第6話
卒業式間近になって、私の学校は彼女の噂で持ちきりだった。国立大学に受かったからではなく、彼女がその合格を蹴ったから。
親と大喧嘩の末に絶縁まで言い渡されたらしい彼女は、卒業式に出席しなかった。高校も中退扱いにしろと怒鳴り込んできた親に、学年主任の先生がなにやら男気を見せたそうだけどあまり興味がなかったので詳細は知らない。
彼女以外に知り合いと言える人間のいない私は、卒業式でもボッチのままで、誰からも声を掛けられることなく母校をあとにした。あ、担任の先生だけは声を掛けてくれたけど。
「心配だよ、色々と」
「お世話になりました」
「いつでも顔を出してくれていいからな」
「はい」
「……心配だよ、色々と」
「なぜかしら」
ちゃんと返事をしたつもりだけどますます心配の色を濃くされる先生の対応には謎が深まるけれど、目下の所、私がもっとも悩んでいるのは大学が始まるまでの間は、どこで暇を潰せばいいのかということだけだった。
せっかくなのでバイトでも探そうか。そんなことを考えていた私に声を掛けてくれたのは、卒業式に出なかった彼女だった。
「久しぶり!」
「そうね」
「心配した?」
「ええ」
「ごめんね」
「別に構わないわ」
元気そうな彼女だけど、もしかしたら元気がないのかもしれない。私が彼女を心配してもいいのだろうか。
「アメリカに行くんだ」
「そう」
「実はこっそり学校に隠れてバイトしてたんだよね」
「そう」
「うちの親はすんごい怒ってるけど、おじいちゃんとおばあちゃんが守ってくれたんだ」
「そう」
「聞いてる?」
「返事してるじゃない」
「……ありがとうね」
「なにがかしら」
「ずっと甘えさせてくれて」
甘える?
彼女は何の話をしているのだろう。
「貴女だけ。あたしの話をずっと聞いていてくれたの。他の人は、色んなこと言うの。それが……善意だとしても、そうじゃないって思うこともあって。でも、そう言うと勝手を言うなって、自慢かよってみんな……怒るんだよね」
何かを言うべきだろうか。
彼女は何か勘違いをしている。私はそんな特別なことはしていない。ただ、トロいだけだ。何か、言うことがあるのではないかと思っても、それが考えられないだけだ。
「だから、ありがとう。どうしても行く前に……伝えたかった」
「……私は」
「あたしね。貴女のことが好きよ」
「私は……」
「大! 好き!」
「……私も、好きよ」
笑う彼女の顔が、なんだかとても……。
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