火のさくらんぼふれる夜アリアの響きひそめているか


月光に薄瞼閉づ眠れざる蝶を吐くとき恍惚として


夜桜のひとひらつかむ旅人にひたすら愛す翼あたえよ


一滴の血に火と水の契りあれ潮の香ふくむ夜風の歌に


野良猫も一族として路地にあり曼陀羅ひとつ祭囃子よ


三日月の繊き光の降る部屋に人のかたちを抱くかなしみ


蕩尽の花の睡りに蘂ひらく血の曼珠沙華わたくしの野辺


駅前の夕暮れ色の雑踏に頬撫づ風の手ざわり求め


せせらぎの無傷のひかり鳥となれ無数の空に鳴き交わしつつ


海の底うねりの奥に純潔のマリンスノーは降りつむ無音


粉雪と同じ速度の目線落ち手相の迷路ふれゆく指よ


あえかなる薔薇の香の湯に浮かばせるマリアの乳房ある聖五月


肉感のめざめうながす雨音よ地上にとどめ生かそうとして


息で撫でたしかめてみよわたくしは翼はためく石像のニケ


カプチーノ半透明の人としてポインセチアと待ち人となる


白銀の蜘蛛の糸なら華となり抱きたし君は鳩のまなざし


奏でたる万里の草の薫風に歓喜の歌を告げたき朝よ


かなしみはかなしみとしてありのまま微熱の息の交響曲に


星月夜すべての命それぞれに街の未明を生きてゆくこと

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