第3話


「勉強教えて!」


「私の方が成績は下よ」


「訂正する。サボらないように見張ってて!」


 トロい私が悪いのだけど、説明できるほどコミュニケーション能力に自信はない。

 ボッチであることは窮屈ではないけれど、誇りでも決してなくて、結局の所自分から声を掛ける勇気がない弱い自分がいるだけの話。だから、彼女が何度となく声をかけてくれたことは嬉しかった。

 明るい彼女は友達が多くて、いつも忙しそうだった。だから、頻繁ではないけれど、でも、時折声を掛けてくれることが嬉しくて。……まあ、待ち望んでいる自分がいるともいえる。


「勉強しないの?」


「国語の勉強をしているわ」


「範囲違うけどね」


 今日も今日とて私は放課後の教室で本を読む。そんな私の横で英語の問題集を開いた彼女は、サボるどころかすごい速さで問題を解いていく。成績上位の彼女がどうしてそこまで勉強する必要があるのだろうかと思うけど、これだけ勉強するから成績上位なんだと当たり前のことに気が付いた。


「あたしさ」


 再び彼女が口を開いたのは、問題集の科目が二つほど切り替わっていた時のことだった。


「海外に行きたいんだよね」


「そう」


「でも、親も先生もきちんと大学に行きなさいって言うんだ。お前なら国立大学にだって受かるから馬鹿なことを言うなって」


「そう」


「なんか悔しくてさー」


「そう」


「聞いてる?」


「返事してるじゃない」


「それもそっか」


 相づちを打つくらいしかできないのだから仕方がない。彼女の話はスケールが大きすぎるのだ。私なんて模試を受けるたびに先生が眉をひそめるレベルなんだから。私だって頑張っては……いないか。


「この話さ」


「ええ」


「自慢とかじゃないんだよ」


「そうでしょうね」


「……へへ」


「なに?」


「べっつにー」


 随分と機嫌を良くした彼女が問題集をもう一冊片付けて、学校の門を出るところまで一緒に帰った。意味が分からないので考え続けて、夜ご飯の時もお風呂の時もずっと考えて。


「ああ、国立大学に受かるってところが自慢に聞こえてしまうのね」


 謎が解けた私は、すっきりと寝ることができた。

 テストの結果は、すっきりしなかったけど。

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